隷属神官の快楽記録

彩月野生

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憎愛の淵に沈む

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――完全な奴隷になってもらう。

頭の中でクロヴィスの声が響く。

リアムは檻に監禁されていた。
運ばれてきた食事の回数からして、二日ほど経っただろうか。
固い寝台の上でうずくまり虚空を眺めていた。

クロヴィスの過去のあの光景が頭から離れない。

――あんな神官の血を引いているなんて。

何も知らなかった。
母はきっと、あえてリアムに血筋の事は話さなかったのだろう。
あの出来事は、ユーディアにとって闇の歴史だ。
国民には伝えられていない事実。

恐らく王と一部の神官のみが把握しており、今まで隠していたのだ。
今後ユーディアはどうなってしまうのか、リアムは無力な己に俯く。

何故、あの時、クロヴィスの過去が流れ込んできたのかは不明だが、もしもリアムの失った筈の治癒の力が働いたのだとすれば、クロヴィスの力と共鳴した副作用の可能性が考えられる。

愛している人の過去を無理矢理覗いてしまったようで、罪悪感が胸に広がった。

ふと靴音が響いてきて顔を上げると、杖をついたクロヴィスが檻の前で立っていた。
リアムはクロヴィスの痛々しい姿に心配になり、寝台の上から降りて傍に寄る。

「背中の傷は」
「お前に見せてやりたいものがある」
「え」

リアムの質問には答えず、一方的に言い放ったクロヴィスが手をかざすと、檻の壁にたてかけられている大きな鏡が輝いてどこかを映し出す。
宝石をちりばめたような、装飾が施されている室内には、良く知っている人物が椅子に座っていた。


「陛下?」
「俺がユーディアに入り込んで、脳天気に交渉だけするとは思ってないだろ?」
「……まさか」

どうやらクロヴィスは城や街に術を施したらしい。
映し出されているのは城内の様子で、ヴァルター王は何故か裸だった。
この王の性癖から考えればあり得ない状況ではないが、問題は、王の足元に転がっている人間である。

男女の年齢はバラバラだが、皆裸体をさらけ出し、仰向けやうつ伏せになっており微動だにしない。
中には血を流していたり、白濁まみれの者もいた。

リアムは寒気を覚えて両腕をさする。
王はため息を何度も吐いて頭を振っていた。

そこに扉が開かれる大きな音が響く。

『陛下! また平民を殺めたとは本当ですかっ』
『あ? 奴隷だと言え』
『ひっ』

飛び込んできたのは側近の一人だ。
リアムとは面識のない、痩せ身の初老の男で、気弱そうな雰囲気が声に表れている。
側近の言葉にリアムは、彼らが死んでいるのだと確信して胃液がこみ上げてくるのを感じた。

『一体なんど繰り返すつもりですか! こんな事を繰り返せば、いずれ民に知られていまいます!』
『だからどうした? 何の力もない愚民どもに何ができる?』

王は立ち上がると下半身を露出したまま酒を煽り笑い出す。

『特に奴隷階級の連中は虫けら以下だからなあっ、王たる俺が遠慮する理由などないだろうっあ?』

「ひっ」

リアムは思わず悲鳴を上げて後ずさる。王の顔はまるで悪魔の様に歪んで見えたのだ。

こんな男に支配された国の神官だった己を、今更ながら恥じた。

「お前を殺ろうとしていた戦士は王に命令されたらしいぞ? 補佐の野郎も俺ともどもお前を殺すように命令されていたらしい。どうやら、お前は王にとって邪魔らしいなあ? あいつらをこってり絞ってやったらちょうど今日”宴”が開かれるっていうから覗いてみてやれば……ちょど良かったな」

リアムはクロヴィスの言葉に聞き入ってしまう。

「この光景はユーディア中の民が見れるよう、鏡と水面を通して映し出している」
「!?」

――ということは、王の秘密を民が知ったということだ。

リアムは息を飲むとクロヴィスを見据えて声を絞り出す。

「どうして、こんな真似を?」
「俺がユーディアを支配すると言っただろう? それと、お前に本当に見せたいのはこっちだ」
「?」

クロヴィスが「持ってこい」と声を張り上げると、彼の後方から部下であろう魔族が姿を見せる。
リアムは目を見開いてその魔族の名前を呼んだ。

「ディラン!」

ディランは両手で布のかかった何かを抱えている。
リアムはクロヴィスの笑う声に意識を傾けた。
その目は細められている。

「お前がサンドロを使って、こいつにリュカを助け出すように頼み込んだらしいな」
「リュカ様は?」

クロヴィスに殺されかけたあの時、リアムは彼に”あの二人を赦して欲しい”と懇願した。
ディランはこの場にいるのに、リュカはいない。
リアムはどうしても、ディランが抱えている白い布がかかった、丸みを帯びた物に目がいってしまう。

心臓が何かを予感して激しく鼓動を打つ。
口の中がひどく乾いていた。

クロヴィスにそっと視線を移すと口元を釣り上げていた。

「ディラン、布を取ってこいつに見せてやれ」
「はい」

ばさっという乱暴な手つきでディランが布を剥ぎ取り――そこには、美しい青年の生首が静かに鎮座していた。

人形のように瞳を閉じている。

リアムの身体が、突然氷の世界に閉じ込められたかのように冷えていく。

「りゅか、様? うそ……」

檻越しに見せられても分かった。それは、敬愛していた神官の青年の首であると。
足元がぐらついてまるで別の世界にいるような感覚に陥る。
胸がひきつれてうめき声が漏れてしまう。

「あ、あう、ううぁあ゛」

同時にぼろぼろと涙が溢れてとめどなく頬から顎へと伝う。
リアムは膝と手を床について地に顔を向けて泣き叫ぶ。

「ああああ゛っあ゛あああ゛っっ!! ぼくのっ僕のせいでっリュカ様があっ」
「魔族と神官が愛し合っているだとか、とんだ幻想だったなあ」

嗤い声がこだまする。

心のどこかで、クロヴィスはここまでしないと信じていた。
ディランはリュカを愛しているから、きっとヴァルター王から救い出してくれて、二人で生きていくと決意してくれると思っていた。

――全ては、リアムの甘い幻想だった。

「女みたいにわめくな神官。もういいディラン、首を処分しろ」
「はい」
「リュカ様はっディランっ貴方を愛していたのにっどうしてっ」
「……主様の命令は絶対だ」

素っ気なく答えたディランはリュカの首を持って去った。

「……まって、待ってディラン、リュカ様を……つれていかないで……」
「おっとまだ気絶するなよ」

檻の中に入ってきたクロヴィスに倒れそうになったのを抱えられ、寝台の上に仰向けに押し倒された。
杖を寝台の下に転がすと、背中の痛みがきついのか一瞬顔を歪ませる。
リアムを見下ろして囁いてきた。

「お前の大切な存在を殺した俺を、それでも愛してるだとか言えるのか? ん?」
「……な、なにを、いって」

悲しみの中にいるリアムは小さな声を出すのが精一杯だった。
あまりの衝撃に四肢の震えは止まらない。

「いいか、よく聞け。お前の心の中の声も、発している言葉も俺には筒抜けなんだよ」
「?」

一体どういう事なのかと思考の回らない頭でクロヴィスの言葉を聞いていた。

「お前に施した術を通してこの国に入り込んだが、その時にお前に施した新たな術は完成した」
「新たな、術?」
「それとな、俺が生成した触手は、犯している相手の肉体の感触が俺に伝わるようになっている」

にやにや笑うクロヴィスの声が、リアムの脳内で毒のように染みこんでくる。

”お前があのガキどものところで俺の触手に甘えてきた時は笑えたなあ”

”お前はまだ使える道具だ。手放すつもりはなかったが、突き放したお前が苦しむのが愉しかったから遊んでやったんだ”

見ている世界が虚ろになっていく。
いつの間にかクロヴィスに衣服を剥ぎ取られて体中を弄られていた。

――もうまともに話もできない、僕との事はなかった事にされたのかと思ってたのに。

――遊ばれていただけだったんだ……まだ、僕を利用するつもりなんだ。

リアムは自然とクロヴィスの背中に腕を回してしまっていた。
せめてリュカの為に、この男を殺さなければ――そう思うのに。

――さわられるだけで、嬉しいなんて。

「だから、お前の考えは筒抜けだってわかってんのか?」
「……あ」

術は消えている筈なのに、何故と思うと、クロヴィスがリアムのへその下辺りを指でとんとんと叩く。
すると、そこからぞわぞわと何かが広がる感覚がする。
淫紋は隠れていただけだった。

「この淫紋の役目は、お前の心の内と発している言葉を俺の脳に届ける役目しかない、他の力はもう必要ねえ。お前は性奴隷に成り果てたからなあ」
「そ、そんな、こと」
「お前の大切な人間を殺した相手の傷を、無意識に治す馬鹿のくせにか」
「!」

リアムはクロヴィスの背中をなぞる。確かに傷は消えていた。
何故治癒の力が復活したのか分からないが、無意識にクロヴィスの怪我を治してしまった事実に困惑する。

「……まさか、こんな目になってもまだ俺を好きだっていうのか」
「あ」

――僕のせいで、リュカ様が、あんな目にあって。僕の考えが甘かったせいだ。

――最終的には、この男の命令で、ディランはリュカ様を。

「そうだ。憎いだろう?」
「うう゛」

リアムはクロヴィスがあの神官の命令によって家族を失った瞬間を思い出す。
クロヴィスの苦しみの始まりはあの時からだ。
クロヴィスが、あの神官の血をリアムが引いていると知ったのは、いつなのかは分からない。

――ごめんなさい、リュカ様。

「ん?」

怪訝な声を上げたクロヴィスをリアムは見据えた。
両手を伸ばしてその頬を包み込む。

「これから、ユーディアに攻め入るというなら、民を苦しめないで下さい」
「なに?」
「僕が貴方の、貴方たち全ての欲求のはけ口になるから」
「……何故、俺をこの場で殺そうと思わない? そうすれば、国の危機が去るんだぞ」

リアムはリュカならばどうするのか、どう考えるのかを思い、実行できればと考えた。

「僕は、貴方を殺せない。だから、せめてリュカ様ならどうするか考えた」
「……」
「陛下の元ではもう国は成り立たない。王族の中でも国を統一できる力を持つ人もいないし、兵力もない。貴方たちと戦いは避けたい」
「それで?」
「貴方の力を、国民に害がないように見せつけて、僕をうまく使って」
「ふん。奴隷の意見なぞ聞くか。だが、俺も無駄な力を使うのは馬鹿げているとは思っている。それに、労働力は多い方がいいからなあ」

リアムはクロヴィスにきつく抱きついた。
心の中でリュカに謝り続ける。

「……そんなに俺から離れたくないなら、お前に不老の術をかけて、俺が死ぬまで俺の憎悪と欲望のはけ口にしてやる」
「……っ」
「リュカの奴への償いにもなるんじゃねえのか」

低い声で嗤い続けるクロヴィスに、リアムは心が苦しいのに、悦びも感じているのを自覚して嗚咽をもらした。
結局、自分の心を優先して、リュカの仇を取れない己に絶望したからだ。

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