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番外編異聞譚 ひろがるサンドウィッチプリキュア
しおりを挟むその日、エリトロ王領の入口に見慣れない巨大なモンスターが現れた。セイルが領全体に結界を張っているので被害は出ていないとはいえ、王都のすぐそばで放置するわけにはいかない。
セイル、アッシュ、ペリエ、ゼニス、そしてアルバイトのレティスが、領門に急いで駆けつけた。セイルの店「リメイン」は領門から比較的遠い場所にあるはずなのに、異変にいち早く気づいたためだ。
「しかし…我々だけ集まってもどうする事も…」
高さ十メートルはあろうかという、肉の塊のようなグロテスクなモンスターを、アッシュが漆黒の瞳で見上げながら、絶望感溢れる声を漏らす。騎士団随一の剣の使い手である彼は、冷静ながらも現状の戦力不足を痛感していた。絵に描いたような真面目さが、その声によく表れている。
「そうだな、王都騎士団の総動員を要請するべきか、それとも宮廷騎士団の増援を待つか…」
ペリエも、碧眼に苦渋の色を浮かべながら、その巨体を睨みつけている。彼はアッシュの親友であり、第2騎士団隊長として、やはり正規の対応を考える。
その間にセイルは、冷静に無限収納から、取り出したアイテムを手にしていた。その表情は、まるでこれからピクニックにでも出かけるかのように穏やかだ。
「みんな!いくよ!」
セイルはアッシュとペリエ、ゼニス、レティスににっこり笑いかけ、高らかに叫んだ。その声は、巨大なモンスターの咆哮にも負けずに響き渡る。
「「「「えっ?」」」」
セイルは、見慣れないマイクの様な形をした変身アイテムと、コインの様な物を取り出した。どちらも、前世の記憶を元に、セイルが魔法で精巧に作り上げた魔導具だ。
「サンドミラージュ!」
「「「「はっ?」」」」
騎士団随一の剣の使い手であるアッシュや、王都で名を馳せるペリエだけでなく、ゼニスやレティスも、セイルの突飛な行動と、そのアイテムに目を丸くした。
「トーンコネクト!」
セイルはマイクの様なアイテムの真ん中にコインの様な物(前世の知識で変身用に使われるアイテムに似せて作った、変身用の魔力ブースター)を嵌めた。
「ひろがるチェンジ!サンドウィッチ!」
周囲の目を気にすることなく、セイルが光のオーラに包まれ全裸になった。余計な肉が一切ないすらりとした、妖艶な体躯が、白昼の下に晒される。ぷるんっ、と何かが揺れる。
「「「「あああああっ!?」」」」
アッシュ、ペリエ、ゼニス、レティスは全員で絶叫を上げた。特にアッシュは、最愛の恋人の突然の露出に、騎士の矜持も忘れて慌てて目を覆う。
「きらめきホップ!」
セイルの上半身に光が集まり、ピンクのドレスシャツに黒のベストが現れた。
「さわやかステップ!」
セイルの下半身に光が集まり、黒のスラックスにピンクの革靴が現れた。
「はればれジャンプ!」
セイルのピンクベージュの髪が光で弾け、ホワイトブロンドの髪に変化した。纏めていたセミロングの髪がふわりと広がり、色気を増している。
セイルはキメポーズを取り、モンスターと、未だに呆然としている周囲に向かって叫んだ。
「おいしくひろがる優しい舌触り!キュアサンドウィッチ!」
「え、セイル…?…え、いま…裸に…?」
アッシュは目を覆った手から漏れる指の隙間から、セイルの艶やかな姿を見て、頬を限界まで紅潮させている。真面目な彼の思考は完全に処理落ちしていた。
ペリエは、口をぽかんと開けたまま
「…いや、今の着替えどうなってんだよ!?ってか、魔法で服を着替えるのに、なんで一度裸になんだよ!?」とツッコミを入れる。
ゼニスは、驚きと同時に「弟分が、まさか魔法で裸を晒すとは…」と額を抑えた。長年の付き合いとはいえ、セイルの突拍子のなさは彼の予想を遥かに超えていた。
「セイルさん、すごい…」レティスは目がキラキラしている。彼はまだ15歳で、この状況を純粋にファンタジーとして受け止めていた。
セイルはキュアサンドウィッチとして、両手を広げて4人に向かって微笑む。
「さあみんなも!!」
「はっ!?」
ゼニスは思わず声が出た。セイルが彼らの目の前に、同様の変身アイテムとカプセルを強制的に出現させたのだ。
「うわあ!なんだ体が勝手に!?」
ペリエは、魔法によって手が勝手にアイテムを掴むのに抵抗できない。
「なんなんですかー?」
レティスは戸惑いつつも、好奇心の方が勝っている。
「サンドミラージュ!」
その中で、アッシュは迷いなくアイテムを手に取り、叫んでいた。
「「「えっ!?」」」
ペリエ、ゼニス、レティスは、最も真面目で冷静沈着なはずのアッシュの行動に驚愕した。
「トーンコネクト!ひろがるチェンジ!ネイビー!」
アッシュもまた、セイルと同じように光に包まれ一瞬全裸になる。鍛え上げられた筋肉質な水泳体型が露わになるが、セイルの色気とは違い、雄々しく精悍だ。ぶるんっ、と何かが揺れる。
「あああああ!アッシュまで!?」ペリエが叫ぶ。
「ひろがる心、青空の様に!キュアネイビー!」
アッシュの上半身はネイビーブルーの詰襟のジャケット、下半身は同色のスラックスと黒のロングブーツ姿になり、黒髪が光を帯びて少しだけ輝きを増す。騎士礼服とはまた違う、活動的なコスチュームだ。
「セイル!なぜこのような事態に…いや、君が望むなら俺は全力で応えよう!」
アッシュは恋人の意図は理解できないものの、セイルの突飛な行動には有無を言わさず乗るという強烈な愛の証明をしてみせた。
「素敵だよ!アッシュ!」
セイルは歓喜の表情を浮かべる。
「「お前までノリノリかよ!?」」ペリエとゼニスは揃ってツッコんだ。
「さあ!君たちも!」キュアサンドウィッチとキュアネイビーは、半ば強引にアイテムを掴まされた3人を振り返る。
「くそっ、わかったよ!やるっきゃねえだろ!サンドミラージュ!」
ペリエは観念し、ぶるんっ、と何かを揺らしバーガンディの騎士服と同じ色の変身を完了させる。
「ひろがる情熱、バーガンディの薔薇!キュアバーガンディ!」
「…やることは決めた。だが、裸だけは晒さないと決めていたのに…サンドミラージュ!」
ゼニスは苦々しく呟きながらぶるんっ、と何かを揺らし、紫煙色の変身を完了させる。
「ひろがる紫煙、副流煙!キュアシガレット!」
「僕もやります!サンドミラージュ!」
レティスは喜び勇んでアイテムを使い、何かをぷるんっ、と揺らしながら、茶髪と何同じ色の変身を完了させる。
「ひろがる希望、ハチミツ色!キュアコムハニー!」
5人の戦士、「キュアサンドウィッチ」「キュアネイビー」「キュアバーガンディ」「キュアシガレット」「キュアコムハニー」は、巨大な肉塊モンスターを前に並び立つ。
「「「「「ひろがるサンド!プリキュア!」」」」」
その声は、王都に向けて、そして巨大なモンスターに向けて、勇壮に響き渡った。
(続かない)
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