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序章 登録試験編
EP1 無能力
しおりを挟む清也が目覚めると、そこは神殿の中だった。
噴水からは七色の水が噴き出し、木々は踊るように揺れ、鳥たちは歌うように鳴いている。
「ここはどこだ?うぐっ、頭が痛い・・・そうか、僕はあの時トラックに・・・」
強烈な頭痛によろめきつつもなんとか立ち上がり辺りを見回し、その美しさを改めて実感する。
(ここが、天国なら悪くないな)
そう思いつつ虚空を見つめていると、後ろから肩を叩かれ声をかけられた。
「あの~ここがどこか分かりますか?」
驚いて振り向くとそこには目がくらむほど綺麗な、茶髪でセミロングの女性が立っていた。
「すみません・・・僕にも・・・」
様々なパーティや舞踏会に参加”させられて”きた彼でさえ、これまでに会ったことの無いほど綺麗な女性に完全に、清也は完全に目を奪われた。
視界に映るその女性の全てが、背後に広がる光景と相まって、神々しさを感じさせる。
「ですよねぇ・・・。」
清也の短い答えにも女性は反応を示した。
その後、女性は辺りを見回しながら去っていった。何だか覚えがある女性だったが、清也は思い出せなかった。
そしてまた景色を見とれていると、頭の中に透き通るような綺麗な声が響いた。
「転生者達よ、2階の応接の間へ来るのだ。」
~~~~~~~~~~~~~~~
言われた通り、階段を探して応接の間に向かうと既に7人がそこにいた。やはり、さっきの茶髪の女性も7人に含まれていた。
7人の中で一際目立つ女性がいる。
赤い長髪に白いドレス。金色のティアラ、翼をあしらった杖をもったその女性は、皆が思い浮かべる女神そのものだった。
そして、皆が揃ったのを確認すると、おもむろに玉座から立ち上がり、杖を天に向けて構えた。
「其方たちは、導かれし者!
天界元老院の総意により、美しき心と輝かしい未来を持てども道半ばで倒れし者だとして、転生の対象に選ばれた!
其方たちは3つの世界へ分かれて転生してもらう。
そして、究極の目標である"世界の破壊者"の討伐を目指してもらうことになった!
一つ目は太平の世界・・・これは比較的平和な世界だ、魔王は存在しているが民は今のところ平穏に過ごせているが、魔王の存在が脅威であることには違いない。
それに最近、原因不明の災害が頻発しているためその原因を突き止め、魔王を討伐して欲しい。
二つ目は戦乱の世界・・・この世界は人間同士の争いが絶えない世界だ。だが、その影に魔族の存在を我々は感じているため、調査に向かって欲しい。
三つ目は超克者の世界・・・所謂異能力者で溢れかえっている世界だ。能力の使いすぎにより世界全体のバランスが崩れ、マナエネルギーの枯渇も問題となっている。
また、最近異常に強力な能力を持った者が生まれやすくなっているようだ。調査に向かってもらいたい。」
ここまで話し合えると女神様と思わしき女性は一呼吸置いて、自己紹介をした。
「申し遅れたが、私の名前はエレーナ。
天界を統治する女王にして、女神と呼ばれている者だ。
私は世界の破壊者はこの三つの世界のどれかにいると考えている。君たちにその調査をしてきて欲しい。
だが、何の能力もないままの転生では心細かろう。そこで、生前培っていた技能を選んで、その技能を特殊能力に変換しよう。
転生する世界は能力に応じて決めようと思う。ある程度の注文は受けるつもりだ。能力は人生を決めると言っても過言ではないからな。慎重に決めるが良い。」
~~~~~~~~~~~~~~~~
真っ先に能力を決めたのは先頭の男だ。赤髪で明らかに熱血な男だが、やはり望む能力も見た目に違わずと言った感じだった。
「炎を操る力が欲しい!」
女神もお安い御用と言わんばかりに杖を振りかざした。
すると男の指先から赤い閃光が迸った。
「力がみなぎって来るぜ!」
火の玉を四つ生み出したかと思えば、自らの体の周りで旋回させる。
少し経ち、力を試し終わった後、彼は超克者の世界へと旅立った。
彼は消防士で、炎より熱い隊員だったらしいが、救助中に亡くなってしまったらしい。
二人目はとても若い女性地質学者で、大地を操る力。
三人目と四人目は、天文台勤務の研究員の双子の男女で、宇宙を読み、操ると言う強力な能力を二人で一つという縛りを持って手に入れ、三人とも戦乱の世界へと向かった。
五人目は銀行員の男性で、黄金を操る力を手にした。
ただ、一日に黄金を生み出せる量は多くないようだ。少しがっかりしていたが「無いよりマシだよな!」と言って、最後には笑顔になっていた。
六人目はさっきの女性だった。前世は薬剤師だったようで、調合系の回復魔法を習得したようだ。
女神様から何か耳打ちされていたが、清也には聞き取れなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして、ついに清也の番が来た。
皆、生前就いていた職を活かせる能力を手に入れていた。
だが、清也は他6人と違って熱心に仕事をしていたわけでも無いし、職につく為の能力さえまともになかった。
一応、吹雪カンパニーはウィンタースポーツのサービス、具体的にはスキー場、スケートリンクの運営、ウィンタースポーツアイテムの販売などで、業界を牽引していた。
そのため清也もスキー、スケート、ついでに水泳も習ったが、どれも身に付かなかった。
「エレーナ様、私には特技と言える物がありません。」
「たしか、其方は前世でかなりの出世株だったそうだな。その過程で何か学び取ったことはないのか?」
清也はここが人生を本当の意味で”やり直すチャンス"なのだと悟り、腹を括った。
「・り・せん」
「おお!欲しい能力は決まったか!?」
そう聞き返してきたので今度はハッキリと言った。
「能力はいりません!!」
清也の声が応接の間全体に響き渡った。
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