アンストッパブル!ベイビーズ

新多目 朔

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異変(2)

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 数日後、桜那が夕方くらいに上がれると言うので、宏章は仕事帰りに桜那のマンションに向かった。
 帰りがてらに買出しを頼まれていた夕飯の食材を渡し、二人で夕飯の支度を始めた。
「え?宏章今度ライブでギター弾くの?」
 宏章は先日の悟からの電話のくだりをひと通り桜那へ話すと、、桜那が興味津々に尋ねてきた。
「あー……うん。ほんとはあんまり気乗りしなかったんだけどね、まあこれで最後だし……」
「最後?」
 宏章が言いかけると、、桜那が首を傾げた。
「……あ!ほら、あいつ地元に帰るからさ!一緒にやるのもこれが最後って事だよ」
 宏章はハッとして、笑いながらごまかした。
「そっかぁ、私宏章のステージ見たいな。宏章のギターちゃんと聴いてみたい!いつなの?」
「え?来るの?23日だけど……」
 日にちを聞くなり、桜那は一瞬固まった。
 その日はAVの撮影の翌日だ。
 宏章は、桜那の反応でその事を察した。
 宏章は、桜那がいつもAVの撮影の前後はオフにして、誰とも会わない様にしている事に気づいていた。
 桜那は一瞬考え込んだが、すぐに「行けたら行くよ。時間分かったら教えて」と静かに言った。
 ……ライブは夜だし、日中休んで気持ちを切り替えられればきっと大丈夫。
 桜那は不安もあったが、それ以上にギターを弾く宏章を見てみたい気持ちの方が上回った。
 宏章は戸惑うが、「分かった。じゃあ来れたら……、でも無理はするなよ」と答えた。
 二人の間に一瞬気まずい空気が流れる。
 桜那がすかさず話題を変えたので、またいつも通りの雰囲気に戻った。
 何事もなかったかのように二人で夕飯を食べて、いつもの様にセックスをする。
 事が終わると、桜那は宏章に強く抱きついた。
 ……やっぱり宏章といる時は大丈夫だ。
 宏章と一緒にいる時は、震えは起こらず得体の知れない不安感に襲われる事もなかった。桜那は宏章の顔を覗き込み、寂しそうに一言「好き」と呟いた。
 その表情がとても不安そうに見えて、宏章は桜那をぎゅっと強く抱きしめた。
「俺も好きだよ」
 宏章の言葉で、桜那は静かに目を閉じて眠りについた。
 宏章は心がざわついた。
 何故だかは分からない。
 何か大事な事を見落としている様な気がしていた。 
 宏章もまた、桜那と同じように得体の知れない不安感に駆られていた。

 それからも、二人はいつもと同じ日常を過ごした。
 宏章は仕事の合間にライブへ向けてギターの練習を、桜那は相変わらず収録やらオーディションを受ける毎日だ。
 一見、普段と変わらない日常を送っているかに見えたが、二人ともそれぞれが悩みを抱えていた。だが、お互いにそれを言い出す事ができず、気づけば12月も半ばに差し掛かっていた。
 桜那は相変わらず眠れない日々が続き、薬が手放せなくなっていた。
 12月に入ると、宏章の仕事が繁忙期を迎え、以前より会える回数が減っていた。その事が、より桜那の不安定さに拍車をかけていた。
 ライブの一週間前、ようやく宏章に会えた。
 宏章はスタジオで練習した後、桜那のマンションへ向かった。時刻は二十二時を過ぎていた。
 玄関で宏章を出迎えるなり、桜那が抱きついた。
「お疲れ様」
 桜那の優しい香りと温もりで、癒されていくのを感じた。
「遅くなってごめん。桜那、時間大丈夫?」
「うん、明日はいつもより遅い時間にマネージャーが迎えに来るから。宏章お腹空いてる?」
 桜那は、宏章を気遣った。
「いや、食ってきたから大丈夫だよ」
「じゃあお風呂にしよっか。一緒に入ろ」
 桜那は宏章へ笑顔を見せ、バスルームへ向かった。
 桜那を待つ間、宏章はソファに腰掛け一人ぼんやりとしていた。
 ……桜那、心なしか元気なかったな。
 あのオーディションの日以来、桜那は酒に走る事もなく、一見安定しているように見えた。だが宏章は、どこか心に引っ掛かる感じが拭えなかった。
 呼び出しが鳴り、宏章はハッと我に返った。
 バスルームへ入ると、桜那がバスタブから顔を出して宏章を待っていた。
 一緒に入浴するのはこれで三回目だ。
 宏章はいまだ慣れず、体は正直に反応した。
 桜那はバスタブから体を出し、妖艶な笑みを浮かべた。
 「私が洗ってあげる」
 宏章の背後に回り、体に泡を滑らせて乳首やペニスを弄ぶ。
 宏章は堪らず桜那を押し倒した。
 湯気が立ち込め、靄がかった視界に宏章の印象的な目がくっきりと浮かび上がる。その深い眼差しに、桜那は思わず呟いた。
「宏章……綺麗。目も鼻も唇も、全部が綺麗」
 桜那は手を伸ばし、親指で宏章の唇をすっとなぞる。
「そんな事、初めて言われたよ」
 宏章は照れから視線を逸らし、小さく笑った。
 ……宏章は気づいてないの?自分がこんなにも美しい事に。
「うん、それでいい。みんな宏章の良さに気づいてないだけ。私だけが分かっていればいい」
 桜那は体を起こし、宏章の目を見つめながらゆっくりと唇を近づけた。まるで現実逃避をするかの様に、お互いに体を貪り合い、セックスに耽る。そして二人は絶頂を迎えた。
 入浴を終えてベッドへ入ると、二人はいつもの様にたわいもない会話を楽しんだ。会話の流れで、宏章は思い出した様に話し出した。
「桜那、そういえばライブなんだけど、十九時半からなんだ。来れたら来てよ」
 宏章が、遠慮がちに言った。
「うん、分かった……」
 桜那は少し考え込んだ後、意を決したように顔を上げた。
「宏章!あのね……」
 言いかけたが、宏章の顔を見るなり言葉に詰まってしまった。
 少し間を置いて、笑顔を見せる。
「ライブ、頑張ってね!」
 不思議そうに桜那を見つめる宏章に、ぎゅっと抱きついた。
 ……余計な心配かけたくない。宏章がいれば症状は治まるし、薬があればきっと大丈夫。
 桜那は自分に言い聞かせて、宏章の腕枕で眠りについた。
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