Breath~自分の愛が信じられない男と愛を理解できない男~

彩月野生

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終章〈逃れられない運命〉

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 項垂れて呼吸を繰り返すだけの二人の後ろで、ライヤは己の無力さに苛立ちを隠せない。

「まだかよ!」

 焦りが募りライヤの理性を蝕む。

 ――このまま黙って待ってろってのかよ。

 まだ十分と満たない時間しか経っていなかったが、つい二人の肩に手を乗せて揺さぶってしまう。

「どうなってんだ!? 俺もなにか――?」

 突然、視界が歪みスパークする。
 意識が持って行かれそうになり寸での所で堪えるライヤ。
 しかし流れていく光に抗えずとうとう瞳を閉じてしまった。
 ベルタとレフの肩に手を置いたままその場に膝をつき、項垂れる。
 全く二人と同じ状態になりペネムの意識へと落ちて行った。
 美しい水面の世界から、誰かの記憶の世界を眺めている自分に気付く。

『なんだ』

 目の前には見知らぬ人間達がたくさんいて、何やら建築中だった。
 作業服を来ている者達の隣で少女がいるのを見つける。

 ――あいつ。

 紛れも無くアシュを連れ去った少女なのだと確信する。
 しかしその目は頼り無さそうに揺れているのが気になるが。
 誰もライヤに目を向けない。
 ここは何なんだと疑問が渦巻く。

『!?』

 なんとなく視線を上向かせた時、飛び込んで来た巨大な建築物に息を飲む。

「あともう少しで完成だな」
「はあ。でも、俺ってぜんぜん役に立ってないですよね」

 二人の男に歩み寄る少女のその顔に笑顔が浮かぶ。
 若い方の男が少女の視線になる様に屈む。

「テティー寝てなくて大丈夫なのか?」
「眠れないの一緒に寝ようよ」
「え? えっとそれは……」
「彼も忙しいんだよ、無理をいっちゃいけない」
「パパも忙しいの?」

 頷く父に仕方無くテティーはその場を後にする。
 ただでさえ空気の悪い、こんな場所にいては身体に差し支えるだろう。
 遠くなる後ろ姿に少女の母が寄り添う姿が見えた。

「すっかり君に懐いてるね」
「な、なんか複雑です、俺、あの子の父である貴方に……」
「いいんだもう。君に殴られたりしたわけじゃないんだし」
「でも、俺の所為で闇市場に」
「大丈夫。悪用するといってもかなり困難なシステムだしその内、情報が回って来るだろう」

 彼等の会話にしばし集中していたライヤは、その建造物のある程度の予想に思考を回していた。
 あの少女が鍵であり間違えていなければ――。

『ペネム、か』

 今まさに自分が入り込んでいるあの街――船なのだろうか。
 世界が歪み、時間は流れる。
 作業服は薄汚れ変色しており、それが奇妙な柄へと変化していた。
 テティーの両親と思われる男女は彼等、仲間達と何度も話し合う。

 そして建造物はやはり〝ペネム〟と呼ばれており、数十人の人間達はペネムで暮らし始めた。
 なるべく清潔に保とうという考えからか、皆、白い服で同じようなデザインの衣服を纏っている。

「ようやくゆっくりと過ごせる」

 喜ぶ両親は少女を抱き締めた。
 それなのに。環境が整ったというのに、テティーの容態が悪化してしまう。
 狼狽える仲間達に対して父と母は冷静な対処を行う。
 ある部屋に少女を連れて行くと、水が浸っている装置に横たわせた。

「一人にはさせないからね」
「目が覚めたらお友達がたくさんいるよ」
「「私たちの姿が見えなくても、ずっと傍にいるからね」」

 涙を流す両親の姿をうっすらと開いた瞳から見つめている娘。
 蓋がゆっくりと閉じられた。
 後から追いかけて来た白い服を着ている仲間達が詰め寄る。

「ほんとうに良いのか!?」
「いいんだ。もともとこうするつもりだった」
「……あの、俺」 

 おどおどと声をかけてきたのは、テティーが懐いていたあの青年だ。

「この子がどうなるのか見守りたいです」

 少女が眠ってしまってもここで暮らす事は決まっていた。
 しかし生きているうちに少女と再び会える事はもうないのだ。
 〝ペネムと融合させて意識を具現化するまで数十年以上かかる〟

 そんな声が脳内に響き、ライヤはそう理解する。
 
「無理だ。この子と会える事はもう……」
「それじゃあんまりですよ! 何も知らずに勝手にこんな目にあって……なんでもいいんです、俺の意識をテティーみたいに具現化したりは無理なんですか!?」

 顔を振る父親だったが、やがてゆっくりと口を開いた。

「私たちの子孫に、君の意識を手渡す方法があるかも知れない」

 意味不明な事を告げられて戸惑う青年だったが、それでも力強く頷いてみせた。
 そうして数年後、ある夫婦の子供達に実験が施された。
 青年と幼い兄弟との思考や意識をペネムを通して伝達させたのだ。

 少女との記憶を――。
 
 〝それが、ベルタとレフ〟

 ペネムの負担を軽減させる為に、なるべくその機能を使用しないように心がけた。
 その結果、テティーとの記憶を有する存在はやがてベルタとレフの二人のみになり、両親も含めて幼いテティーを知る者は皆いなくなってしまった。
 かつての仲間達の子孫はテティーを崇拝するような存在へと変わる。
 それに少女の真の姿を知る者はベルタとレフ以外に存在しない。

 何故、彼等、仲間達が次々に命を落としてしまったのか。
 それは環境の変化が原因であろう。
 空へと浮かんだペネムでの生活、食べ物の変化。
 決して見つからない様にという緊張感。
 病で命を落とす者が多かった。

 やがてペネムとの融合が終わり、意識として姿を取り戻したテティーは幼いながらも部分的な精神の成長はできており、状況を把握すると絶望から涙を流した。
 そしてそんな少女を慰めたのは融合した存在であるペネムであった。
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