復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

文字の大きさ
17 / 35

17王太子の秘密

しおりを挟む

 穏やかな日差しが降り注いでいる。
 戦場から帰還したフリオの心は、見上げた青空とは真逆であった。
 今回もたくさんの兵士や騎士がその赤い命の華を咲かせて散った。
 身体のあらゆる部分が吹っ飛ぶ人間達、獣人達も四肢を貫かれて血飛沫を噴出させる者も多かったが、大概が倒れる程の傷ではなく、何故かすぐに動いて攻撃の勢いが衰える気配はなかった。

 最後は必ず人間が劣勢となり、戦場から逃げるように引き上げていく。
 いつもの小競り合いでこの様だ。 
 休戦をしているのを忘れているのだろうか。
 流さなくてもいい血を流すのは、本当に馬鹿げているし、散りゆく命を見送るのは心が痛む。

 血ぬれの鎧を脱ぎ捨て、汚れを落とすために風呂ヘ向かう途中、誰かに呼び止められた。

「兄上」

 柔らかな澄んだ少年の声。
 振り返ると金髪の少女のような線の細い――弟のマリユスが大きな瞳を湖面のように揺らし、駆け寄ってくる。
 腕を握り締められ、息を飲んだ。
 火照った四肢がとてつもない渇きを訴え、マリユスを押し倒す衝動を必死に抑える。

 ――この感情を封印しようと長年努めてきたが、年々増すばかりで、唇を噛みしめた。

「なんだ、どうした」
「無事に帰ってきてくれて良かった……」
「……マリユス」

 優しい子だな。
 穢れた身体では抱きしめる事さえできない。
 抱きついてくる細くなめらかな肢体に、腕を回す事はできなかった。
 
 風呂場についてきてくれたマリユスは、フリオの背中を洗ってくれた。
 裸体になったフリオは、下半身にタオルを巻いて固い椅子に腰掛け、マリユスに背中を向けている。
 袋型のタオルでやさしく身体を洗ってくれるマリユスは、衣服が濡れるのも構わず、丁寧な仕草で洗い続けてくれた。
 その間、熱を持った股間を隠すのに必死だった。

 ――俺は、実の弟に欲情している。

 禁断の想いを自覚した時から、決して手を出すまいと誓った代わりに、過保護になってしまったと反省した。

「兄上、今夜一緒に眠ってもいいですか」
「え……」
「ダメですか?」

 昔は一緒に眠る事もあった。
 だが、マリユスはもう十四だ。そういう事は卒業するべきであろう。
 それに、フリオにはマリユスを傷つけない自信がなかった。

 フリオはマリユスに向き直ると、そっと頭を撫でて宥めた。

「今度どこか遊びに行こう。しばらく戦はないはずだ」
「……はい」

 少しのためらいを見せた後、マリユスは微笑んだ。
 その笑みがまるで、天使のように可愛らしくて美しかった。
 何故、この子と俺は血が繋がっているのだろう。
 笑顔を見る度に、叶わない妄想をしては、自分を慰めていた。

 その翌朝、マリユスは城から消えていた。
 獣人王の生贄として連れて行かれたのだ。

「何故俺に言わなかったのですか!?」
「……手を尽くしたが、大国の王に物資を止めると脅されてな」
「そんな……!」
「マリユス……!」

 二人の会話を聞いていた妹が、マリユスの名前を呼ぶとくずおれた。母は寝込んでしまった。
 フリオの国では近年天候不良により、作物が育たず、大国の物資支援が必須となり、供給を止められれば餓死者が出てしまう可能性があるのだ。
 

「マリユス……マリユス……!!」 


 自分の声で、フリオは目を覚ました。
 視界に入った薄汚れた天井をぼんやりと眺める。
 手探りで感触を確かめると、自分は寝台に寝かされているのだと分かり、ゆっくりと起き上がると、足を床に着けた。

 鷲の獣人が運んでくれたようだ。
 記憶を辿り、サビーノの元から逃げてきたのだと思い出す。

 サビーノに宣戦布告をしたも同然である。
 次にしなければならない事は山のようにあるのだと、慌てた。

 部屋から出たフリオは、扉の前にいた豹の獣人に、オディロンに話をしたいと伝える。
 程なくして、オディロンがフリオの部屋にやって来て、状況を話してくれた。

「話は聞いたぞ。オマエ、あいつを挑発したんだってな?」
「あ、ああ」
「とりあえず、俺の城は結界を張ったから、容易には近づけないし攻撃もできないはずだ」
「そうか」
「で、どうするつもりだ?」
「大国が動くはずだ」
「……それは、あいつがつげ口するって事か」
「ああ。俺は早急に国に戻りたい」
「ほう? 戻ってどうするつもりだ?」
「父上を助ける!」
「それで?」

 フリオは決意を込めて言い放った。

「大国の王に会って、話をつける」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処理中です...