異世界に転移してサンドウィッチ屋を開いたら、騎士様の胃袋を掴んでしまった様です。

有永

文字の大きさ
59 / 175

第46話 セイルの告白と水上ヴィラ

しおりを挟む


アッシュは騎士寮を出てセイルの家へ、ペリエは騎士団を退団しゼニスの家へ。
双方の引っ越しも無事に終わり。リメインとエムは記念に同時に三日間の臨時店休日を設けた。アッシュの一週間有給に合わせた三日である。

連休初日、レティスを交えた五人でリメイン二階のセイルとアッシュの住居部の広間リビングで昼食会を終えた後、セイルは重々しく口を開いた。

「…良い機会だから、皆に聞いて欲しい事があるんだ」

その声のトーンは、セイルにしては珍しく、少し硬かった。アッシュが、彼の隣に座るセイルの手を、そっとテーブルの下で握りしめる。

「…信じてもらえるか、分からないけど…、俺はこの世界の人間じゃない。異世界から来た転移者だ。俺の本当の名前は、帆波美洋ほなみよしひろ

セイルはゆっくりと、自分の事を話し始めた。穏やかながらも、一つ一つの言葉を選ぶように。
アッシュはただ、真摯な眼差しでセイルを見つめ、握る手に力を込めた。彼が「異世界の人間」であろうとなかろうと、自分の愛するパートナーであるという事実は揺るがない。けれど、セイルにとって、これを話すことがどれほど勇気のいることか、アッシュには痛いほど理解できた。

セイルの告白は続いた。


転移前に大失恋をしたこと、突然白いもこもこのモココにランダムで異世界転移者に選ばれたこと、
その際に色々なスキルと、火・水・光のマスターランクの魔法を貰ったこと、ゼニスが以前住んでいたマシェリル領から始まりエリトロ領に来るまでのこと、料理が好きで前の世界では色々な店で厨房に立ち、いつかは自分の店が持ちたいと思い、このエリトロでこのリメインを開いたこと…。


セイルの話は、御伽噺のようであまりにも現実離れしていた。だが、彼の澄んだ茶眼は真剣で、嘘を言っているようには見えない。そもそも、セイルが嘘をつく必要がどこにあるのだろう。


深く長い沈黙の末、レティスが一番最初に話を切り出した。

「…ちなみに姿も違うんですか?」

「髪の色以外は一緒だよ。それこそモココに会う前に気分転換にこの色に染めたんだけど、思いのほか気に入っちゃってね。この色を地毛にして貰ったんだ。本当はアッシュと同じ真っ黒だったんだよ」

アッシュは黒髪のセイルを想像して、俺と同じ黒髪だったのか…、色気は今以上に思える…。可愛いかも…、と仄かに身悶えた。

「あーあと、ちんげ以外ムダ毛生えないようにしてってお願いしたな」

セイルが緊張を解すように、少しおどけて付け加える。

「ちん…」

ゼニスが苦笑した。このぶっ飛んだ話が、セイルらしい下ネタで一気に現実味を帯びる。レティスは顔を赤くして俯き、ペリエは口元を抑えて肩を震わせた。

「あのさ、セイル」

ゼニスがタバコを取り出し、火をつける。濃い茶髪のミディアムヘアから、紫煙がたなびいた。

「もし、その…モココってのが、またお前を元の世界に戻そうとしたら、どうするんだ?」

ゼニスはセイルの兄貴分として、最も現実的で、最も重要な懸念を口にした。

セイルは、ゼニスから差し出された質問に、少し目を見開いた後、優しい笑みを浮かべた。

「ああ、それについては大丈夫だよ。転移は一度きりだから帰る事は出来ないみたい。そもそも、この世界を調整するかなんかで俺は呼ばれたみたいだからね。俺はもうこの世界の人間だ。…それに、」

セイルはアッシュの方を向き、その手に自分の細い指を絡めた。その後にペリエ、ゼニス、レティスの顔を見る。

「俺にはこの世界で愛する人がいる。大切なみんながいる。もうどこにも行きたくないよ」

アッシュ達は胸の奥が熱くなるのを感じた。セイルが、誰にも話せなかった秘密を、自分達との新しい生活の始まりに打ち明けてくれた。その重さ。その信頼。

「セイル」

アッシュはセイルを抱き寄せた。筋肉質な水泳体型の体躯で、すらりとしたスリムなセイルを、そっと。だが力強く。

「俺は、お前が誰であろうと構わない。いや、むしろ…この世界を選んで、俺のところにきてくれて、感謝している」

アッシュの真摯な声が、広間に響く。それは、一人の騎士団長としてではなく、一人の男として、そして、セイルの正式なパートナーとしての、揺るぎない愛の誓いだった。

「…アッシュ、ありがとう」

セイルはアッシュの逞しい胸に顔を埋め、安堵のため息を吐いた。

「あー、それでね、今日はみんなに見せたいものがあるんだ」



「うわー!湖岸から桟橋が伸びて湖の上に建物がある」

初めて現地に来たレティスが広大な風景と、セイルが魔法で建てた水上ヴィラに感嘆を上げた。湖の透明な水面に建物のシルエットが映り、まるで宙に浮いているかのように見える。

「すごいな、セイル。いつの間にこんなものを…」

アッシュも目を見張った。騎士寮での慌ただしい引っ越し作業中にも関わらず、セイルが魔法でこの水上ヴィラを完成させたのだろう。

「ふふっ、この三日間の店休日のために、頑張って錬金魔法で作ったんだ」

セイルはいたずらっぽく笑う。

「しかし暖かいな。暑い位だ」

ペリエが長袖を1枚脱ぐ。アッシュとレティスもそれに続いた。

セイルは事前に聖域の説明を三人にしていた。この場所は常時春と夏の間、所謂初夏に該当する気温に保たれるとモココから聞いていた。

ヴィラは、木材とガラスが多用されたモダンで開放的なデザインだった。湖から吹き抜ける風が心地よく、太陽の光が水面に反射して室内を明るく照らす。広間リビングには大きなカウチソファーが二つとローソァー。ガラステーブルが置かれており、大きめの埋め込みガラス窓から湖と山々が一望出来る。室内には魔石による間接照明が幾つも組み込まれており、夜はヴィラ中に淡いオレンジ色の世界が広がるのである。他には手洗いがふたつ、シャワールームと別に大きな浴室がひとつ、オープンキッチンがある。
建物前方中央にある広めのサンデッキには、白のガーデンソファーと湖に伸びた梯子が設置されており、湖に入る事も出来る様になっていた。
全室にカーテンは無い。モココが張った惑いの結界でこの湖畔にはいかなるものも侵入は出来ないからである。精霊や妖精は居るかもしれないが、今の所は気にしていなかったセイルである。
寝室にはキングサイズのローベットが3つ、雄大に連なっていた。

「…ベットもここまで広いと、凄いものがあるな」

ゼニスが前髪を掻き上げながらペリエの隣に寄り添う。セイルはベットの端に座ると意味深な笑顔を浮かべながら脚を組む。
 
「ふふ。今夜さ、俺、アッシュ、ペリエ、ゼニス、レティス、それと…カシスかな?」

不意にその名を呼ばれ、レティスが驚いてセイルに振り向いた。

「六人で、乱れたいんだよね」

セイルが蠱惑的に目を細めて微笑む。ペリエは頬を赤らめゼニスは目を伏せる。アッシュは「こほん」と咳払いをし、レティスは喜びながらも戸惑った。

「セイルさん…、カシスもこのメンバーに加えていいの?ここに呼ぶって事は、セイルさんの事、話さなきゃならないんだよ?カシスはセイルさんとはあまり接点ないんだよ?」

不安気な顔で、レティスはセイルを見上げる。

「…勿論。カシスはレティスにとって大切な人だろう?僕にとってのアッシュや、ゼニスにとってのペリエの様に。だったら、カシスも僕の大切な仲間だよ」

「セイルさん…」

「カシスを迎えに行こうか。もう仕事終わって家に居るよね。ついでにカシスとレティスの御両親に、今晩は俺の家に泊まりますねと伝えなきゃね」

セイルは微笑んでレティスの手を握った。レティスは目をうるうるしている。

「…なんか美談っぽくしてるけど、あいつの場合、単に六人で乱れたいだけなんじゃ…」

セイルとレティスから少しだけ離れた所で、ゼニスがアッシュとペリエに小声で問いかける。

「うむ…」

アッシュも少々げんなりしていた。

「…まあ、セイルさんが秘密を打ち明けた後の、最初の夜だ。皆で祝福しようじゃないか。カシスにも、しかるべき誠意をもって接すれば問題ないだろう」

ペリエは少し頬が赤いものの、どこか楽しそうに言った。新しい生活の始まりに、こんな豪快な夜会が待っていることに、騎士団を辞めた後の解放感を感じていた。

「…はぁ。分かったよ、乗ってやるよ。全く、どこまでぶっ飛んでるんだ、うちの弟分は」

ゼニスはタバコの紫煙を一つ吐き出し、セイルとレティスの後姿を見つめた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに愛されます

ひと息
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

処理中です...