陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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四章【焦がれを抱きて】

五話

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 泰正は、永響の温もりに包まれて微睡みの中にいた。
 頭や背中を優しい仕草で撫でられて、なんとも心地が良い。
 彼の声が、子守唄のように脳内に響く。

「帝には困ったものだ。私の気を引くために鬼憑きを利用するとは」

 ――帝……鬼憑き……。

「私は泰正、お前以外に誰もいらない。このまま私を、英心の代わりに想っていればいずれ楽になれる」

 ――身を委ねれば……。

 泰正は安らぎを感じて、どこにも行きたくないと思っていた。

 意識を沈ませようとした時、物音に起こされた。

 永響から身を離した瞬間、部屋にいるように告げられて、一人にされてしまう。

「……英心」

 永響は、出迎えた客人を冷めた目つきで見据えた。
 老年の陰陽師が連れてきたのは、帝である。

 ――この陰陽師は、確か賀茂忠行といったな。

 忠行は永響に丁寧に挨拶をすると、帝に声をかけた。

「帝、こちらへ」
「永響よ……朕を覚えているか」

 帝の言葉に永響は頷くと、一言告げる。

「忘れることはない」
「な、永響!」

 帝は目を輝かせた。
 その姿を見た永響は、心が冷えていくのを感じた。
 思えば不思議である。
 もののけと変わらぬ己が、このような感情を抱くとは。

 だが、どうしてもこの人間は気に食わないのだ。

「私が求めるのは、泰正ただ一人だ。去るがいい」
「……っわ、分かっておるぞよ」
「帝!」

 忠行が帝に向かって焦った声を上げる。
 後ろに控えていた鬼憑きの者達が、わめき声をあげはじめた。

 忠行の様子を見るに、何か術をかけているらしい。
 見た瞬間に感じた事は、間違いではなかったようだ。

「泰正など、要らぬ!」

 帝が叫んだ瞬間、邪気が発せられて、鬼憑き達から黒い影がうかびあがり、大きな塊が宙に現れた。
 永響は、その塊が泰正を狙っているのだと分かり、手を掲げて阻止を試みるが、塊は威力を増していく。

 ――強い。まるで怨念だ。

 鬼憑き達は次々に倒れ込み、帝が叫んだ。

「朕は決してそなたを諦めぬ! 泰正を新たな鬼憑きにして死なせたくなくば、朕を受け入れよ!」
「……嘆かわしい」 

 一言つぶやいた永響は、ふいに何かを感じて振り返る。

「何故!」

 そこには、虚ろな目をした泰正がいたのだ。


 少し離れた先で、羽織で姿を隠しながら見守る英心は、泰正が現れたのを見て動揺する。

 ――ま、まずい! 一度鬼に憑かれた為に惹かれやすいのか!

 泰正に取り憑いていたのは鬼神だ。
 あの黒い塊は、帝の執念を感じる。

 英心はとうとう羽織を脱ぎ捨てて、駆け出した。

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