復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

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12どんな子供が産まれたとしても

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 サビーノと身体を繋げた翌日は、朝から栄養のある食べ物をたくさん出されて困ってしまった。
 新鮮な野菜のスープや、肉料理に木の実のパン。
 それに、様々な種類の果物。
 いったいどれから手をつければいいのやら……。
 視線を料理に泳がせていると、サビーノに食べろと促されて、肩を竦めた。

「こんなに食べれない」
「無理をする必要はないが、せめて肉は喰え」
「……」

 毎回のように出てくる肉料理には、幾つかパターンがある。
 ローストやシチュー、鶏の丸焼き。
 サビーノのような人狼は、肉を口にする事に抵抗がない様子だが、他の獣人はどうなのだろうか。
 他愛ない話として、興味本位で聞いてみた。
 サビーノは酒をあおりつつ、訝しむ素振りを見せると淡々と答える。

「オマエは、我らと物言わぬ獣を同等に見ているのか?」
「い、いや。そういう意味じゃないんだけどな」
「我らは区別がついているのだ。罪悪感などもないし、違和感もない。大切な栄養なのだからな」
「そ、そうか」

 気分を害してしまったようだ。
 乱暴な仕草で杯を傾け、酒を飲み干すと、わざとらしい大きな息を吐いた。
 フリオは話しかけるのをやめて、食事に集中する。
 国に来た当初は、味が濃すぎて顔をしかめてしまう事も多かったが、料理長が気を遣ってくれたのか、濃さが薄まり、舌にあうようになっていた。
 濃い味付けも嫌いではなかったが、具合が悪くて動けなくなった時があるので、安心して食べられるのはありがたい。

 こうして獣人の作る料理を食べているのが、まだ不思議に感じた。
 きっとお互いの種族は、まだまだ理解できていない部分が多いのだろう。
 もしも、過去に生贄が生きて祖国に帰ってきて、己の経験した事実を広めたなら、獣人への誤解は解けていたのかも知れない。
 そんなどうでもいい妄想をして、ふっと笑う。
 少しだけ笑ったフリオに、気付いていないらしいサビーノが、酒のおかわりを頼む。

 追加の酒を持ってきたのは、犬の獣人だった。
 茶色い体毛にくりっとした目、おまけに、フリオの半分くらいしか背丈がない。
 思わず頭を撫でたくなるが、咳払いをして我慢する。
 不思議そうにフリオを見つめる、つぶらな目が痛い。

「あの、フリオ様」
「ん?」

 生贄に対して様づけをされるのは、どうも腑に落ちないが、もう慣れた。
 犬の獣人は、詰め襟のきっちりとした、白い衣装を着込んでいるのを見るに、どうやら料理長のようだ。
 味付けを気にしているのだろう。
 フリオは笑顔を向けて、素直な感想を述べた。

「おいしい料理だよ、味付けを変えてくれてたんだよな。ありがとう」

 その言葉を聞いた料理長は、ぱあっと顔を輝かせると、ふわふわと尻尾を振って、喜んだ。

「お気に召して頂けて嬉しいです!」
「ああ。いつもありがとう」
「これからもがんばります~」

 と、尻尾を振ってお辞儀をすると、かわいい料理長は食堂から立ち去った。
 わずかな時間だったが、癒やされた気がして和んでいると、突き刺さる視線を感じてゆっくりと顔を向ける。
 
 サビーノが睨み付けていた。
 さらに機嫌が悪くなっている様子で、頭痛がしてくる。
 まさか嫉妬じゃないよな。

「どうした、サビーノ」
「オマエは可愛いものが好きなのだな」
「え? まあ、嫌いじゃないな」
「ならば、我は範疇外という事か……」
「……」

 その問いかけに、どう答えるべきか真剣に悩む。
 お世辞にも可愛いなどとは言えないし、もしくはかっこいいというのも違う気がする。
 そういえば、サビーノの容姿については、いかついだとか、ケダモノらしいとか、そんな感想しか抱いていないなと気付いた。
 朝から気まずい雰囲気になり、なんだか疲れてしまった。

 サビーノはフリオが身ごもったと察知しており、自分の子だと信じているので、フリオにはなるべく安静にするようにと忠告してくる。
 確かに、言う事を聞いておいた方が良さそうだとも思う。

 空気の薄さに、肺は順応してくれたようだが、無理な運動をすると、息切れが激しい。

 仕方なく、再び部屋に閉じこもる日々となった。
 無事に子供を出産すれば、サビーノは自分を喰らうのだろうか。
 そんな疑問をぶつけても、果たして納得のいく答えは得られるのだろうか。

 気になると夜も眠れなくなる性分なので、困ったものだ。
 窓の外の景色を眺めながら、日差しに目を細める。
 春の陽気に似ている所為か、眠気に襲われた。
 緑と土の香りが、鼻腔をくすぐる。自分の立場をあざ笑うかの様に、穏やかな天候だ。
 
 気がかりなのは、腹に変化が訪れない事だった。
 サビーノの弟と、サビーノと性交した日には、若干の開きがある為、都合が良いが、このまま子供が育たなければ問題がある。
 産まれた子供は、サビーノを、この国を崩壊させる為に、使わなくてはならないのだから。

 ……どんな子だったとしてもだ。

「ふう……」

 急に重苦しい気持ちになり、思わずため息を吐くと、気配を感じて慌てて振り返った。

「な!?」
「へへへ」

 目の前に、トカゲ獣人がいたのだ。
 いつの間に入り込んだのだろうか。扉が開く音などしなかったのに。
 フリオは寝台から飛び退こうとするが、がっちりと抱え込まれてしまい、身動きができなくなる。
 お腹には子供がいるのに――!! 下手をすれば子供の身が危ない!!
 
「貴様あ!! 退け!!」
「なんだよお!? オディロン様ともヤった癖に俺とはできねえのかあ!?」
「な、なんでそれを!?」
「どうだっていいじゃねえか!! それよか、もうサビーノ様とヤッたてんなら、約束を果たしてもらおうじゃねえかあ!!」

 乱暴に衣服を引きちぎられて、裸にされてしまうと、両足を開かれた。

「あ!」
「俺様のヘミペニスでイき狂わせてやるぜええ!!」
「ま、まて」

 ――ダメだ!! 犯される!!

「サビーノ!!」

 無意識に発した言葉に、自分で驚きを隠せない。
 その時、轟音と共に何かが部屋に飛び込んで来た。
 けむくじゃらの獣人――。

「サビーノ!!」
「何をしているのだ貴様あああ!!」
「ぐげえ!?」

 サビーノの豪腕がトカゲ獣人の顔に打撃を与え、吹っ飛んで壁に激突する。
 すさまじい衝撃音が響き、フリオは息を飲む。
 これは痛そうだ。もしかすると、死んだか?

「フリオ!!」
「うぐ?」

 ぎゅむっと強い力で抱きしめられて、息が苦しくなる。
 これでは、腹の子供にも悪影響になりかねず、腕の中で暴れた。

「いたい、痛いって!」
「!? すまん!!」

 珍しく混乱した様子のサビーノを見て、新鮮な気持ちを味わう。
 こんな顔を見せるのかと、なんだか可愛く感じて「ふふ」っと笑いをこらえきれなかった。

「何がおかしい?」
「いやなんでも。それより、どうして襲われてたってわかったんだ?」
「オマエの叫ぶ声が聞こえたのだ。我は耳もいいからな」
「あ……」

 言われると、確かに名前を叫んだのを思い出して、苦笑する。
 まさかこいつに助けを求めるなんて。大分絆されてないか。
 自分に危機感を感じて、頬に手を添えると、熱かった。

「う、ぐえ」

 苦悶の声が聞こえて、壁を見ると、トカゲ獣人がめり込んでいた壁から、床にずれ落ちて完全に意識を失った。
 サビーノが確認すると、命に別状はなく、本当にただ気絶しているだけのようだ。
 頑丈な奴だな。

 サビーノがそいつを肩に担ぐと「こいつは処分する」と言い残して、立ち去った。
 ……処刑、されるのかどうかは想像したくない。
 あの調子の良さなら、なんだかんだで免れそうだが。
 過去にも同じような真似を繰り返しているのは、安易に想像できるからな。

「ふうう~」

 何度目かのため息を吐いて、寝台に再び寝転がる。
 頭の中は、すでに子供の事でいっぱいだった。
 無事に成長してくれているのだろうか。
 この胎を生成した呪術師に会う必要もあるし、サビーノの弟にも会わなければならない。

 フリオは新しい服に着替えると、そっと部屋を抜け出す。
 向かった先は、書庫である。
 木の扉を数回叩くと、ミールが開けてくれて、中に滑り込む。
 相変わらずランプで照らされた、閉塞感のある部屋だ。
 丸一日こんな場所にいたら、気がおかしくならないのだろうか。

 卓を挟んで座り、ミールと向かいあうと、笑って答えた。

「誇りあるお仕事ですにゃ。平民だったワタクシを、兄の代わりに使って下さるサビーノ様には、感謝しかないですにゃ」
「兄がいるのか?」
「はい。王都で商いをしておりますにゃ」
「そうか」

 フリオはどうにかして、呪術師をこの国の王都に呼ぶ必要があった。
 もしくは、手紙のやり取りがしたいのだが、直接胎を確認して欲しいので、やはり顔を見て話したい。

 思い切ってミールに打ち明けると、耳をぴくぴくさせて首を傾げる。

「いっそサビール様にお願いをしてみては?」
「いや。心配をかけたくないんだ」
 
 と言うのは、嘘である。
 呪術師自体は、特に疎まれた存在でもないし、この国にも生業として存在している筈なので、問題はない。
 胎を生成するというのも、特に問題はない。
 ただし、フリオが施してもらった胎には、特殊な術をかけてもらっているのだ。
 その術が禁忌であるので、そこが問題だ。
 バレれば、処刑されかねない。
 
 ミールは「にゃにゃ」と叫ぶと、笑顔を浮かべる。

「兄のツテで、呼べるかもしれませんにゃ」
「本当か!?」
「サビール様には内密にしたいのですにゃ? にゃらば、誰にも知られないように、手紙を兄に出すように考えてみますにゃ」
「ありがとう! 助かる!」

 こうして、ミールに助けてもらい、七日も経たぬうちに、ミールの兄から、呪術師が王都に来る日にちが書かれた手紙が届いた。
 ミールからその手紙を受け取って、その日を心待ちにした。

 呪術師に会いに行く日は、ちょうどサビーノが国を離れている日なのもあり、ライオン獣人に頼み込み、王都へ連れて行ってもらった。
 一人で来たかったのだが、フリオの足では何日かかるか分からない。
 
 ライオン獣人は、フリオの「サビーノを心配させたくないので、胎を見てもらいたい」という話を信じてくれたので、特に怪しまれずに済んだ。

 呪術師は、手紙に記載されていた、待ち合わせ場所の店にいた。
 そこはミールの兄の店である。
 中に足を踏み入れると、真っ黒なローブを頭から被った、背の低い呪術師が、猫の獣人と共に、窓辺の前の椅子に腰掛けていた。

 フリオに気付くと、呪術師は、口元を緩めて声を掛けてきた。

「お久しぶりです、フリオ様」
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