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四章【焦がれを抱きて】
十三話
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身体の怠さに目を覚ました泰正は、誰かに抱かれているのだと気づいて身じろいだ。
目の前に、英心の寝顔が見えて叫んでしまった。
「うわっああっ」
「……ん」
勢いで英心の腕から抜け出したが、腰に力が入らず、中途半端になり、丁度臀部の部分が、英心の顔にくっつく。
むにい。
「ひいっ」
「泰正……?」
泰正は、目を覚ました英心に尻を見られて絶叫した。
後ほど身なりを整えた二人だが、英心は笑いっぱなしで、泰正は居たたまれず、離れて座っていた。
「い、いつまで笑うつもりだ!?」
「いやいやすまない……ただな、もうすこし落ち着いたらどうだ?」
「……くう」
俯いて唇を噛み締めて、俯くしかない。
――なんて、なんて恥ずかしい……! せっかくの、英心との初めてだったというのに!
「泰正、そう拗ねないでくれ」
「拗ねているわけでは」
「なら、顔を見せて欲しい」
「……っ」
ゆっくりと近寄る気配に心臓が跳ねる。
何を今更緊張をしているのだと、己に苦笑するが、どうしても顔を上げられない。
そっと肩を抱き寄せられ、英心の低い声音が鼓膜を震わせた。
「お前をもっと知りたい。それに、世間のお前に対する印象を変えたいのだ」
「な、なんの話だ?」
「……お前は、鬼神をその身に宿したばかりに、わざと冷淡な態度をとっていたのだろう。そのせいで、誤解されつづけていたのだから……」
「英心」
思わぬ言葉をかけられた泰正は、胸が震えるのを感じて何も言えなくなる。
それは、お前のせいではないと言ったところで、この男は納得しないだろう。
頭が回らなくて、肩に添えられる掌に己の手を重ねた。
英心の手は、やけに熱い。
ふと、脳裏に過去が、走馬灯のように蘇る。
――まさか、英心とこのような関係になるとは……。
未だに夢なのではないかと、現実を疑う己がいた。
……だが、この手は本物だ。
「静かだな」
「ああ」
指を絡めて、しばしこの静かな時を味わった。
平安京にひっそりと在ったこの屋敷には、間もなく人の出入りが激しくなる。
特に泰正と英心を訪ねる者がおおく、庶民も貴族も関係なく、ひっきりなしに押しかけてくる。
英心は必ず泰正に話を振り、できるだけ会話に混ぜようとした。
泰正は、こんなにも多くの人と話すのは初めての経験で、最近は疲労感が強くて、日が落ちるとすぐに眠くなる。
二人を見かねた清明は、労おうと酒を携えて顔を出した。
清明は今、自分の屋敷とこちらに往復しており、道満との仲は良好である。
出迎えた蓮に挨拶をして、道満も誘うが、気乗りしないらしく、断られてしまった。
清明は並んで座る二人をにこやかに眺めて、酒をあおりながら話す。
「二人のおかけで、随分とにぎやかになったものだ。負担ばかりにならぬよう、気をつけた方が良い」
「はは……清明殿には、何かと助けられてばかりで……」
「感謝します」
困ったように笑う英心とは真逆に、泰正は真剣な表情で礼を述べる。
そんな対象的な二人を見つめて、頬を緩めた。
――やれやれ。ひとまずは、落ち着いて良かった。
良かったといえば……。
英心と言葉を交わしている泰正を見据える。
――良かったなあ。泰正。
清明は笑いあう二人を肴に、酒を飲み干す。
新たな世界が開いていく。
それは、漣のように広がり、やがては各々の運命を飲み込むのだろう。
願わくば、幸福に満ちているようにと……祈った。
〈四章【焦がれを抱きて】了〉
目の前に、英心の寝顔が見えて叫んでしまった。
「うわっああっ」
「……ん」
勢いで英心の腕から抜け出したが、腰に力が入らず、中途半端になり、丁度臀部の部分が、英心の顔にくっつく。
むにい。
「ひいっ」
「泰正……?」
泰正は、目を覚ました英心に尻を見られて絶叫した。
後ほど身なりを整えた二人だが、英心は笑いっぱなしで、泰正は居たたまれず、離れて座っていた。
「い、いつまで笑うつもりだ!?」
「いやいやすまない……ただな、もうすこし落ち着いたらどうだ?」
「……くう」
俯いて唇を噛み締めて、俯くしかない。
――なんて、なんて恥ずかしい……! せっかくの、英心との初めてだったというのに!
「泰正、そう拗ねないでくれ」
「拗ねているわけでは」
「なら、顔を見せて欲しい」
「……っ」
ゆっくりと近寄る気配に心臓が跳ねる。
何を今更緊張をしているのだと、己に苦笑するが、どうしても顔を上げられない。
そっと肩を抱き寄せられ、英心の低い声音が鼓膜を震わせた。
「お前をもっと知りたい。それに、世間のお前に対する印象を変えたいのだ」
「な、なんの話だ?」
「……お前は、鬼神をその身に宿したばかりに、わざと冷淡な態度をとっていたのだろう。そのせいで、誤解されつづけていたのだから……」
「英心」
思わぬ言葉をかけられた泰正は、胸が震えるのを感じて何も言えなくなる。
それは、お前のせいではないと言ったところで、この男は納得しないだろう。
頭が回らなくて、肩に添えられる掌に己の手を重ねた。
英心の手は、やけに熱い。
ふと、脳裏に過去が、走馬灯のように蘇る。
――まさか、英心とこのような関係になるとは……。
未だに夢なのではないかと、現実を疑う己がいた。
……だが、この手は本物だ。
「静かだな」
「ああ」
指を絡めて、しばしこの静かな時を味わった。
平安京にひっそりと在ったこの屋敷には、間もなく人の出入りが激しくなる。
特に泰正と英心を訪ねる者がおおく、庶民も貴族も関係なく、ひっきりなしに押しかけてくる。
英心は必ず泰正に話を振り、できるだけ会話に混ぜようとした。
泰正は、こんなにも多くの人と話すのは初めての経験で、最近は疲労感が強くて、日が落ちるとすぐに眠くなる。
二人を見かねた清明は、労おうと酒を携えて顔を出した。
清明は今、自分の屋敷とこちらに往復しており、道満との仲は良好である。
出迎えた蓮に挨拶をして、道満も誘うが、気乗りしないらしく、断られてしまった。
清明は並んで座る二人をにこやかに眺めて、酒をあおりながら話す。
「二人のおかけで、随分とにぎやかになったものだ。負担ばかりにならぬよう、気をつけた方が良い」
「はは……清明殿には、何かと助けられてばかりで……」
「感謝します」
困ったように笑う英心とは真逆に、泰正は真剣な表情で礼を述べる。
そんな対象的な二人を見つめて、頬を緩めた。
――やれやれ。ひとまずは、落ち着いて良かった。
良かったといえば……。
英心と言葉を交わしている泰正を見据える。
――良かったなあ。泰正。
清明は笑いあう二人を肴に、酒を飲み干す。
新たな世界が開いていく。
それは、漣のように広がり、やがては各々の運命を飲み込むのだろう。
願わくば、幸福に満ちているようにと……祈った。
〈四章【焦がれを抱きて】了〉
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