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一章 天竜堂のおろく医者
二
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小石川養生所、嘗て「赤ひげ」こと小川笙船の進言によって建てられた無償診療所。今も多くの、金の払えない患者が入居している。養生所の最奥、鬱蒼とした竹林に囲まれた一角に、その建物はある。
重厚な石造りの死体安置所―通称、「不帰之蔵」。病死した患者を、一時的に留置する場所だ。その入り口で待ち構えていたのは、養生所の肝煎医師である森岡泰然だった。
「来たか凌雲殿、やはりここは好かんなぁ。どんよりしてていかんよ。」
「泰然先生、愚痴はじぶんを老けさせますよ。」
「ふん、もう十分老けたわい。さ、中へ入ってくれ。だが気を付けろよ、南町の連中が奥で幅を利かせておる。おまけに、鼻持ちならぬ『お偉方』までお連れだ。」
「お偉方、ねえ・・・。」
愚痴っぽい泰然の言葉を話半分に聞き、凌雲は蔵へと入って行った。幕府直轄の医療機関、此処を束ねる医者は生き仏、世間では華々しく語られるが、その実情は残酷。医者の出費も多い上に、中には患者長屋で博打に興じる者が居る等治安が悪い。身分ある医者連中の間では、小石川養生所へのお声掛かりは一種の死刑宣告とも囁かれている。
蔵に足を踏み入れると、死骸の腐敗を防ぐ氷室によるひんやりとした冷気が押し寄せる。更に奥へ進むと、検死の為に儲けられた部屋「顕幽閣」がある。この安置所が帰らぬ物を置く「不帰之蔵」とするなら、顕幽閣は「顕なる現世」と「幽る世界」の境目と言う意味がある。つまり、現世から冥界へ行く前の中間地点と言う事だ。
共に、三人の男たちが凌雲を睨み据えた。細身に太い眉毛の役人、世間で「ゲジゲジ」と称される南町の筆頭同心、村垣伝助。もう一人は配下の岡っ引きである鳥越の権蔵、どちらも良い噂の聞こえない悪徳役人。
「おぅおぅ、お出ましかい。死骸を弄繰り回すのが好きな気違い医者。」
「村垣様、私の役目は公儀の要請による物。趣味嗜好ではない。」
「どうだかな。北町奉行の遠山様も、蘭癖大名の堀田備中様も本当に甘えなあ。」
恐れ多くも、公職にある幕府高官さえも誹る伝助。敵と見なした相手には、本当に怖いもの知らずだ。
「ともかく、要請があった以上診させて貰うぞ?」
「好きにしたら良いが、南町の調べによればこれは首括りによる自害だ。御典医・朴庵先生もそう断じられた。」
「御典医様の考えにケチをつける程暇じゃないが、考えは多い程に良いだろう。」
「ま、せいぜい学びな。」
鼻で笑って見せる伝助。あからさまに凌雲を舐めている。凌雲は同業の医者の中では、若手の部類に入る。伝助の様に若輩者と舐めてかかる者も一人や二人ではなかった。
伝助とのやり取りを見た朴庵は、凌雲の姿を見つけた。
「おぅ、お前様は。」
「覚えていたか。」
凌雲もまた、朴庵の顔をじろりと一瞥した。
数年前、貧窮した母親が大八車に轢かれて大怪我をした子供を抱えて朴庵の門を叩いた際、「汚らわしい、路地裏の藪へ行け」と追い払ったのが、この男だった。その子供を、泥にまみれて救い上げたのは凌雲である。この一件を機に、凌雲が金に執着せぬ名医と噂される切っ掛けになった。
「あの折はご苦労であったな、轢かれたと言う坊主はどうなった?」
「今では変わりなく遊んでいる、心配ない。」
「よい働きをしたな、して此度は何用かな?」
「お前さんに用はない、用があるのはその死骸だ。」
「儂の見立てに、何か不満でもあるのか?」
表情は変わってはいないが、あからさまに目を合わせバチバチと散らせる。
「俺も駆け出しの若輩者、修練の為に見させてもらうぜ。」
謙遜し相手を持ち上げる台詞を淡々と述べた凌雲、朴庵は単純と見えて世辞で気分を良くした様で笑顔を浮かべた。
「殊勝な心掛けじゃ、まあ見て見なされ。」
「忝い。」
朴庵の承諾を受けた凌雲は、石造りの解剖台に横たわる遺体の前へ立った。中央には、血抜きの為の溝が彫られ、オランダから輸入された特殊な反射鏡を組み合わせた集光装置があり、昼間は太陽光を、夜間は数十本の蝋燭の火を一箇所に集め、執刀部位を白日の下にする等、設備が整っている。どれも検死の正確性を重視し、要請を受けたオランダ商館詰の医官の監修により設備されたものだ。
遅れて勇五郎が駆け付けて来た。勇五郎の姿を見た伝助は、口の中で小さく舌打ちをし怪訝な表情を向けた。
「これは北町奉行所の坊ちゃま、今はまだ南町の月番ですぜぇ?それに困りますねえ、こんな藪医者を連れて来ちゃあ。」
「そうですよぉ、足手纏いになりやすぜえ。」
伝助は同心たちのたばねをする筆頭とは言え同心。勇五郎は見習いを終えたばかりとはいえ格上の与力。いわばノンキャリアの叩き上げの伝助にとって、生まれながらのエリートである勇五郎の存在は癪に触ってしょうがないのだ。であるから、経験はこっちの方が上だと先輩風を吹かせて、何時もこうしてからんでくるのだ。
伝助の嫌味と言うか難癖は何時もの事だ、勇五郎一同受け流す術を身に付けている。
「御言葉だが村垣殿、一人の意見より複数人の意見があればこそこの一件を早急に解決できると言う物では無いか?」
「お若いですなあ、船頭多くして船山に上るの例えもありますぞぉ?」
年配者と言う事を盾に、更に難癖を付けようとする伝助をドスノ利いた低い声が制した。北町奉行所の神山平蔵だ。
「村垣よ、その位に致せ。」
「これは北の神山様・・・。」
「南の月番にケチをつける程暇でもねえが、正しい調べの為に失礼させてもらうぜ。おぅ凌雲とやら、責任は俺が持つ。存分にやれ。」
「神山様も、儂の見立てでは不満だと?」
口では好きにしろと凌雲を許したが、横から来たものを歓迎しておらず始終難しい顔をしていた。時として幕府高官の脈を測る御典医であると貫禄たっぷりに平蔵に凄むが、平蔵も一歩も譲らない。
「事は我々だけの問題では御座いませぬ、相対死は天下の大罪。事の真相を突き止めるのに、南北の隔ても医者の立場も無いはず。」
北の鬼と言われる男の強い口調に、朴庵も伝助もぐうの音も出ないようだ。
お墨付きを得た凌雲は、持参した薬篭箱からいくつか道具を取り出した。
「誰か、酒糟を用意してくれ。」
「おぅ、酒糟?」
暫くすると命ぜられた自身番屋の小者が、酒糟を持って来た。
「おい仁吉、ちょいと手伝え。」
「おう。」
仁吉を呼びつけた凌雲は横向きにさせ、二体の死骸をうつ伏せにし背中を露わにした。そして、背中と両手両足にある物を塗り始める。白梅、甘草、葱白、塩、山椒を混ぜ練り物状にした物を酒糟で覆い上から金創膏を張り付けた。こうすると、目立たない痣が浮き出てくる。日本最古の法医学書『無冤述術』にも記されているれっきとした方法なのだ。
「これで少し待てば・・・。」
凌雲が注目したのは、まず首元の痣だ。正真正銘の自死であれば、絞めた跡は一本。しかし、他者によって絞殺された場合は二本の痣が付く。そして絞殺の場合、首を絞める凶器を外そうと首を掻き傷が出来る。この死骸にはうっすらと二本の痣が見られたが、縄を外そうとする跡が見られなかった。つまり、抵抗の術を断った状態で絞め殺され、縊死に偽造された可能性があると断定したからだ。
「先生、どうだ?」
「出たか兄貴?」
「へん、何も出やしねえよぉ。」
痺れを切らせて、朴庵ら三人が茶化す。
「黙って待たれい。」
凌雲は舶来物の懐中時計を取り出し、時を数えながら死骸を診る。
自死か他殺か、これで全てが解る。
暫く待っていると、顕幽閣の外が騒がしくなったかと思うと勢いよく戸が明けられた。五十絡みの商人風の男。恐らく、この死骸のてて親だろう。後ろから付いて来たのは、思うに女中、そして権蔵の配下である久六だ。
「入れてやれ、この死骸の親だろう。」
「あんたが親御さんかぇ?」
「はい、三島屋伊兵衛と申します。」
「そうか、今回はとんでもねえ事になったな。」
「心中お察し申し上げる、だがこれも事件を早く解決する為だ。協力してくれ。」
「は・・・、はい。」
ちらりと伊兵衛は、検死を続ける凌雲の方を見て声を上げた。
「あ、貴方。何をなさるんです!?」
「検死だ、これも真実を追求する為だ。」
「だからって死者を、娘を辱めるような真似を・・・。」
検死なんてそうそうお目みかかれる物でもないし、検死の知識なんて民間人が知っている訳がない。こんな態度になるのも無理はない。
冷静さを取り戻し、伊兵衛は一緒に首をつっていた男を見て膝から崩れ落ちた。
「松助・・・貴様。」
「知り合いか?」
「はい、番頭の松助でございます。」
娘は商家の家付き娘、男は繁店の番頭。主の娘と使用人の許されざる恋の成れの果て。芝居物にはよく見られる話だ。
「おしん、お前ぇ!!」
伊兵衛の怒りの矛先は、くっ付いて来た女中に向けられた。
「お前が松助とおはつを添わせたな?嫁入り前の娘に、この不忠者めがぁ!!」
「い、いえ私は・・・。」
「黙れ、言い訳など聞かぬわ!」
強い力で胸ぐらを掴むと、おしんを半狂乱で殴りつける。
「この獅子身中の虫めえ!!死ねっ!死ねっ!!貴様も死ねぇ!!」
如何にも殴り殺す気満々でおしんを殴る伊兵衛。このままでは無用な人死にが出る。仁吉が伊兵衛を羽交い絞めにし、暴行を止める。
「よせ三島屋さん、お役人の前で何をしやがる!」
「消え失せろ!二度とその顔を見せるなぁ!!」
仁吉の大力で羽交い絞めにされ、息も絶え絶えにお心を睨みつけた伊兵衛はしゅんと押し黙った。強かに殴られ、罵声を浴びせられるが、お心は黙ってそれを耐える。気が済むまで騒ぎ終えると、伊兵衛もまた力なく膝から崩れ落ちる。氷室の冷気によって白くなった吐息を吐きながら、伊兵衛は息を切らせていた。
「終わりだ・・・、娘が相対死を図ったとなれば、三島屋はもう終いだ・・・。」
血を分けた娘が命を絶ったと言う事よりも、身内に相対死を図ったものが出た、その事で店に塁が及ぶと考えてここまで激高している様だった。
―商人とは、こうも生業の事しか考えぬ物なのか。
背中でやり取りを聞き、呆れ塩梅で時を見る凌雲。
「静かにしてくれ、集中できん。」
やや語気を強めて言う凌雲の声に、鶏冠に血が上った様子の伊兵衛も落ち着いた。
暫く張り付けていた金創膏を剥がし始めた。すると、背中と手の付け根に締め付けたか押し付けたかして出来たと思われる痣が浮かび上がった。
「やはりな・・・。」
ふと凌雲が腹を触ると、凌雲は何かに気が付いたようで、ハッと驚いた様な顔になった。
「まさか・・・・、酷い事をしやがる・・・。」
のぞき込む仁吉に向かって、凌雲が言った。
「見ろ、背中と足の付け根のあざを。」
「こんな痣、確認した時にはなかった。」
思わず伝助も、言葉を漏らした後でしまったと口をつぐむ。
「これは検死の書物にも記されている確実な方法だ。調合した此奴を塗り、金創膏を張り付け暫く経つと薄れた痣が濃く浮き出てくるのさ。」
「本当だ、くっきりと痣が出ている。」
使用した道具を薬篭箱にしまいながら、仁吉に自分の考えを述べ始めた。
「恐らく足で背を押さえて首を絞め、もう片方がバタつく足を抑え絞め殺したのだろう。」
「じゃあ、松助が下手人ですか?」
「いや、念の為同じ事をして調べてみたのだが、同じ痣が浮き上がった。も同じように殺されている。相対死に見せる為の囮だ。下手人は二人以上、その線で調べてみる事だな。」
「間違いねえ様だな。」
全員が納得する中で、朴庵だけは面白くなさそうだ。それを気遣って、より一層胡麻を擦って伝助が茶化す。
「神山様ぁ、朴庵先生、まぐれ当たりですよぉ。知ったかぶりしてんじゃねえぞ?」
攻めて叶わぬまでも一矢報いようとでも思ったのか、睨みつけて詰め寄る伝助。しかし、平蔵は意にも介さず、凌雲の意見を尊重した。
「いや、この者の申し様は的を射ておる。当て推量はしまいよ。」
平蔵に諭されて、伝助はいよいよバツが悪そうに黙り込んだ。
「それとなぁ仁吉、女は身重だ。」
「身重?子供が?」
「まず間違いねえ。母が死に、生まれる事が出来ぬとは気の毒な・・・。」
事を見届けた平蔵も、凌雲の優れた行動に目を見張った様子だった。
「ああ、血を分けた父親に母親事殺された事になる。恐らく手を出したはいいが、女が望まぬ懐妊をした。子は宝と言うが、時と場合によってはこれ程の弊害はない。」
「この番頭と言う可能性はねえのか?」
「もしそうなら、何も相手を殺して手前まで首を括るような真似はしまいよ。女だけ始末し、ならず者に襲われたとでもこじつけて、知らん顔を決め込めばそれで終いだ。」
凌雲の考えは成程的を射ている様で、誰も反論する者はいなかった。
「三島屋さんとやら、娘は相対死ではない様だ。」
「はい・・・、其れだけがせめてもの救いでございます。」
「救いってオメエさん、娘が死んだ事に変わりはねえんだぞ?」
「よせ勇さん、事情が事情だ。」
今にも食って掛かりそうな勇五郎を、凌雲が制止する。だが凌雲も、許されるならば店の事しか口にしないこの伊兵衛の横面を、一発でも殴ってやりたい。相手は商人、娘の死に方に問題が無いと解かれば、既に跡取りがいる事だし三島屋は問題ないと思っているのだろう。涙一滴流さず店のことだけ考える三島屋への同情心は、とっくに消えていた。
「ともかく、俺に解るのはこれまでだ。後は町方の仕事だ。」
「解った、朝早くからご苦労だったな。検死を終えたのなら、死骸を提げさせるが?」
「いや、一寸待ってくれ。」
あらかた調べ終えた凌雲は、紙を取り出した。紙には「御遺骸改メ平に御容赦、南無阿弥陀仏」とあった。そして紙には、彼岸花が描かれている。
凌雲は骸を改めた際、本来は直ぐに棺桶に入り葬られる所、死んでなお体を改めたと言うわび状のつもりだ。彼岸花は墓場に良く咲く花で、又の名を曼珠沙華、天上つまり死後の世界、幽(かくり)世(よ)の華と言う俗説がある。迷わず天井へ行く為の手向けのつもりなのだ。
「この紙を添えて葬ってやってくれ。」
「はい、かしこまりました。」
骸を戸板に乗せ、小者は最寄りの番所まで運び出すために立ち上がり、伊兵衛もすごすごとその後を付いて行く。
「娘さん、大分ひどい目に合わされた様だが診ようか?」
「いえ、お構いなく。」
しおらしくぺこりとお辞儀をすると、おしんもその後を追いかけて行った。その様子を見送ると、勇五郎が凌雲に話しかけた。
だがそれをかき消す様に、伝助が腹いせに誹り始めた。
「娘さん娘さん、止めときなよぉ。お前さんもおろくにされちまうよ?この男はねえ、流行風邪も満足に治せなかった御典医崩れの生き残りだよ。」
鼬の最後っ屁とセリフを吐き捨て、其れを仁吉がけん制した。つくづく口の減らぬ役人。一瞬眉をピクリと動かしたが、意にも介さず薬篭箱へ道具をしまう凌雲。それをバツの悪い様で見るのは、完璧な検死をしたはずの朴庵だった。
「どうやら儂の出る幕は無いようじゃな、では失礼致す。」
表に待たせる豪勢な駕籠にドスンと乗り付けると、逃げる様に立ち去った。その面持ちは、あからさまに不貞腐れた様子だった。
それを見送ったが、伝助に胡麻を擦るように言う。
「旦那ぁ、此処にいてもしょうがねえ様ですぜ?」
「そうだなあ。それじゃぁ、此処は月番の北町にお願いするぜ。それじゃぁな。月番の南は、色々と忙しいんだよ。おい藪、あんまり調子に乗るんじゃねえぞ?これ以上出しゃばると改革に反する大罪人としてしょっ引くからな!」
「それじゃあっしらも、失礼致しやす。」
上が上なら下も下、言うだけ言って面倒事は御免被ると伝助がそそくさと立ち去る。心から事件の真相究明をしたい北町と、自分の立場や面子しか頭にない南町。評判の悪い南町の敗北は、まるで勧善懲悪の芝居を見ているようだった。
それを鼻で笑いながら伝助は「ざまあみやがれ」と呟く。
「助かったぜ兄ぃ。」
「ああ、溜飲が下がったぜ。」
「お褒めに預かりかたじけない。」
後は町方の仕事と立ち去ろうとしたのを、平蔵が呼び止める。
「待った凌雲殿、手が空いた時で構わぬ。奉行所へ顔を出してくれ。」
そう言われた凌雲は返事が割に軽く頷き凌雲は立ち去る。自分が習い覚えた医学が世間の人の役に立った。表には出さないが、凌雲は胸が躍る思いであった。
重厚な石造りの死体安置所―通称、「不帰之蔵」。病死した患者を、一時的に留置する場所だ。その入り口で待ち構えていたのは、養生所の肝煎医師である森岡泰然だった。
「来たか凌雲殿、やはりここは好かんなぁ。どんよりしてていかんよ。」
「泰然先生、愚痴はじぶんを老けさせますよ。」
「ふん、もう十分老けたわい。さ、中へ入ってくれ。だが気を付けろよ、南町の連中が奥で幅を利かせておる。おまけに、鼻持ちならぬ『お偉方』までお連れだ。」
「お偉方、ねえ・・・。」
愚痴っぽい泰然の言葉を話半分に聞き、凌雲は蔵へと入って行った。幕府直轄の医療機関、此処を束ねる医者は生き仏、世間では華々しく語られるが、その実情は残酷。医者の出費も多い上に、中には患者長屋で博打に興じる者が居る等治安が悪い。身分ある医者連中の間では、小石川養生所へのお声掛かりは一種の死刑宣告とも囁かれている。
蔵に足を踏み入れると、死骸の腐敗を防ぐ氷室によるひんやりとした冷気が押し寄せる。更に奥へ進むと、検死の為に儲けられた部屋「顕幽閣」がある。この安置所が帰らぬ物を置く「不帰之蔵」とするなら、顕幽閣は「顕なる現世」と「幽る世界」の境目と言う意味がある。つまり、現世から冥界へ行く前の中間地点と言う事だ。
共に、三人の男たちが凌雲を睨み据えた。細身に太い眉毛の役人、世間で「ゲジゲジ」と称される南町の筆頭同心、村垣伝助。もう一人は配下の岡っ引きである鳥越の権蔵、どちらも良い噂の聞こえない悪徳役人。
「おぅおぅ、お出ましかい。死骸を弄繰り回すのが好きな気違い医者。」
「村垣様、私の役目は公儀の要請による物。趣味嗜好ではない。」
「どうだかな。北町奉行の遠山様も、蘭癖大名の堀田備中様も本当に甘えなあ。」
恐れ多くも、公職にある幕府高官さえも誹る伝助。敵と見なした相手には、本当に怖いもの知らずだ。
「ともかく、要請があった以上診させて貰うぞ?」
「好きにしたら良いが、南町の調べによればこれは首括りによる自害だ。御典医・朴庵先生もそう断じられた。」
「御典医様の考えにケチをつける程暇じゃないが、考えは多い程に良いだろう。」
「ま、せいぜい学びな。」
鼻で笑って見せる伝助。あからさまに凌雲を舐めている。凌雲は同業の医者の中では、若手の部類に入る。伝助の様に若輩者と舐めてかかる者も一人や二人ではなかった。
伝助とのやり取りを見た朴庵は、凌雲の姿を見つけた。
「おぅ、お前様は。」
「覚えていたか。」
凌雲もまた、朴庵の顔をじろりと一瞥した。
数年前、貧窮した母親が大八車に轢かれて大怪我をした子供を抱えて朴庵の門を叩いた際、「汚らわしい、路地裏の藪へ行け」と追い払ったのが、この男だった。その子供を、泥にまみれて救い上げたのは凌雲である。この一件を機に、凌雲が金に執着せぬ名医と噂される切っ掛けになった。
「あの折はご苦労であったな、轢かれたと言う坊主はどうなった?」
「今では変わりなく遊んでいる、心配ない。」
「よい働きをしたな、して此度は何用かな?」
「お前さんに用はない、用があるのはその死骸だ。」
「儂の見立てに、何か不満でもあるのか?」
表情は変わってはいないが、あからさまに目を合わせバチバチと散らせる。
「俺も駆け出しの若輩者、修練の為に見させてもらうぜ。」
謙遜し相手を持ち上げる台詞を淡々と述べた凌雲、朴庵は単純と見えて世辞で気分を良くした様で笑顔を浮かべた。
「殊勝な心掛けじゃ、まあ見て見なされ。」
「忝い。」
朴庵の承諾を受けた凌雲は、石造りの解剖台に横たわる遺体の前へ立った。中央には、血抜きの為の溝が彫られ、オランダから輸入された特殊な反射鏡を組み合わせた集光装置があり、昼間は太陽光を、夜間は数十本の蝋燭の火を一箇所に集め、執刀部位を白日の下にする等、設備が整っている。どれも検死の正確性を重視し、要請を受けたオランダ商館詰の医官の監修により設備されたものだ。
遅れて勇五郎が駆け付けて来た。勇五郎の姿を見た伝助は、口の中で小さく舌打ちをし怪訝な表情を向けた。
「これは北町奉行所の坊ちゃま、今はまだ南町の月番ですぜぇ?それに困りますねえ、こんな藪医者を連れて来ちゃあ。」
「そうですよぉ、足手纏いになりやすぜえ。」
伝助は同心たちのたばねをする筆頭とは言え同心。勇五郎は見習いを終えたばかりとはいえ格上の与力。いわばノンキャリアの叩き上げの伝助にとって、生まれながらのエリートである勇五郎の存在は癪に触ってしょうがないのだ。であるから、経験はこっちの方が上だと先輩風を吹かせて、何時もこうしてからんでくるのだ。
伝助の嫌味と言うか難癖は何時もの事だ、勇五郎一同受け流す術を身に付けている。
「御言葉だが村垣殿、一人の意見より複数人の意見があればこそこの一件を早急に解決できると言う物では無いか?」
「お若いですなあ、船頭多くして船山に上るの例えもありますぞぉ?」
年配者と言う事を盾に、更に難癖を付けようとする伝助をドスノ利いた低い声が制した。北町奉行所の神山平蔵だ。
「村垣よ、その位に致せ。」
「これは北の神山様・・・。」
「南の月番にケチをつける程暇でもねえが、正しい調べの為に失礼させてもらうぜ。おぅ凌雲とやら、責任は俺が持つ。存分にやれ。」
「神山様も、儂の見立てでは不満だと?」
口では好きにしろと凌雲を許したが、横から来たものを歓迎しておらず始終難しい顔をしていた。時として幕府高官の脈を測る御典医であると貫禄たっぷりに平蔵に凄むが、平蔵も一歩も譲らない。
「事は我々だけの問題では御座いませぬ、相対死は天下の大罪。事の真相を突き止めるのに、南北の隔ても医者の立場も無いはず。」
北の鬼と言われる男の強い口調に、朴庵も伝助もぐうの音も出ないようだ。
お墨付きを得た凌雲は、持参した薬篭箱からいくつか道具を取り出した。
「誰か、酒糟を用意してくれ。」
「おぅ、酒糟?」
暫くすると命ぜられた自身番屋の小者が、酒糟を持って来た。
「おい仁吉、ちょいと手伝え。」
「おう。」
仁吉を呼びつけた凌雲は横向きにさせ、二体の死骸をうつ伏せにし背中を露わにした。そして、背中と両手両足にある物を塗り始める。白梅、甘草、葱白、塩、山椒を混ぜ練り物状にした物を酒糟で覆い上から金創膏を張り付けた。こうすると、目立たない痣が浮き出てくる。日本最古の法医学書『無冤述術』にも記されているれっきとした方法なのだ。
「これで少し待てば・・・。」
凌雲が注目したのは、まず首元の痣だ。正真正銘の自死であれば、絞めた跡は一本。しかし、他者によって絞殺された場合は二本の痣が付く。そして絞殺の場合、首を絞める凶器を外そうと首を掻き傷が出来る。この死骸にはうっすらと二本の痣が見られたが、縄を外そうとする跡が見られなかった。つまり、抵抗の術を断った状態で絞め殺され、縊死に偽造された可能性があると断定したからだ。
「先生、どうだ?」
「出たか兄貴?」
「へん、何も出やしねえよぉ。」
痺れを切らせて、朴庵ら三人が茶化す。
「黙って待たれい。」
凌雲は舶来物の懐中時計を取り出し、時を数えながら死骸を診る。
自死か他殺か、これで全てが解る。
暫く待っていると、顕幽閣の外が騒がしくなったかと思うと勢いよく戸が明けられた。五十絡みの商人風の男。恐らく、この死骸のてて親だろう。後ろから付いて来たのは、思うに女中、そして権蔵の配下である久六だ。
「入れてやれ、この死骸の親だろう。」
「あんたが親御さんかぇ?」
「はい、三島屋伊兵衛と申します。」
「そうか、今回はとんでもねえ事になったな。」
「心中お察し申し上げる、だがこれも事件を早く解決する為だ。協力してくれ。」
「は・・・、はい。」
ちらりと伊兵衛は、検死を続ける凌雲の方を見て声を上げた。
「あ、貴方。何をなさるんです!?」
「検死だ、これも真実を追求する為だ。」
「だからって死者を、娘を辱めるような真似を・・・。」
検死なんてそうそうお目みかかれる物でもないし、検死の知識なんて民間人が知っている訳がない。こんな態度になるのも無理はない。
冷静さを取り戻し、伊兵衛は一緒に首をつっていた男を見て膝から崩れ落ちた。
「松助・・・貴様。」
「知り合いか?」
「はい、番頭の松助でございます。」
娘は商家の家付き娘、男は繁店の番頭。主の娘と使用人の許されざる恋の成れの果て。芝居物にはよく見られる話だ。
「おしん、お前ぇ!!」
伊兵衛の怒りの矛先は、くっ付いて来た女中に向けられた。
「お前が松助とおはつを添わせたな?嫁入り前の娘に、この不忠者めがぁ!!」
「い、いえ私は・・・。」
「黙れ、言い訳など聞かぬわ!」
強い力で胸ぐらを掴むと、おしんを半狂乱で殴りつける。
「この獅子身中の虫めえ!!死ねっ!死ねっ!!貴様も死ねぇ!!」
如何にも殴り殺す気満々でおしんを殴る伊兵衛。このままでは無用な人死にが出る。仁吉が伊兵衛を羽交い絞めにし、暴行を止める。
「よせ三島屋さん、お役人の前で何をしやがる!」
「消え失せろ!二度とその顔を見せるなぁ!!」
仁吉の大力で羽交い絞めにされ、息も絶え絶えにお心を睨みつけた伊兵衛はしゅんと押し黙った。強かに殴られ、罵声を浴びせられるが、お心は黙ってそれを耐える。気が済むまで騒ぎ終えると、伊兵衛もまた力なく膝から崩れ落ちる。氷室の冷気によって白くなった吐息を吐きながら、伊兵衛は息を切らせていた。
「終わりだ・・・、娘が相対死を図ったとなれば、三島屋はもう終いだ・・・。」
血を分けた娘が命を絶ったと言う事よりも、身内に相対死を図ったものが出た、その事で店に塁が及ぶと考えてここまで激高している様だった。
―商人とは、こうも生業の事しか考えぬ物なのか。
背中でやり取りを聞き、呆れ塩梅で時を見る凌雲。
「静かにしてくれ、集中できん。」
やや語気を強めて言う凌雲の声に、鶏冠に血が上った様子の伊兵衛も落ち着いた。
暫く張り付けていた金創膏を剥がし始めた。すると、背中と手の付け根に締め付けたか押し付けたかして出来たと思われる痣が浮かび上がった。
「やはりな・・・。」
ふと凌雲が腹を触ると、凌雲は何かに気が付いたようで、ハッと驚いた様な顔になった。
「まさか・・・・、酷い事をしやがる・・・。」
のぞき込む仁吉に向かって、凌雲が言った。
「見ろ、背中と足の付け根のあざを。」
「こんな痣、確認した時にはなかった。」
思わず伝助も、言葉を漏らした後でしまったと口をつぐむ。
「これは検死の書物にも記されている確実な方法だ。調合した此奴を塗り、金創膏を張り付け暫く経つと薄れた痣が濃く浮き出てくるのさ。」
「本当だ、くっきりと痣が出ている。」
使用した道具を薬篭箱にしまいながら、仁吉に自分の考えを述べ始めた。
「恐らく足で背を押さえて首を絞め、もう片方がバタつく足を抑え絞め殺したのだろう。」
「じゃあ、松助が下手人ですか?」
「いや、念の為同じ事をして調べてみたのだが、同じ痣が浮き上がった。も同じように殺されている。相対死に見せる為の囮だ。下手人は二人以上、その線で調べてみる事だな。」
「間違いねえ様だな。」
全員が納得する中で、朴庵だけは面白くなさそうだ。それを気遣って、より一層胡麻を擦って伝助が茶化す。
「神山様ぁ、朴庵先生、まぐれ当たりですよぉ。知ったかぶりしてんじゃねえぞ?」
攻めて叶わぬまでも一矢報いようとでも思ったのか、睨みつけて詰め寄る伝助。しかし、平蔵は意にも介さず、凌雲の意見を尊重した。
「いや、この者の申し様は的を射ておる。当て推量はしまいよ。」
平蔵に諭されて、伝助はいよいよバツが悪そうに黙り込んだ。
「それとなぁ仁吉、女は身重だ。」
「身重?子供が?」
「まず間違いねえ。母が死に、生まれる事が出来ぬとは気の毒な・・・。」
事を見届けた平蔵も、凌雲の優れた行動に目を見張った様子だった。
「ああ、血を分けた父親に母親事殺された事になる。恐らく手を出したはいいが、女が望まぬ懐妊をした。子は宝と言うが、時と場合によってはこれ程の弊害はない。」
「この番頭と言う可能性はねえのか?」
「もしそうなら、何も相手を殺して手前まで首を括るような真似はしまいよ。女だけ始末し、ならず者に襲われたとでもこじつけて、知らん顔を決め込めばそれで終いだ。」
凌雲の考えは成程的を射ている様で、誰も反論する者はいなかった。
「三島屋さんとやら、娘は相対死ではない様だ。」
「はい・・・、其れだけがせめてもの救いでございます。」
「救いってオメエさん、娘が死んだ事に変わりはねえんだぞ?」
「よせ勇さん、事情が事情だ。」
今にも食って掛かりそうな勇五郎を、凌雲が制止する。だが凌雲も、許されるならば店の事しか口にしないこの伊兵衛の横面を、一発でも殴ってやりたい。相手は商人、娘の死に方に問題が無いと解かれば、既に跡取りがいる事だし三島屋は問題ないと思っているのだろう。涙一滴流さず店のことだけ考える三島屋への同情心は、とっくに消えていた。
「ともかく、俺に解るのはこれまでだ。後は町方の仕事だ。」
「解った、朝早くからご苦労だったな。検死を終えたのなら、死骸を提げさせるが?」
「いや、一寸待ってくれ。」
あらかた調べ終えた凌雲は、紙を取り出した。紙には「御遺骸改メ平に御容赦、南無阿弥陀仏」とあった。そして紙には、彼岸花が描かれている。
凌雲は骸を改めた際、本来は直ぐに棺桶に入り葬られる所、死んでなお体を改めたと言うわび状のつもりだ。彼岸花は墓場に良く咲く花で、又の名を曼珠沙華、天上つまり死後の世界、幽(かくり)世(よ)の華と言う俗説がある。迷わず天井へ行く為の手向けのつもりなのだ。
「この紙を添えて葬ってやってくれ。」
「はい、かしこまりました。」
骸を戸板に乗せ、小者は最寄りの番所まで運び出すために立ち上がり、伊兵衛もすごすごとその後を付いて行く。
「娘さん、大分ひどい目に合わされた様だが診ようか?」
「いえ、お構いなく。」
しおらしくぺこりとお辞儀をすると、おしんもその後を追いかけて行った。その様子を見送ると、勇五郎が凌雲に話しかけた。
だがそれをかき消す様に、伝助が腹いせに誹り始めた。
「娘さん娘さん、止めときなよぉ。お前さんもおろくにされちまうよ?この男はねえ、流行風邪も満足に治せなかった御典医崩れの生き残りだよ。」
鼬の最後っ屁とセリフを吐き捨て、其れを仁吉がけん制した。つくづく口の減らぬ役人。一瞬眉をピクリと動かしたが、意にも介さず薬篭箱へ道具をしまう凌雲。それをバツの悪い様で見るのは、完璧な検死をしたはずの朴庵だった。
「どうやら儂の出る幕は無いようじゃな、では失礼致す。」
表に待たせる豪勢な駕籠にドスンと乗り付けると、逃げる様に立ち去った。その面持ちは、あからさまに不貞腐れた様子だった。
それを見送ったが、伝助に胡麻を擦るように言う。
「旦那ぁ、此処にいてもしょうがねえ様ですぜ?」
「そうだなあ。それじゃぁ、此処は月番の北町にお願いするぜ。それじゃぁな。月番の南は、色々と忙しいんだよ。おい藪、あんまり調子に乗るんじゃねえぞ?これ以上出しゃばると改革に反する大罪人としてしょっ引くからな!」
「それじゃあっしらも、失礼致しやす。」
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それを鼻で笑いながら伝助は「ざまあみやがれ」と呟く。
「助かったぜ兄ぃ。」
「ああ、溜飲が下がったぜ。」
「お褒めに預かりかたじけない。」
後は町方の仕事と立ち去ろうとしたのを、平蔵が呼び止める。
「待った凌雲殿、手が空いた時で構わぬ。奉行所へ顔を出してくれ。」
そう言われた凌雲は返事が割に軽く頷き凌雲は立ち去る。自分が習い覚えた医学が世間の人の役に立った。表には出さないが、凌雲は胸が躍る思いであった。
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