復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

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18悪魔と名を刻まれても

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 オディロンの理解を得たフリオは、祖国への旅路を急ぐ。
 鷲の獣人――ヤンビアの背に乗せてらったおかげで、馬車で地上を走るよりも遙かに効率よく進む事ができて有りがたい。
 
 フリオに空の旅の恐怖心はなく、むしろ高揚感に胸を躍らせていた。
 頭は祖国に残してきた家族の事でいっぱいだ。
 安全な場所に隠れるように手はずを整えた母と妹はともかく、父は無防備な状況で城にいる。

 ――間に合ってくれ!!

 サビーノからの書簡が届くのが先か、己が辿り着くのが先か。
 どちらに運が味方するのかは、この目で確認するまで分からない。

 長い時間の空の旅は、徐々にサンビアから体力を奪っていく。
 凄まじい早さで飛んでいる為、フリオは目をうっすらとしか開く事ができず、必死に固い身体にしがみついていた。
 
「見えたぞ!!」
「!」

 サンビアの興奮した声に、目に力を入れてどうにか視界を確保する。 懐かしい祖国の城が見えてきた。
 かつて純白であった外壁は、薄汚れて灰色のように変色している。
 このような形で祖国の城を見たのは初めてだったので、ぼんやりと見つめた。

「どこに降ろせばいい!?」
「……バルコニーへ!」

 王間に近い部屋のバルコニーに降ろして欲しいと願うと、サンビアは大きく羽ばたいて旋回しながら城へと飛んでいく。
 視認した限りでは、特に包囲はされていない様だ。
 サンビアも警戒を解いた様子で、ゆっくりとフリオをバルコニーへ降ろしてくれた。

 サンビアにもついてくる様に促し、フリオはオディロンから貰った剣を鞘に納めた状態で、思い切り窓を叩きつける。
 窓硝子はひび割れて何度も叩きつけると、小気味好い音とと共に飛散した。
 破片が刺さらないように顔を腕で覆うと、中に突進する。

「父上!!」

 異変を察知した衛兵達が即座に駆けつけてきたが、フリオの姿を見ると驚愕の声を上げて立ち止まった。

「フリオ様!?」
「殿下!」
「すまない!! 通してくれ!!」

 フリオは衛兵もサンビアも気にする余裕はなく、一目散に王間に向かって廊下を駆け抜けていった。

 王間の扉を勢いよく開け放つと、玉座に座る父と、側近の姿が視界にはいり、走り寄った。
 フリオに気付いた側近が目を丸くして声をかける。

「殿下! よくぞご無事で!」
「父上!」

 側近の言葉を無視してフリオは父に大きな声で呼びかけた。
 父は座したまま手に持った書簡に目を落としている。
 サビーノからの書簡であろう。

 皺が刻まれた目元が収縮し、大きく目を見開いてやっとフリオに視線を向けた。
 穏やかな光を湛える瞳が細められる。

「どんな言葉でここまで獣人王を怒らせた?」
「……話を聞いて下さい」
「構わんが、間もなく大国の使者が来る筈だ。どうするつもりだ?」
「……」

 フリオが己の思惑を打ち明けている最中、サンビアが王間に姿を現したので、側近が腰を抜かすと目を白黒させて喚き出す。
 だが、構っている暇などない。
 
 フリオは父に食い気味に話を続ける。

「大国を追い詰めるいい機会です!」
「我が小国が、獣人と手を組んで大国に反乱を」
「獣人王サビーノの弟であるオディロンも、強大な力をもっていると知りました……それに、俺には秘策がある……!」
「本当に孕んだのか?」

 フリオのわずかに膨らんだ腹を見た父王は、眉根を寄せて玉座から立ち上がった。
 目の前に歩みより、腹に手を当てて優しい手つきで撫でると、瞳を閉じて顔を振る。
 手を放すとフリオを真剣な眼差しで見据えた。
 しばしの沈黙の後、父王がため息をついて玉座に座り治す。

「子供を利用するという話は、本気だったのだな」
「はい。この子は、人狼から得た強大な力を奴らを滅ぼす為に使うはずです。俺の憎悪の意思に支配されて」

 倒すべき敵に勝る術が見つけられないのなら、敵と同じ力と別の大きな力を混ぜてより強大にすれば良い。
 子を孕む女の生贄――妹の身代わりになるには、孕める身体にならなければいけなかった。
 それを逆に利用して、奴らを滅ぼす手段に変えてやったのだ。

 サビーノ自身の子種ではないが、血の繋がった人狼の子種で受胎できた。フリオの人狼サビーノへの憎悪は、確実に破壊の力を作り上げている筈だ。

「お腹の子がやっと動いたのを感じたのです。呪術師の話によれば、ある程度胎の中で育てば、呪術で取り出した後、成長を促せるというので」
「……悪夢を見ているようだ。いや、すでに悪夢の中か」

 父の言葉に、フリオはマリユスが生贄としてその命を終わらせる前の様子を、日記で知った事を話すべきかどうか迷った。
 皮肉だが、救われる部分もあると感じているからだ。

 だが、父の姿をよく観察した結果、やめるべきだと判断した。

 心労がたたったのか、かなり痩せてしまっていたのだ。
 ここからは、この国の行く末を、フリオが決める。

 そう決意して声を張り上げた。

「馬鹿げた因習は終わりだ!! 俺が必ず、この国を守ってみせます!!」

 ――そして、マリユスの仇を取ってやる……!!

 瞼に焼き付いた愛らしい笑顔を想い、唇を噛みしめた。
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