曲者が、曲者の常識で曲者と人を裁く非常識な少女の物語である 題名変えました

さや

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1章 アンジェラス1は転生する

34話 理解できないもの

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軍部に入って気づけば一ヶ月も経つが、初めて会った日以外に三公格みつひろかくとは結構頻繁に会っていた。
というよりは、態々書類仕事が終わってフェンリルと散歩をしているとアードリアかカイエンのどちらかと必ず遭遇するのだ。

「あ、また暇してるんだね。」

「俺は暇じゃねーよ。お前みたいな女を引き摺り下ろすために居るんだ。」

「へー、結果なんて分かってるくせに態々実行するなんて真面目なんだね。」

「な、んだとっ!?」

右腕を上げて腹を殴ろうとしてくる相手の易々と避ける。

「そんな拳じゃ、強い敵が現れた時に対抗できないよ。」

ちゃんと親切心で、教えてあげたのに余計に怒ってしまった。

「死ね!クソ女!!」

「何もしてない相手に、死ねなんて言っちゃダメだよ。あと拳はねーー」

拳を握りしめ、身体強化をして思いっきり顔面を殴った。

「グハッ!!!」

「身体強化すれば、弱い貴方くらい返り討ちに出来るんだよ。」

さらに顔を赤くして、睨みあげてくるカイエンの頭を撫でる。
人に暴力を振るう割には腰までの長い黒髪に金の瞳の華奢な印象があるが、意外と筋肉のある結構美人な男だ。

「貴方は弱いから頑張らないと部下に追い越されちゃうかもよ?あんまり頭も良くなさそうだしさ。」

「う、五月蝿い!!覚えてろよ!!クソ女がー!!!」

負け犬のような捨て台詞を吐いて、いつも逃げていく。
全く男として情けなさすぎる。

「ちゃんと頑張れって言ってるのに、なんであんな返事が返ってくるんだろう?よく分かんないな……」

首を傾げていると、不意にフェンリルが私の胸の中へ隠れた。しかも、顔全体で深く潜り込み全く外からは見えない。

「あら、アバズレが居ますわね。」

真っ赤な扇子を開き、焔のように燃える赤髪と黒い瞳の美女はアードリアだ。
彼女は、フェンリルをペットにしようと、よく私に会いにきては奪おうとしてくる。

「フェルには、指一本触らせないから。」

「それは私が気に入ったのだから、私の物よ。」

「フェルは、物じゃない。」

じっと睨み合う。
アードリアはカエサルと違って、私に実力では勝てないと分かっているからか、直接攻撃を仕掛けてくることはない。

令嬢特有の、精神的攻撃で勝負をしようとしているのだろう。

「貴方、どうせコネで大将軍になったのでしょう?私には巨大な後ろ盾がありますのよ。」

「その後ろ盾しか、何もない貴方には言われたくないね。」

そう素直に口にすると、何故かぶるぶると震え出したが、次の瞬間には綺麗な微笑みを浮かべていた。

「それで?何かようなの?今散歩してるから邪魔しないで欲しいんだけど。」

「じゃ、邪魔ですって?」

「聞こえなかったの?耳が悪いなら病院に行ったほうがいいよ。リックお爺ちゃんに紹介……」

「よくもこの私を侮辱しましたわね!!」

顔を合わせるといつも何故か、怒り出す。
さっきまで、普通に会話してたはずなのに。

どこが沸点なのか、いまいち分からない。

「侮辱した覚えはないけど……やっぱり人に暴力振るうのはダメだよね。」

扇子から魔法陣が現れる様子を見ながら言うと、更に怒ってしまった。

「攻撃するなら、それなりの覚悟をしてね?」

「分かっていますわよ!!!」

もう後に引けないとでもいうように、一心不乱に炎の球を放ち始めた。

「操作に気を取られて、威力が足りないね。」

必死に打っているようだが、まだまだ未熟だ。さすが権力を笠に着る事が得意な貴族なだけはある。

態々キューブを取り出す必要もないため、手をかざし炎の球を作り出した。

小さな、とても小さな炎の球。
けれど、真っ赤に爛々と輝いている。

「火の玉はね、小さく凝縮して魔力を込めた方法が、コントロールも威力も上がるんだよ。」

見本として、五つ空中に浮かべて一直線にアードリアへと向かう。
そして、眼前に来た途端膝から崩れ落ちた。

「ひっ…」

泣き目で怯えて、四つん這いになって逃げていく様は、滑稽としか言いようがない。

「ねぇ、フェル。」

『ドウシタ?』

「勝ち目がないのに、なんで挑んで来るんだろう。」

『気ニ入ラナインダロウ。』

「そう?挑発なんかしてないのにな……」

首を傾げるが、全く心当たりがない。
でも、喧嘩を打ってくるのはいつも彼方なのだから、何をしても文句は言えないだろう。

そう思いながら、中庭に隠しておいた弁当を取り出しベンチで食べる。

「やっぱり、ここのシェフの腕はいいね。」

夢中で食べているフェンリルからの返事はない。

「でも……誰もいないねぇ……」

私を嘲笑う人はいても、話しかけてくる人はいない。
カイエンとアードリアは、私を侮辱する筆頭なだけで、他の書類を隠したり部屋の匂いを変えたりしているため、かなり陰湿で周りの方がタチが悪かった。

だから、まだ正面向かって挑んでくるカイエンとアードリアの方が、マシだと思える。

「まぁ、こんなことで挫けないけどね。」

こんなことで一々心が痛んでいたら、アンジェラスなんて、務まるわけもない。
大将軍たいしょうぐんらしく、堂々としていよう。

そう決めて、腹いっぱいになって寝てしまったフェンリルを胸の中へ入れ、執務室へ向かった。

執務室は、いつもの事ながら書類が荒らされていた。
墨が机全体に溢されていて、キツい匂いが鼻をつく。

「全く……」

魔法で、墨を取り払いただの水にして、その上から、火の玉を浮かび上がらせて水蒸気として空中に馴染ませる。
そして、歪んでしまった紙は風で新品のように直す。

どれだけ陰湿な事をされようと、魔法がある以上、大して問題にはならない。
それどころか、その陰湿な行為でさえ意味をなさないのだ。

本当に、無駄な行動だと思う。

「やっぱり、うまく人のことは理解できそうにないよ。」

このままでは、先が思いやられると、項垂れる私にフェンリルは憐れみでもしたのか、小さな手で頭を撫でてくれる。

『世界ノ意志様ガ、出来ヌコトヲ言ウ訳ガナカロウ。』

「うん……」

そんなことは言われずとも分かっている。
世界の意志様は、あくまでも私を労ってこの世界に送ってくださったのだ。
もちろん、人間を知ると言う目的を含まれているのだが。

「ねぇ、なんで世界の意志様は人間のいない世界に私を送ったんだろうね。」

本当は、獣人のことなんて知る必要はない。
なにせ、世界の意志様は人間を知れといっただけで、獣人を知れと指示した訳ではないのだから。

それでも、私が知ろうと思っているのは生きる目的がないから。
何をすればいいか分からないから、比較的に近い獣人を人間と重ねて知ろうと思っているのだ。

『我ハ、自由ニ生キルタメダト思ゾ。』

「……自由に生きるなんて私にできる訳ないよ。」

慣れた習慣が中々直るないように、自分の意思で決める事に慣れていない私には、自由に生きることなんて無理だ。
軍人になったのだって、必要最低限の金は必要だからにすぎない。

「私ね、お金が貯まったら森の中で暮らそうと思ってるの。」

『何故ダ?』

「世界の意志様は、人間を知れといった。でも人間はいなかった、けれど、私は人間と似ている獣人を知ろうと思った。だからね、全世界の獣人に監視魔法をつけて、学ぼうと思うの。」

いい提案でしょ?と微笑めば、何故か顔を逸らされた。

「フェルって、気に入らない事があると直ぐ顔を逸らすよね。」

『貴様ノ考エテイル事ガ理解デキンカラナ。』

「ふふ、私もだよ。」

人の考えなんて分からない。
そんなの当たり前だ。アンジェラスである私や世界の意志様でさえ、予測はできても正確に考えを当てることなんて出来ないのだ。

でも、それでいいと世界の意志様はいつか言っていた。
それがあるから、[全ての生物は止まる事なく成長できる]のだと。



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