陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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四章【焦がれを抱きて】

十二話※

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 とうとう運命の夜を迎えた泰正は、寝床でジッとしていられず、掛け布団を頭から被り、這い出て部屋の隅で固まっていた。
 蝋燭の明かりも灯さず、わずかな月明かりに照らされる中で息を潜める。

 緊張から身体の震えが止まらない。


 ――ほ、ほんとうに来るのか……!? き、来たとしても、どうするつもりだ……!?

 その時、耳が何かの音をとらえた。
 何かをこするような音だが、泰正にはわかる。
 これは……。

 ――足音……!

 やがて足音は部屋の前でとまり、ゆっくりと戸口が開く音が響いた。
 泰正は瞳を閉じて、どうなるのかと微動だにしない。

「泰正」
「……っ」

 緩やかな風が吹き込み、背後に気配が忍び寄る。
 そっと被っていた布団を取られ、背中から包み込む温もりに硬直してしまい、声も出ない。
 頭が真っ白になって、己の呼吸がやけにはっきりと鼓膜に響く。

 英心は無言で泰正の胸元に手を回してきて、その熱さに身震いする。

「……え、英心、やめてくれ」

 やっと声が出せたものの、震えている上に、蚊の鳴くような声で泣きたくなった。
 英心が笑いながら耳元に囁く。

「何を恥ずかしがる? あの文に答えただろう。何より私達は夫婦だ」
「……っ」

 夫婦という言葉に、泰正の胸は高鳴り、口から心臓が飛び出しそうだ。
 瞳を見開いて思わず叫ぶ。

「帝の戯れであろう!?」
「ははっなんだ、元気じゃないか」
「ひっ!?」

 いきなり肩を掴まれて身体を反転させられてしまう。
 泰正は、目の前に迫る愛する男の顔に見惚れてほう……と、息を吐いた。
 先程の緊張感とはうってかわって、今は頭がふわふわしている。

 ――ど、どうしたんだ……私は……?

 英心の瞳が細められて、せつなそうな吐息を吐き出す。

 ちゅっ。

 小さな可愛らしい音が響いた……唇を塞がれたのだ。
 泰正は抱きしめられて身動が取れず、されるがまま、口づけを受け止めた。

 瞳を見開いたまま、口の中に入り込むぬるりとした舌に求められるままに、己の舌を絡める。

「……んふ、うふ……!」

 ――い、いきがあっ舌が、あ、あつい!

 英心の舌使いは激しくなり、それに合わせる泰正も、己の舌をせわしなく動かす。

 恥ずかしい水音が静かな空間に響き渡り、いつの間にか泰正は英心の背中に腕を回して、口づけに夢中になっていた。

 ――英心……英心……!

 泰正は身体中から力が抜けてしまい、英心に抱きついた体勢のまま、仰向けに寝転がる。

「……ふはあ」
「ん……泰正……!」

 やっと口づけから開放されて浅い呼吸を繰り返す泰正に、英心が優しく甘い笑みを向けて、とうとう烏帽子を脱いで、髪を解いた。
 泰正もとっくに髪を晒してはいたが、すっかり己の格好に無頓着になっており、胸元がはだけている事実に、今更気づいて慌てる。

 ――い、いつの間に……!?

「泰正」
「な、なん、なんだ?」
「あの男よりも、気持ち良かったか?」
「……あ、あの男?」

 問われた意味が理解できず、英心に覆い被さられた状態で視線を交わして困惑した。
 ふと脳裏にはある光景が蘇り、息を呑む。

 ――永響の顔が、迫ってきて、私の唇を塞いだ……!

 意識が朦朧としていたのだろう。
 己の中の負を、彼が取り除いてくれたのは明白だ。

 英心は、永響との口づけよりも、気持ち良かったのかと問うているのだ。

「……っい、いえるかそんな……!」

 頬が熱くなり、思わず英心の胸を押すがびくともしない。
 さらに体重をかけられて、頬をなめられてしまう。

「ひう」

 まさか頬を嘗められるだなんて、思いもよらず、泰正はたまらず悲鳴を上げる。
 宥めるように頭を撫でられた次の瞬間、胸の敏感な部分……片方の突起を摘まれた。

「くふうっんンッな、何を……?」
「泰正……」

 英心の頭が胸元に寄せられるのを見た泰正は、慌てて声を荒らげてその頭を掴んだが、止められるはずもなく、呆気なく突起を口の中に含まれてしまう。
 ぬめりとした英心の舌の感触に、突起の中心から快感が波のように全身に広がっていく。

「ふうぅう……あふう……っ」

 ――な、なんだあっこれはあっ!?

 英心を抱き込み、必死に快感に耐えようとするが、甲高い声を上げて悶る事しかできない。
 顔を天井へ向けて舌を突き出し、荒く呼吸を繰り返す。
 涙で視界が滲み、英心がよくみえない。

「英、心……! も、もう、ゆるしてくれえ」
「……んふ、かわいい声だ」

 きゅむ……と両方の突起を意地悪く指先で摘んで笑う英心に、泰正は恐怖した。

 ――ほ、本当に、この男、英心なのか……!?

 こんな英心見たことがない。
 泰正は胸を弄られる快感に、情けなく喘ぐだけで精一杯だった。

「た、助けて……」

 思わずそう呟いたら、英心が動きを止めて、頭を胸から上げる。
 泰正は、彼の顔を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。

 傷ついたような目をしていたからだ。

「え、英心……」
「すまない泰正……つい、私はお前に夢中になってしまって……もうやめよう」
「……っ」

 ――や、やめる?

 泰正は焦り過ぎてうまく言葉を紡げない。
 口をぱくぱくさせた挙げ句、ガバッと英心に抱きついた。
 このままでは、英心がどこかに行ってしまう……。

「嫌だ!」
「や、泰正? どうし……」
「私はお前に触れてもらえて、嬉しいんだ……! だから、行かないでくれ!」

 とんでもない言葉を吐き出していたが、溢れ出る感情を止められるはずもない。
 どれほどの時を、貴方を想い過ごしてきたのか。

 縋り付いていると、ゆっくりと背中と頭を撫でられながら、耳元に囁かれる。

「いいんだな? 私と繋がっても」
「……っ、あ、ああ」

 何をされても構わない。
 衣を剥ぎ取られ、月明かりの中、お互いに生まれたままの姿を晒す。
 英心の猛るモノが視界に入り、生唾を飲み込む己の浅ましさを恥じた。
 瞳を閉じて身を任せ、脚を開かれて後孔を、冷たくて粘着質な淫具で丁寧に解される。

 英心は余裕がない様子で、泰正を抱きしめ、体内に熱い欲望を埋めた。

「……あ、ああう」
「ふ……泰正、力を抜け」
「んひうっんん……」

 頬や額に優しく口づけをされて、だんだんと身体から緊張感が消えていくのを感じて、大きく息を吐き出す。
 泰正は英心にしがみついて、彼の腰の動きに身を任せる。
 ゆらゆらと、彼自身の熱さを腹の奥でじっくりと味合わされた。
 腰の突き上げの度に、泰正は痛みに呻くが、不思議と快感に変わっていった。
 だらしなく口を開いて、快楽に浸かりながら愛しい男の名を呼ぶ。

「英心、えい……しん……」
「泰正、わかるか。私の、想いと欲望が……」
「ふ、うう」
「泰正!」
「むぐう」

 噛みつかんばかりに唇を塞がれた泰正は、英心の激しい想いに応え、自ら舌を絡めると、体内の彼自身を締め付けた。

「「……っ」」

 きつく抱きしめあって、同時に熱を開放し、泰正は身体の奥で、英心は腹と胸元で、迸りを受け止める。

 脱力して夢心地で名を呼びあう。

「泰正……」
「……英心」

 甘い吐息がとけあって、ひたすら口づけを交わす。

 ――ああ……私は、今とても幸せだ……!

 愛しい人と繋がったままの口づけは、天にも昇る心地を与えてくれた。

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