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第113話 快楽を繋いで
しおりを挟む「……ん?」
ソファに腰掛け、本を捲るセイルの指が、ふと止まる。
「どうした?セイル」
セイルの隣でコーヒーを片手に書類の束を見ていたアッシュが、セイルの不意の仕草に気付き声を掛けた。
「あ……、いや、別に」
セイルは自らの胸元に手を当てた。
聖獣たちの契約主であるセイルに、初めての彼らの状態がダイレクトに伝わってくる。先ほどから、ブランシュとアルジャンテのパスを通じて、得も言われぬ高揚感と、ドロドロに溶けたような甘い魔力が流れ込んできているのだ。
(これ、まさか……。あの二人が……?)
セイルの脳裏に、以前、人化したブランシュに「人間はなぜあんなに身体を重ねるのか」と無垢な瞳で尋ねられた記憶が蘇る。あの時は「愛し合っているからだよ」と微笑んで誤魔化したのだが、まさか実践しているとは。
「セイル、顔が赤いぞ? 熱でもあるんじゃないか?」
「えっ、あ、違うんだアッシュ! なんでもな……っ!」
ひくんっ、とセイルの身体が震えると、大量の先ばしりが下着の前を滲ませた。セイルの膝がガクガクと震え、持っていた本が床に落ちる。
契約聖獣が「初めての悦び」を知り、その魂を激しく震わせた瞬間、その感覚はパスを通じてセイルへと濁流のように流れ込んでいた。聖獣二体分の、野生を孕んだ剥き出しの情動。それは人間同士のそれよりも遥かに純度が高く、強烈な負荷となって主の肉体を突き上げた。
「……っ、ぁ、あ……っ」
セイルはソファに沈み込み、溢れ出す蜜を抑えるように自身の腿を固く閉じる。しかし、ブランシュがアルジャンテの最奥を貫く衝撃と、アルジャンテがブランシュに秘部を貫かれる感触が伝わるたび、セイルの背が弓なりに反り、視界が白く明滅した。
「セイル!? おい、しっかりしろ!」
アッシュが慌ててカップを置き、セイルの肩を抱き寄せる。セイルの茶眼はとろりと潤み、ピンクベージュの髪は汗で額に張り付いていた。その肌は驚くほど熱く、吐息は熱に浮かされたように甘い。
「アッ、シュ……はぁ、はぁ……っ、ちが、これ……俺じゃ……っ」
「何が違うんだ。こんなに震えて……顔も真っ赤だぞ」
アッシュの手がセイルの額に触れる。だが、その接触さえも今のセイルには刺激が強すぎた。パスの向こう側で、2人の聖獣が肌を重ねる感覚が、アッシュの手に重なって脳を焼く。
男性器も後孔も、同時に刺激され、気が狂いそうになるほどの快感に、セイルは悶え耐えていた。
「あぅっ…!くっ…、ぅ、ブラン、シュ……たちが……聖域で、……あぁっ!」
セイルの口から、耐えきれないような高い声が漏れた。
ちょうどその時、聖域の寝室ではブランシュたちが絶頂を迎え、そのすべてを解き放っていた。
「……いっ!あああああああっ!!!」
同調したセイルの身体もまた、自身の意思とは無関係に限界を迎え、アッシュの目の前でボトムスの前を大きく汚して果てた。
セイルは元いた世界の時も含め、男性に挿入した経験がほとんど無い。そもそも向いていないのか、挿入しても直ぐに萎えてしまうのだ。
そのセイルが、ブランシュを通し未知の快楽を経験し、それに合わせ、アルジャンテの貫かれる快楽に、セイルはぐったりとソファに見を沈めた。
静まり返るリビング。
事態を察したアッシュの黒い瞳が、わずかに細められる。
セイルが自分の意思ではなく、遠く離れた聖獣たちの営みにあてられて「イかされた」のだと理解した瞬間、独占欲の強い騎士団長の胸中に、静かな、しかし熱い火が灯った。
「セイル。……ブランシュたちが何をしているのは分かった」
アッシュは乱れたセイルの髪を優しく、しかし逃がさないように指で梳いた。
「だが、お前のその顔を、遠隔の刺激だけで終わらせるわけにはいかないな」
「え……? アッシュ、まって、俺は今……まだ、身体が……」
「わかっている。お前は今、彼らのせいで感覚が極限まで過敏になっているんだろう?」
アッシュは力強い腕で、ぐったりとしたセイルを軽々と横抱きに抱え上げた。行き先は、二人がいつも愛を確かめ合う寝室だ。アッシュに抱き上げられたセイルは、抗う力も残っていなかった。
頭の中ではまだ、ブランシュがアルジャンテを深く貫く衝撃と、アルジャンテが受け止める甘美な痛みが、まるで自分のことのように反芻されている。
「あ……アッシュ、やだ……、まだ、繋がってるんだ……っ」
セイルが熱い吐息を漏らしながら訴える。
聖獣たちとのパスは、彼らが事後の余韻に浸っているせいで、未だに濃密な「多幸感」と「痺れ」をセイルの脊髄に送り続けていた。
アッシュはベッドにセイルを横たえると、自らのシャツを緩め、その逞しい身体でセイルを覆い隠すように圧し掛かった。
「……なら、俺がそのパスを上書きしてやる」
「……っ!」
アッシュの低く響く声が耳朶を震わせ、セイルの身体がビクンと跳ねる。
アッシュは、汚れてしまったセイルの衣服を手早く脱がせていった。露わになったセイルの肢体は、内側から発光しているかのように赤らみ、どこに触れても熱い。
「あぁっ、イヤ、だ、アッシュ、体の奥が…っ!」
セイルは顔を背け、枕に顔を埋める。だが、聖域の二人から流れ込んでくる「蕩けるような充足感」は止まることを知らない。ブランシュがアルジャンテを慈しむように撫でる感覚が、セイルの肌の上で再現されるかのようにチリチリと神経を焼く。
「……セイル、見てくれ。お前は今、俺に触れられているんだ」
アッシュの大きな掌が、セイルの細い腰をガシリと掴んだ。ブランシュの巨躯に抱きしめられるアルジャンテの感覚と、アッシュの逞しい筋肉に組み敷かれる現実が混ざり合い、セイルの脳内は飽和状態に陥る。
「アッシュ……っ、だめ、頭が……おかしく、なる……っ!」
「おかしくなればいい。他の誰でもない、俺がお前を連れて行ってやる」
アッシュの口唇がセイルの鎖骨に深く吸い付く。
その瞬間、セイルの脳裏に視覚的なイメージがフラッシュバックした。それはパスを通じて流れ込む、聖域の光景。銀髪を乱し、恍惚とした表情でアルジャンテを愛でるブランシュの、獣じみた独占欲。
(……ああ、ブランシュ……なんて、激しい……っ)
セイルは無意識に、ブランシュの激しさに呼応するように腰を浮かせた。それを見たアッシュの瞳に、暗い炎が宿る。
「……セイル、今、誰のことを考えている?」
「あ……っ、ちが、アッシュ、俺は……っ」
「いいだろう。そのパスごと、俺が飲み込んでやる」
アッシュは準備もそこそこに、セイルの熱く火照った楔へと、己の剛勇を割り込ませた。
「はぁああああっ!!」
セイルの喉が、歓喜とも悲鳴ともつかない声を奏でる。
聖域でブランシュが再びアルジャンテへと注ぎ込み始めた「熱」と、現実でアッシュがセイルを貫く「質量」が、セイルの体内で共鳴を起こした。
「ああ、っ、アッシュ! 凄い……っ、中が、お、おかしい……っ!」
「セイル、セイル……っ! お前は俺のものだ……!」
アッシュは猛るままに、セイルの最奥を突き上げる。セイルは涙を流しながら、アッシュの広い背中に爪を立てた。聖獣たちのパスを通じて伝わる「魂の結合」と、今この瞬間にアッシュと肌を重ねる「肉体の結合」。その二重の快楽は、人間の許容量を遥かに超えていた。
セイルの視界は白濁し、自身の魔力がアッシュの魔力、そして聖域の二人へと循環していくのを感じる。
「あ、ぁあ……っ! ブラン……、アル……、アッシュ……っ、みんな、いっしょに……っ」
「そうだ、セイル。すべて吐き出せ……っ!」
アッシュの動きが最高潮に達し、セイルの腰がガクガクと折れる。
二つの場所で同時に、愛と魔力の奔流が爆発した。
「はぁ……っ、あぁあああああ!!」
セイルは、眩い光の中に放り出されたような感覚の中で、意識を真っ白に染め上げた。
「セイル、あいつらとお前の、その快楽のパスを遮断する事は出来るのか?繋がったままだと後々お前に支障が出るぞ」
「……やってみる」
アッシュに抱きしめられたまま、セイルは荒い呼吸を整えながら必死に魔力を練った。
視界の端では、まだ聖域の情景が陽炎のように揺れている。ブランシュの銀髪がアルジャンテの褐色の肌に散り、二人が互いの体温を慈しみ合う、甘く重たい空気。
(……このままじゃ、俺の精神が持たない……っ)
セイルはアッシュの胸に顔を埋め、意識の深層へと潜っていった。
自分と二体の聖獣を繋ぐ、光り輝く何本もの細い糸――パス。それは主従の絆であり、信頼の証でもあるが、その中の、ひとつの糸が、今はあまりにも純度の高い「快楽」を運びすぎている。
セイルはゆっくりと、その糸だけを切り離した。
セイルの全身から力が抜ける。
「……上手くいったみたい。もう大丈夫」
セイルはアッシュの腕の中で、ようやく深く息を吐き出した。脳内を埋め尽くしていた桃色の霧が晴れ、自分の身体が自分だけのものに戻った感覚。それでも、直前まで共有していた「二聖獣」の、魂を削り合うような結合の余韻が、体の深部に熱い痺れとして残っている。
「……ふぅ、驚いた。まさかあんなに鮮明に伝わってくるなんて」
「俺も驚いたぞ。いきなりセイルが目の前で……あんなに乱れるなんて。命の危機かと思って焦ったが、中身はとんだ『悦びの共有』だったわけだ」
アッシュは少し意地悪な微笑みを浮かべ、セイルのまだ赤い耳たぶを甘噛みした。セイルは「もう……」と力なく笑い、アッシュの胸を押し返す。
「あの子たちは、きっと純粋に知りたかったんだと思う。俺がアッシュと過ごすこの時間が、どうしてあんなにも幸せそうなのかって。……形を得たことで、彼らの好奇心も人間と同じように膨らんでしまったのかもね」
「まあ、彼らが仲良くやっているのなら、俺たちが口を挟むことではないな。……ただし、主を巻き込まない程度にしてくれと、後でしっかり釘を刺しておけよ」
アッシュはそう言って、再びセイルをシーツの上に囲い込んだ。セイルのピンクベージュの髪が枕に広がり、その潤んだ瞳がアッシュを捉える。
「アッシュ……? パスはもう切ったよ?」
「ああ。だから次は、純粋に俺とお前だけの時間だ。聖獣どもの残り香が、まだお前の体の中に混じっているのが気に入らない。……一晩中かけて、俺の熱だけでお前を満たしてやる」
アッシュの独占欲を孕んだ熱い瞳に、セイルは抗うのをやめた。自らもまた、彼の手を首に回し、その唇を受け入れる。
聖域では、ブランシュとアルジャンテが静かな眠りに落ち、地上では、一組の番が再び愛を紡ぎ始める。
魔法と愛が交差する夜は、まだ始まったばかりだった。
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