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「Absolute」完全無欠のヒロイン
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「……あっ!あぁ……んっ!」
脳内に響き渡る甘美な声。
その声の主に俺は釘付けになった。忘れもしない十三年前の夏、それがAV女優「桜那」との出会いだった。
俺の名前は「斎藤宏章」
よくある普通の苗字と、どこにでもいそうな名前だ。熊本市から少し離れた、都会ではないが暮らすのには不便でもない、ほどよい田舎の町で生まれた。酒屋を営む両親のもとで育ち、特に秀でた所もないが不器用でもなく、至って平凡に生きてきた。
高校卒業後、急に思い立って上京した。自分にとって、それまでの人生で一番の冒険だった。都会への憧れと、平凡な自分を変えたいという衝動からだった。
だが夢もたいした目標も持たずに、若さと勢いだけで東京に出て来たので、何にも成し遂げる事もできず、気づいたら十年が過ぎていた。
このままずっと、何者にもなれずただ平凡に歳だけとって生きていくのだろう……。桜那と出会ったのは、そんな事を思っていた時だった。
上京して、初めて働いた場所は下北沢のライブハウスだった。高校の時から洋楽が好きで、興味本位でギターを始めた。子どもの頃からそれなりに器用で、ギターもすぐに上達した。
昔から何かに夢中になる事がなかった自分にとって、それまでで一番続いた趣味だった。そんな事もあって、ライブハウスでの仕事は楽しく続けられた。そこで知り合ったバンドのメンバーに、たびたびギターの助っ人も頼まれる様になった。
ステージに上がって、ギターを弾くのは楽しかった。だがやはり現実は厳しく、すぐに挫折した。
それまでデビューした奴を何人か見て来たが、才能やオーラ、全てが自分とは何もかも違っていた。何よりその夢にかける情熱を目の当たりにして、急に自分が恥ずかしくなった。
そこから急に熱が冷めてバイトを辞めた。その後は職を転々とし、結局今は酒屋の配送という、実家と大して変わらない職に落ち着いた。それでもたまに頼まれれば、ギターの助っ人でステージに上がっていた。
その日は熱帯夜で、真夜中でも茹だる様な暑さだった。いつもの様に助っ人を頼まれてステージに上がり、興奮覚めやらぬまま打ち上げに参加した時の事。
終電を逃して、バンドメンバーの奴のアパートに泊めてもらった。シャワーを借りて、少し酔いが覚めたのでそいつと飲み直していた。
ふとテレビの前に視線を向けると、レンタルしてきたと思わしきAVが乱雑に置かれていた。
「何?お前AVなんか見るの?」
呆れ気味に尋ねると、
「俺最近彼女と別れたばっかでさ。こないだノリで何気にアダルトコーナー入ったら、すげー可愛い子見つけちゃって、思わず借りちゃったんだよね」
なんて言うので、面白半分で見せてもらった。
『Melty Pink』 桜那
初めて見たその時の衝撃は、今でも忘れられない。
柔らかなライトブラウンのウェーブがかったショートボブに、滑らかで抜ける様に白い肌。丸く大きな瞳に、長い睫毛とぷっくりした唇。形の綺麗なバストと、小ぶりだが、引き上がった丸みのあるヒップ。手足が長く均整の取れたプロポーション。頭のてっぺんから足の爪先、粘膜の部分さえ全てが綺麗で美しかった。
まるで自分の頭の中から抜け出て来たみたいに、理想の姿そのものだった。こんなに何もかも完璧な存在に出会ったのは、生まれて初めてだった。
声や表情も全てが魅力的だったが、何より惹かれたのはその視線。挑発的なのにどこか憂いを帯びていて、それが心を捉えて離さなかった。
しばらく食い入る様に見つめ、「な!すげー可愛いだろ?」なんて、横で話しかける声も耳に入って来なかった。そうして俺は「桜那」の虜になった。
桜那の事は、ネットで調べたらすぐに出てきた。
22歳、グラビアで数年活動した後にAV転向。
二年前、大型新人として鳴り物入りでデビューし、その美貌と大胆な演技で瞬く間にトップ女優へと上り詰めた。
「AV界に舞い降りた妖精」「天使」──そんなセンセーショナルな言葉で語られるほどの存在だった。
彼女の存在がAV女優のレベルを底上げした事は、紛れもない事実だった。
でも俺にとって彼女の存在は、妖精とか天使というよりもはや「神」だった。
この現実世界における唯一の女神、完全無欠のヒロインだ。
それまで入った事もなかったアダルトショップに足繁く通い、桜那に関する情報を得る為だけにパソコンも買った。深夜のバラエティも欠かさず録画して、暇さえあれば何度も繰り返し観た。その熱の入れようには、周囲も呆れるほどだった。
それまで夢中になれるものなど何ひとつなかった俺が、唯一夢中になって追いかけた存在だった。
この時はまだ、桜那との「本当の出会い」が俺を待っている事など夢にも思っていなかった。そしてその出会いに、俺の人生が大きく左右される様になる事も。
脳内に響き渡る甘美な声。
その声の主に俺は釘付けになった。忘れもしない十三年前の夏、それがAV女優「桜那」との出会いだった。
俺の名前は「斎藤宏章」
よくある普通の苗字と、どこにでもいそうな名前だ。熊本市から少し離れた、都会ではないが暮らすのには不便でもない、ほどよい田舎の町で生まれた。酒屋を営む両親のもとで育ち、特に秀でた所もないが不器用でもなく、至って平凡に生きてきた。
高校卒業後、急に思い立って上京した。自分にとって、それまでの人生で一番の冒険だった。都会への憧れと、平凡な自分を変えたいという衝動からだった。
だが夢もたいした目標も持たずに、若さと勢いだけで東京に出て来たので、何にも成し遂げる事もできず、気づいたら十年が過ぎていた。
このままずっと、何者にもなれずただ平凡に歳だけとって生きていくのだろう……。桜那と出会ったのは、そんな事を思っていた時だった。
上京して、初めて働いた場所は下北沢のライブハウスだった。高校の時から洋楽が好きで、興味本位でギターを始めた。子どもの頃からそれなりに器用で、ギターもすぐに上達した。
昔から何かに夢中になる事がなかった自分にとって、それまでで一番続いた趣味だった。そんな事もあって、ライブハウスでの仕事は楽しく続けられた。そこで知り合ったバンドのメンバーに、たびたびギターの助っ人も頼まれる様になった。
ステージに上がって、ギターを弾くのは楽しかった。だがやはり現実は厳しく、すぐに挫折した。
それまでデビューした奴を何人か見て来たが、才能やオーラ、全てが自分とは何もかも違っていた。何よりその夢にかける情熱を目の当たりにして、急に自分が恥ずかしくなった。
そこから急に熱が冷めてバイトを辞めた。その後は職を転々とし、結局今は酒屋の配送という、実家と大して変わらない職に落ち着いた。それでもたまに頼まれれば、ギターの助っ人でステージに上がっていた。
その日は熱帯夜で、真夜中でも茹だる様な暑さだった。いつもの様に助っ人を頼まれてステージに上がり、興奮覚めやらぬまま打ち上げに参加した時の事。
終電を逃して、バンドメンバーの奴のアパートに泊めてもらった。シャワーを借りて、少し酔いが覚めたのでそいつと飲み直していた。
ふとテレビの前に視線を向けると、レンタルしてきたと思わしきAVが乱雑に置かれていた。
「何?お前AVなんか見るの?」
呆れ気味に尋ねると、
「俺最近彼女と別れたばっかでさ。こないだノリで何気にアダルトコーナー入ったら、すげー可愛い子見つけちゃって、思わず借りちゃったんだよね」
なんて言うので、面白半分で見せてもらった。
『Melty Pink』 桜那
初めて見たその時の衝撃は、今でも忘れられない。
柔らかなライトブラウンのウェーブがかったショートボブに、滑らかで抜ける様に白い肌。丸く大きな瞳に、長い睫毛とぷっくりした唇。形の綺麗なバストと、小ぶりだが、引き上がった丸みのあるヒップ。手足が長く均整の取れたプロポーション。頭のてっぺんから足の爪先、粘膜の部分さえ全てが綺麗で美しかった。
まるで自分の頭の中から抜け出て来たみたいに、理想の姿そのものだった。こんなに何もかも完璧な存在に出会ったのは、生まれて初めてだった。
声や表情も全てが魅力的だったが、何より惹かれたのはその視線。挑発的なのにどこか憂いを帯びていて、それが心を捉えて離さなかった。
しばらく食い入る様に見つめ、「な!すげー可愛いだろ?」なんて、横で話しかける声も耳に入って来なかった。そうして俺は「桜那」の虜になった。
桜那の事は、ネットで調べたらすぐに出てきた。
22歳、グラビアで数年活動した後にAV転向。
二年前、大型新人として鳴り物入りでデビューし、その美貌と大胆な演技で瞬く間にトップ女優へと上り詰めた。
「AV界に舞い降りた妖精」「天使」──そんなセンセーショナルな言葉で語られるほどの存在だった。
彼女の存在がAV女優のレベルを底上げした事は、紛れもない事実だった。
でも俺にとって彼女の存在は、妖精とか天使というよりもはや「神」だった。
この現実世界における唯一の女神、完全無欠のヒロインだ。
それまで入った事もなかったアダルトショップに足繁く通い、桜那に関する情報を得る為だけにパソコンも買った。深夜のバラエティも欠かさず録画して、暇さえあれば何度も繰り返し観た。その熱の入れようには、周囲も呆れるほどだった。
それまで夢中になれるものなど何ひとつなかった俺が、唯一夢中になって追いかけた存在だった。
この時はまだ、桜那との「本当の出会い」が俺を待っている事など夢にも思っていなかった。そしてその出会いに、俺の人生が大きく左右される様になる事も。
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