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綻び(1)―将来
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「じゃーん!今日はすき焼きにしちゃった」
桜那は鍋を運んできて、テーブルにセットしたカセットコンロの上に置いた。
「おぉ!めっちゃ美味そう!」
宏章が目を輝かせて、テーブルの前に腰掛ける。
二人が付き合い始めてから、三か月が過ぎた。
宏章と桜那はお互いのスケジュールの合間に、こうしていつも桜那のマンションで一緒に夕食を取ったり、お酒を飲みながら映画を観たりして過ごしていた。外で会う事はなかったが、お互いがただ一緒に過ごせればそれだけで幸せを感じていた。
「そういえば私、こないだキャバクラ行ってきたの!」
「え?キャバクラ?なんでまた?」
宏章は突然キャバクラなんて言い出したことを不思議に思い、桜那へ尋ねた。
「今度キャバ嬢の役でVシネに出演するの。ちょい役なんだけどね。それで勉強も兼ねて行って来ちゃった!」
桜那は楽しげに声を弾ませた。
「へぇ~、勉強熱心だな。それでどうだった?」
宏章もまた、興味津々に尋ねた。
「うん!ああいう場所初めて行ったんだけど、なかなか面白かったよ。色々と参考になったし。宏章はキャバクラ行った事ある?」
「あー……うん。付き合いで何回か行った事あるよ。でも俺、ああいう場所苦手なんだよね。なんか場違い感ハンパないし、何喋っていいか分かんないしさ」
宏章は、苦笑いでため息をついた。
……宏章らしいな。
桜那は、ふふっと笑った。
いつまで経っても東京に染まらない、素朴な所が宏章の良さでもあるから。
「それに実家が酒屋なだけに、酒の作り方とか原価ばかり気になっちゃって……。女の子の話なんか全然頭に入って来なかったよ」
宏章がそう言うと、ふと桜那は宏章の実家の事が気になった。
「宏章はさ、いつかは実家継ごうとか考えたりするの?」
桜那から突然質問されて、宏章はピタっと箸を止めた。
……実家か。
宏章は、両親の事を思い出した。
桜那と出会う前はそれも考えていたし、自分の将来を考えると、いつまでこの生活を続けるのかと時々不安になる事もあった。だが桜那と出会って、今がとても幸せで順調なので、あえて考えない様にしていた。
「どうだろう……、今は特に考えてないかな……」
宏章は曖昧に濁した。
「そっか……」
桜那はそれ以上、何も聞かなかった。
上京したばかりの頃は、それこそ実家を継ぐと思われる事が嫌で、何かやりたい事を見つけたくて地元を飛び出した。だが結局、やりたい事や夢などもろくに見つけられないまま、気がついたら十年も経っていた。それでも何も言わずに、今まで好き勝手させてくれた両親に感謝しているし、楽にさせてやりたいとも思っていた。
自分の目標に向かって、一心不乱に努力している桜那といると、時々自分はこれでいいのかと不安になったりもした。それでもやっぱり桜那の傍に居たくて、現実から目を背けて、問題をなるべく先送りにしていたのだ。
「映画公開決まったら教えてよ。俺、絶対観に行くから。楽しみだな」
不安をかき消すように、宏章が笑顔を作った。
桜那は宏章が一瞬考え込んだ事に気づいていたが、見ない振りをした。
桜那もまた、今が幸せだから不安になんてなりたくなかった。宏章がいない人生なんて考えられない……桜那は少しずつ、宏章に依存し始めていた。
「ありがと、楽しみにしてて!」
桜那は明るく振舞うと、いつもの無邪気な笑顔で返事をした。
その後は何事もなかったかの様に二人でおしゃべりして、身体を重ね、眠りについた。
そして宏章は桜那のマネージャーが迎えに来る前に、朝方早くに帰るというのがいつものお決まりだった。
桜那は鍋を運んできて、テーブルにセットしたカセットコンロの上に置いた。
「おぉ!めっちゃ美味そう!」
宏章が目を輝かせて、テーブルの前に腰掛ける。
二人が付き合い始めてから、三か月が過ぎた。
宏章と桜那はお互いのスケジュールの合間に、こうしていつも桜那のマンションで一緒に夕食を取ったり、お酒を飲みながら映画を観たりして過ごしていた。外で会う事はなかったが、お互いがただ一緒に過ごせればそれだけで幸せを感じていた。
「そういえば私、こないだキャバクラ行ってきたの!」
「え?キャバクラ?なんでまた?」
宏章は突然キャバクラなんて言い出したことを不思議に思い、桜那へ尋ねた。
「今度キャバ嬢の役でVシネに出演するの。ちょい役なんだけどね。それで勉強も兼ねて行って来ちゃった!」
桜那は楽しげに声を弾ませた。
「へぇ~、勉強熱心だな。それでどうだった?」
宏章もまた、興味津々に尋ねた。
「うん!ああいう場所初めて行ったんだけど、なかなか面白かったよ。色々と参考になったし。宏章はキャバクラ行った事ある?」
「あー……うん。付き合いで何回か行った事あるよ。でも俺、ああいう場所苦手なんだよね。なんか場違い感ハンパないし、何喋っていいか分かんないしさ」
宏章は、苦笑いでため息をついた。
……宏章らしいな。
桜那は、ふふっと笑った。
いつまで経っても東京に染まらない、素朴な所が宏章の良さでもあるから。
「それに実家が酒屋なだけに、酒の作り方とか原価ばかり気になっちゃって……。女の子の話なんか全然頭に入って来なかったよ」
宏章がそう言うと、ふと桜那は宏章の実家の事が気になった。
「宏章はさ、いつかは実家継ごうとか考えたりするの?」
桜那から突然質問されて、宏章はピタっと箸を止めた。
……実家か。
宏章は、両親の事を思い出した。
桜那と出会う前はそれも考えていたし、自分の将来を考えると、いつまでこの生活を続けるのかと時々不安になる事もあった。だが桜那と出会って、今がとても幸せで順調なので、あえて考えない様にしていた。
「どうだろう……、今は特に考えてないかな……」
宏章は曖昧に濁した。
「そっか……」
桜那はそれ以上、何も聞かなかった。
上京したばかりの頃は、それこそ実家を継ぐと思われる事が嫌で、何かやりたい事を見つけたくて地元を飛び出した。だが結局、やりたい事や夢などもろくに見つけられないまま、気がついたら十年も経っていた。それでも何も言わずに、今まで好き勝手させてくれた両親に感謝しているし、楽にさせてやりたいとも思っていた。
自分の目標に向かって、一心不乱に努力している桜那といると、時々自分はこれでいいのかと不安になったりもした。それでもやっぱり桜那の傍に居たくて、現実から目を背けて、問題をなるべく先送りにしていたのだ。
「映画公開決まったら教えてよ。俺、絶対観に行くから。楽しみだな」
不安をかき消すように、宏章が笑顔を作った。
桜那は宏章が一瞬考え込んだ事に気づいていたが、見ない振りをした。
桜那もまた、今が幸せだから不安になんてなりたくなかった。宏章がいない人生なんて考えられない……桜那は少しずつ、宏章に依存し始めていた。
「ありがと、楽しみにしてて!」
桜那は明るく振舞うと、いつもの無邪気な笑顔で返事をした。
その後は何事もなかったかの様に二人でおしゃべりして、身体を重ね、眠りについた。
そして宏章は桜那のマネージャーが迎えに来る前に、朝方早くに帰るというのがいつものお決まりだった。
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