『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

文字の大きさ
4 / 251
序章 登録試験編

EP2 始まりの日

しおりを挟む
 女神エレーナは長きに渡って転生者を導き、数多の能力を授けてきた。

 その過程で前世の功績に見合わぬほど強力な効果を求める者や、自分の性質に合致していない能力を求める者、挙げ句の果てには女神自身と共に転生することを望む者。

 その他、様々な転生者と出会ってきた。
 しかし、今回のようなことは前代未聞だった。

「能力がいらない!?」

 思わず、女神としての威厳を保つことさえ忘れ、本音が漏れてしまった。

「私が人生の中で唯一学んだこと、それは身に余る力は人を溺れさせ、堕落させるという事です。
 私は人生をやり直せるなら自分の力で運命を切り開きたいとずっと考えてきました。誰かの力に頼ることなく歩んで行きたいと。
 エレーナ様に言うのも変ですが、これこそ神の与えたチャンスだと思うのです。」

 エレーナは、訝しく思うと共に、この若者には何か光るものがある。そう感じて、とても興味深く思った。
 今でこそ凡庸な青年。しかし女神の眼には、彼の姿に重なる宿が見えていたのかもしれないーー。

「良いであろう。能力とは転生時にのみ手に入れられるものではない。
 今の自分に似合うものがないと考えるのなら、旅を通して見つけるのも良いであろう。
 幸い、冒険者の酒場での名簿登録試験に合格できるだけの最低限の力は有りそうだ。
 謙虚なる冒険者、清也に祝福あれ!其方は太平の世界にてじっくりと経験を積むが良い!其方の活躍楽しみにしておるぞ!」

 エレーナが呪文の詠唱を始めると視界が回り始め
 意識が深い渦の中に吸い込まれていった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 気がつくと、そこは森の中だった。
 起きあがろうとして少しよろめき、自分の体を見ると、鉄の甲冑を纏っていた。
 右足の付け根には袋がついていて、左足の付け根には青銅の剣がしまわれている。

 早速、袋の中を見てみると中には現在地と近辺の地図が一枚。手紙が一枚。
 金貨が4枚。銀貨が9枚。銅貨が10枚が入っていた。

 手紙には、

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 冒険者たちへ
 
 無事に転生が済んだようで何よりだ。
 能力を使わずとも、もしくは使えなくても十分に名簿登録試験に合格できるような装備を渡してあるから安心して欲しい。

 失敬、名簿登録試験について説明していなかったな。

 君たちが送られた3つの世界はどの世界でも、冒険者の酒場(トラベラーズギルドとも呼ばれる)に登録することで旅のサポートを受けられる。
 そのため、余程の理由がない限りは加入を奨めているのだが、その地を治める領主や国王の許可を得る必要がある。

 その為の登録試験である。土地によって内容は異なるが、能力を持ってさえいれば、十分に突破が可能なはずだ。安心して欲しい。

 能力が使えない場合は、少し厳しい戦いになるかも知れないが、突破さえできれば大きな成長を得られることだろう。

 名簿に登録すれば仲間を募ることや、負傷時の治療費の一部負担、怪我などで動けなくなった際の救出、関門の特別許可証、クエストの受注など様々なことが可能となる。
 重ね重ね言うが、絶対に加入してもらいたい。

 硬貨についても説明しておこう。三つの世界共通で
 金貨がファルゴ、銀貨がファルシ、銅貨がファルブだ。

 ファルシ10枚でファルゴ一枚。
 ファルブ10枚でファルシ一枚と覚えていて欲しい。

 まずは近辺の村や町に向かって欲しい。全てはそこから始まる。冒険の順調な滑り出しを期待している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 清也は”能力を使えない者”というのは自分のことだと理解し、エレーナからの激励に感動した。

 清也は地図で一番近くいソントの町へ向かうことにした。どうやらギルドもそこにあるようだ。
 うっそうと茂る森林の中で、一人の青年の冒険は始まった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 2時間が経ち、日が暮れてきた。
 清也はもちろん野宿などしたことはないし、そもそも甲冑を着て2時間も歩いたことなどあるわけない。疲れ果て、座り込むと腹も空いてきた。

 仕方がないので一度仮眠を取ろうかとしていると、木々の隙間から煉瓦造りの家と煙突が見えた。

 これは助かったと思い、早速ドアノブを叩いた。
 次の瞬間、勢いよく扉が開き清也は家の中へと一瞬で引き込まれた。

「けけけけ、ギルドの野郎だぜ、けけけけ。大層な鎧と剣じゃねぇか、え?ふへへへ」

 下品な笑いをあげる、髭を生やした男は短剣を突き付けながら清也の鎧を脱がし、剣を抜き去り、袋に手を伸ばした。

 登校も下校も習い事も旅行も、全てSPと共に行ってきた清也は今、自分に起こっていることが理解できなかった。

「おお!5ファルゴか!なかなか持ってるじゃねぇか」

 自分がいわゆる”カツアゲ”に合っていて、相手は空き家を寝蔵にしていた山賊だった。
 そうと気付いたのは、全財産がシャツとズボン、パンツ、それに地図と手紙へと成り果ててからであり、気付いたら男はいなくなっていた。

 自分の今の状況が理解できた清也。当然、大慌てである。

(え、ちょっと待って!?何も残って無いよ!?)

 ここに居るのはまずいと思い、残された地図を頼りに、彼は再び歩み始めた。
 一晩かかって、体中傷だらけになりながら野を越え、山を越え森を抜けて泉で水を飲みつつ、やっとへと辿り着くことができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...