17 / 79
一章【鬼神に取り憑かれし者】
十七話
しおりを挟む
泰正は、鬼神の意識に引きずられぬよう、結界が張られた部屋の中で白い衣を着込み、胡座をかいて集中していた。
鬼神はずっと甘言を囁いている。
“我と同化すれば、あの男はお前のものだぞ”
――答えてはならぬ……!
五芒星の陣の中で、瞳を閉じて“六根清浄急急如律令”を唱え続け、時が満ちるまで鬼神を抑ええつけなければならないのだ。
甘言に耳を傾ければ、おしまいだ。
――英心に、危害を加えるような真似は、決してできぬ……!
「泰正」
「……っ」
優しい呼び声に、泰正は目を開き、視線を声の方に向けた。
そこには、狩衣姿の英心が佇み、穏やかな笑みを浮かべている。
居るはずがない……鬼神が見せている幻だと分かっていても、視線をそらせない。
「……英心」
名を呼ぶと、彼は静かに歩みよって来て、泰正を囲む陣の前で足を止める。
「この中に入れてくれないか」
「そ、れはできない」
「お前を抱きしめたい」
「……っ」
泰正は、焦がれる男が求める声に息を呑んだ。
両手を広げた英心は、口元を緩め、慈しみの目を向けていた。
泰正の胸はこの上なく高鳴り、今すぐその胸に飛び込みたい衝動に駆られる。
――い、いかん!
視界から幻を消すため、目を閉じるが、愛しい男の幻影は、脳内にまで入り込み、誘惑の言葉を吐き出す。
「泰正、私の泰正……お前の傍に行きたいのだ」
――消えろ……頼む……!
泰正は拳を握りしめ、己の腿を何度も叩く。
いっそ舌を噛み切りたくなるが、英心の声が意識を引きずり戻す。
「泰正!」
「……っ」
一際大きな声で呼ばれて、目を開けると、英心が険しい顔つきで見据えていた。
一歩、近づくその姿に、泰正は自然と立ち上がり、陣の中から外へとふらふらあるき出す。
――駄目だ……止まれ……!
陣から出れば、おしまいだ。
鬼神に呑まれるのに……。
だが、あの英心が、焦がれ続けた男が……己を抱きしめたいと、望んでいる……。
この機を逃せば、永遠にその温もりを知る事はないだろう。
「泰正!」
「英心!」
泰正は、陣の中から飛び出して、英心に思い切り抱きついた。
鬼神はずっと甘言を囁いている。
“我と同化すれば、あの男はお前のものだぞ”
――答えてはならぬ……!
五芒星の陣の中で、瞳を閉じて“六根清浄急急如律令”を唱え続け、時が満ちるまで鬼神を抑ええつけなければならないのだ。
甘言に耳を傾ければ、おしまいだ。
――英心に、危害を加えるような真似は、決してできぬ……!
「泰正」
「……っ」
優しい呼び声に、泰正は目を開き、視線を声の方に向けた。
そこには、狩衣姿の英心が佇み、穏やかな笑みを浮かべている。
居るはずがない……鬼神が見せている幻だと分かっていても、視線をそらせない。
「……英心」
名を呼ぶと、彼は静かに歩みよって来て、泰正を囲む陣の前で足を止める。
「この中に入れてくれないか」
「そ、れはできない」
「お前を抱きしめたい」
「……っ」
泰正は、焦がれる男が求める声に息を呑んだ。
両手を広げた英心は、口元を緩め、慈しみの目を向けていた。
泰正の胸はこの上なく高鳴り、今すぐその胸に飛び込みたい衝動に駆られる。
――い、いかん!
視界から幻を消すため、目を閉じるが、愛しい男の幻影は、脳内にまで入り込み、誘惑の言葉を吐き出す。
「泰正、私の泰正……お前の傍に行きたいのだ」
――消えろ……頼む……!
泰正は拳を握りしめ、己の腿を何度も叩く。
いっそ舌を噛み切りたくなるが、英心の声が意識を引きずり戻す。
「泰正!」
「……っ」
一際大きな声で呼ばれて、目を開けると、英心が険しい顔つきで見据えていた。
一歩、近づくその姿に、泰正は自然と立ち上がり、陣の中から外へとふらふらあるき出す。
――駄目だ……止まれ……!
陣から出れば、おしまいだ。
鬼神に呑まれるのに……。
だが、あの英心が、焦がれ続けた男が……己を抱きしめたいと、望んでいる……。
この機を逃せば、永遠にその温もりを知る事はないだろう。
「泰正!」
「英心!」
泰正は、陣の中から飛び出して、英心に思い切り抱きついた。
0
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる