復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

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11温もりに募る苛立ち

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 放置されて数週間後、中庭で剣を振るっていたフリオの元に、サビーノが現れた。いつもの首飾りに、腰には黒いローブを巻いている。

「元気になったようだな」
「サビーノ」

 フリオは剣を鞘に戻すと、まくっていた袖を直して身なりを整える。
 こうしてまともに会話をするのは久しぶりだった。
 赤い目が、フリオを優しく見つめている。

「調子はどうだ?」
「ああ。まあ……」

 フリオは腹を気にしながら軽く素振りに励んでいたのだが、腹には変化は見られず、疑問が胸中に渦巻いていた。

 ――今は、そんな事を気にしている場合ではないな。

 視線をサビーノへ移すと、口元を綻ばせて話しかける。

「それにしても久しぶりだな、こうして話すのは」
「そうだな。我は反省しているのだ」
「何を?」
「オマエを追い詰めてしまった事をだ」

 聞けば、フリオを家畜扱いした事を、ひどく後悔しているのだという。
 他の生贄とは違う反応を見せたのが、予想外の事態だったらしく、医者に確認した結果、しばらく距離を置く必要があると指示を受けたと。

 マリユスの日記に書かれていた内容を思い出す。
 サビーノは弟にも、フリオにした仕打ちを行っていたのだ。
 相違している部分と言えば、生贄の反応である。
 フリオは精神を壊しかけたが、マリユスは……。

 瞳を伏せると顔を振って、サビーノに向き直る。

「俺の精神がまさかあんな事で壊れかけるなんて、自分でも驚いているんだ」
「フリオよ、それは違うぞ」
「何がだ?」
「我はオマエが弱いとは到底思えん」
「……それはどういう」

 腕を組んで訊ねると、双眸を細めてサビーノが空を仰ぐ。
 
「我は様々な生贄と相対してきたが、オマエのように強い感情を、意志をぶつける者はいなかった」
「……」

 獣人の獰猛さを知る者は、大抵怯えるのだろう。
 逆らえば、その場で食い殺されてしまうと誰もが思うに違いない。
 それはきっと、生贄の最期をしたためた書簡に記された内容が、いっそう強く印象づけているのかも知れない。

 ――書簡、か。

 マリユスの日記は、死ぬ直前まで書かれていたようだが、正気とは思えない言葉で綴られていたのもあり、最期の日になぶり殺されたのかまでは不明だ。
 今、聞いてしまおうか。
 
 サビーノに手を伸ばし、その腕に触れる手前で声をかけられた。

「オマエを抱いてやろう」
「……えっ」
 
 意外な言葉に、目を見開くと、サビーノは深く頷いてフリオを強引に抱きしめる。

「あ……」

 熱い胸板に顔をこすりつける形となり、頬にあたる毛がくすぐったくて身じろぐと、背中を何度もさすられた。
 まるで子供をあやすような手つきで、気恥ずかしさを感じて、頬が熱くなる。

 サビーノはフリオと繋がると決意したようだ。
 そのまま寝室に連れ込まれて、本番に入る事となった。

 腹の子供を心配していたフリオは、優しくして欲しいと必死に懇願して、サビーノは剛直をゆっくりと尻孔に挿入してくれる。

 ぐぶぐぶと肉が穿たれる音が聴覚を犯す。
 肉壁をおしわける剛直の感触に、四肢が小刻みに震えている。
 フリオは両手で顔を覆って圧迫感に耐えた。

「ふう……ふぅうう~っ」
「……意外と入りやすいな」
「そ、そうか? 自分で解していたからかな」
「そうか」

 心臓が跳ねて焦るが、咄嗟にごまかすと、サビーノはそれ以上言及しようとはせず、行為に集中してくれる。
 
 ――まさか、オマエの弟に先に犯されたなんて言えない。

 予想では激高すると考えているし、それこそ何をしでかすか分からないのだ。このケダモノは。
 行動に統一性があまり見られず、長い生の鬱憤がたまっているように見えた。
 生贄を迎えるのは、単なる憂さ晴らしかも知れないという考えも、否定できない。
 
 ――こいつの愛を受け入れた生贄というのは……いや、いるが……しかし、こんな奴のどこが……。

 思考に沈んでいると、奥に埋まったサビーノ自身が震えるのを感じた。
 射精される――そう感じた瞬間、大量の子種が勢い良く注がれて、長い射精を喘ぎながら受け止める。

 ぶぼっ!! ぶびゅるるる――っ!!

「あおおおおおお~っ!! あっはああああ~っ!!」

 サビーノに両手を伸ばし、抱きつきながら、ケダモノの精子を体内でごくごくと飲み干す。
 その時、フリオも絶頂を迎え、精液をまき散らした。

 長い長い射精が終わり、ぐぼっと中からサビーノが出ていくと、フリオは放心状態となり、仰向けでしばし浅い呼吸を繰り返す。
 頭を撫でられて、額を舌でなめられた。
 何故か安心感を抱いてしまい、頬がひつれるのを感じる。

 そんなフリオの複雑な胸中などお構いなしに、サビーノは優しい声音で囁いてきた。

「素直に感じていい子だな」
「……いい子っていうの、やめろ」
「オマエはかわいい奴だ」

 頬を嘗められて口元を吊り上げる。
 気持ち悪さはないが、妙な感覚にぞわりとするので、なめられるのは苦手だった。
 その顔が離れると、急に瞳を細めて冷たい視線に変わった。
 嫌な予感に唾を飲む。

「サビーノ?」
「我以外の獣人に抱かれたな?」
「……っ!」

 ――しまった、バレた……!!

 いくら身体を綺麗に洗った所で、獣の鼻には意味などないか。
 先に弟に犯されたと知ったら、サビーノはどうするだろう。
 怒り狂う姿を想像して、流石に肝を冷やす。

 顎を片手で掴まれて凄まれる。せめてその目をまっすぐに見つめると、顔を振った。

「繋がってはいない」
「……」
「本当だ! 信じてくれ!」

 サビーノは眉根をひそめる。
 フリオは、真意を測ろうとする赤い目を見つめ続けた。
 しばらくの沈黙と緊張が漂い、静寂を破ったのはサビーノの低い声音だった。

「いいだろう」
「サビーノ?」
「信じてやる」
「……ありがとう」

 上半身を起こして、頬を逞しい胸元にすり寄せる。 
 力強く抱きしめられて、安堵感に包まれた。
 獣の体臭にもすっかり慣れていた。

 ――子をどう使うかを、考えなければ。

 抱きしめ合いながら、不穏な思考を巡らせる。
 サビーノは弟の命を奪った憎むべき相手だ。
 知れば知る程、追い詰める術を見いだせるだろう。

 残念ながらマリユスの日記には、フリオが有利に動けるような、情報が途中で途切れてしまっていた。

 まずは、子供をどう使うか考えるべきだろう。
 この胎にいるのは、サビーノの弟の子だ。
 ならば、自分が何をしでかしたのかを、あいつに教えるべきだ。

「フリオ」
「ん?」
「オマエの事をもっと知りたい……我はオマエとこうしていると、心が落ち着くのだ」
「サビーノ……」
「オマエはどうだ? 我といたいか?」

 その言葉を聞いて――本当に、何も分かっていないのだなと苦笑するのをこらえ、優しい言葉をかけてやった。

「ああ。俺も嬉しい」
「そうか」

 答えたケダモノの声は歓喜に満ちていた。
 そんな反応を知って、フリオは内心でほくそ笑む。

 ――なんだ、こんなにも単純なんだな獣人王は。

 オマエを愛するだと?
 何故、最愛の弟を奪った相手を愛せるんだ?
 オマエが同じ立場であるなら、オマエは相手を愛せるっていうのか?

 今にも口に出しかけた憎悪の言葉を飲み込み、ごまかすようにサビーノの背中に両手を回す。
 やけに温かい体温に、苛立ちを募らせた。
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