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17王太子の秘密
しおりを挟む穏やかな日差しが降り注いでいる。
戦場から帰還したフリオの心は、見上げた青空とは真逆であった。
今回もたくさんの兵士や騎士がその赤い命の華を咲かせて散った。
身体のあらゆる部分が吹っ飛ぶ人間達、獣人達も四肢を貫かれて血飛沫を噴出させる者も多かったが、大概が倒れる程の傷ではなく、何故かすぐに動いて攻撃の勢いが衰える気配はなかった。
最後は必ず人間が劣勢となり、戦場から逃げるように引き上げていく。
いつもの小競り合いでこの様だ。
休戦をしているのを忘れているのだろうか。
流さなくてもいい血を流すのは、本当に馬鹿げているし、散りゆく命を見送るのは心が痛む。
血ぬれの鎧を脱ぎ捨て、汚れを落とすために風呂ヘ向かう途中、誰かに呼び止められた。
「兄上」
柔らかな澄んだ少年の声。
振り返ると金髪の少女のような線の細い――弟のマリユスが大きな瞳を湖面のように揺らし、駆け寄ってくる。
腕を握り締められ、息を飲んだ。
火照った四肢がとてつもない渇きを訴え、マリユスを押し倒す衝動を必死に抑える。
――この感情を封印しようと長年努めてきたが、年々増すばかりで、唇を噛みしめた。
「なんだ、どうした」
「無事に帰ってきてくれて良かった……」
「……マリユス」
優しい子だな。
穢れた身体では抱きしめる事さえできない。
抱きついてくる細くなめらかな肢体に、腕を回す事はできなかった。
風呂場についてきてくれたマリユスは、フリオの背中を洗ってくれた。
裸体になったフリオは、下半身にタオルを巻いて固い椅子に腰掛け、マリユスに背中を向けている。
袋型のタオルでやさしく身体を洗ってくれるマリユスは、衣服が濡れるのも構わず、丁寧な仕草で洗い続けてくれた。
その間、熱を持った股間を隠すのに必死だった。
――俺は、実の弟に欲情している。
禁断の想いを自覚した時から、決して手を出すまいと誓った代わりに、過保護になってしまったと反省した。
「兄上、今夜一緒に眠ってもいいですか」
「え……」
「ダメですか?」
昔は一緒に眠る事もあった。
だが、マリユスはもう十四だ。そういう事は卒業するべきであろう。
それに、フリオにはマリユスを傷つけない自信がなかった。
フリオはマリユスに向き直ると、そっと頭を撫でて宥めた。
「今度どこか遊びに行こう。しばらく戦はないはずだ」
「……はい」
少しのためらいを見せた後、マリユスは微笑んだ。
その笑みがまるで、天使のように可愛らしくて美しかった。
何故、この子と俺は血が繋がっているのだろう。
笑顔を見る度に、叶わない妄想をしては、自分を慰めていた。
その翌朝、マリユスは城から消えていた。
獣人王の生贄として連れて行かれたのだ。
「何故俺に言わなかったのですか!?」
「……手を尽くしたが、大国の王に物資を止めると脅されてな」
「そんな……!」
「マリユス……!」
二人の会話を聞いていた妹が、マリユスの名前を呼ぶとくずおれた。母は寝込んでしまった。
フリオの国では近年天候不良により、作物が育たず、大国の物資支援が必須となり、供給を止められれば餓死者が出てしまう可能性があるのだ。
「マリユス……マリユス……!!」
自分の声で、フリオは目を覚ました。
視界に入った薄汚れた天井をぼんやりと眺める。
手探りで感触を確かめると、自分は寝台に寝かされているのだと分かり、ゆっくりと起き上がると、足を床に着けた。
鷲の獣人が運んでくれたようだ。
記憶を辿り、サビーノの元から逃げてきたのだと思い出す。
サビーノに宣戦布告をしたも同然である。
次にしなければならない事は山のようにあるのだと、慌てた。
部屋から出たフリオは、扉の前にいた豹の獣人に、オディロンに話をしたいと伝える。
程なくして、オディロンがフリオの部屋にやって来て、状況を話してくれた。
「話は聞いたぞ。オマエ、あいつを挑発したんだってな?」
「あ、ああ」
「とりあえず、俺の城は結界を張ったから、容易には近づけないし攻撃もできないはずだ」
「そうか」
「で、どうするつもりだ?」
「大国が動くはずだ」
「……それは、あいつがつげ口するって事か」
「ああ。俺は早急に国に戻りたい」
「ほう? 戻ってどうするつもりだ?」
「父上を助ける!」
「それで?」
フリオは決意を込めて言い放った。
「大国の王に会って、話をつける」
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