『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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序章 登録試験編

EP12 特訓

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 ギルドを出て徒歩5分の料理店で昼食を取ることにした。
 料理を注文した後、二人は自然な会話の流れで今後の作戦を立てることになった。

「まず、僕たちの能力を整理しよう。
 僕は能力を持っていないけど、一応これのおかげで1時間に3回までなら冷気を纏った攻撃ができる・・・らしい?」

 清也はフローズンエッジを握り、まじまじと眺めながら言った。

 あの鍛冶屋の店主を信頼してはいたが、魔法ではなく科学が発展した世界で生まれ育ってきた身としては、本当に振るうだけで冷気を放てるとは信じがたかった。

「私の能力は調合系の回復魔法。具体的には裂傷、打撲、骨折、毒の治療が瞬時にできるわ。
 ただ、病気の治療と内臓の致命的損傷、火傷だけはすぐには治せないわ。
 一応、病気の治療は学校で習ったからある程度までは魔法とは別に薬を作れるけど、材料が無いと無理ね・・・この世界に元いた世界と同じ材料はほとんどないわね・・・。
 あと、昨日も見せたけど植物を操る攻撃を1日に一度だけできるわ。」

 清也は花の言葉を聞いて、何か引っ掛かるところがあったが、それが何かは分からなかった。

「君はある程度、自分の能力をコントロールできているみたいだけど、僕はまだこの剣を振ったことさえないや。特訓が必要だなぁ・・・。」

「じゃあ、私と一度戦ってみる?
 実は私、薙刀を習ったことが少しだけあるから、この杖で物理戦闘も出来るわ。」

 ほかに特訓のアイデアがある訳でもないので、清也は花の提案に乗ることにした。

「じゃあ、昼ご飯を食べ終わったら早速始めようか。」

 そう言ったとき、ちょうど料理が運ばれてきた。
 清也の料理は前世でも好きだった定番料理、鶏の唐揚げだ。花の料理はチーズグラタンだった。

「いただきます!」

 2人とも空腹で倒れそうだったので、かなりの量ではあったがすぐに食べ終わった。

「よし、じゃあ行こうか!訓練とはいえ、町中でするのはまずいよね。・・・外に出ようか。」

 清也はそう言って花を連れて町から出た。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 門を出て徒歩3分。町からも適度に離れ障害物の無い、訓練に丁度良い場所を見つけた。

「ここでいいかな。」

 そう言うと清也は初めて剣を抜いた。

 改めて見ると美しい剣だ。
 剣に関してはゲームでしか見たことのない清也でも、はっきりと分かるほどの出来だった。

 持っていても仕方ない。そう思い、振ってみることにした。
 そしてすぐに、鍛冶屋の店主が言っていたことは本当だと実感した。

 振った剣。その刀身の軌跡に沿うように、空気が白く鮮やかに輝いた。それは刀身の残像ではなく確かに冷気を伴った波のようだった。
 そして、一振りした後の刃の輝きは、少しだけ鈍くなっていた。

「これが・・・フローズンエッジの力・・・。」

 そう言った後、清也は続けて十時型に振ってみた。あたりに冷気が満ちて、足元の草は凍りついていた。
 しかしその後、刃の輝きは完全に失われていた。

「す、すごい!」

 花は清也の素振りを見入っていたが、我に帰ったように口を開いた。

「じゃあ、冷気も散ったようだし、始めるようか!」

 そう言って清也は花に向かっていった。

「わっ!ちょっと待って!まだ心の準備が!」

 彼女は慌てて、振り下ろされた剣を杖で受け止めた。

「問答無用!」

 清也は少しカッコつけて言ってみた。

「張り切りすぎだって~」

 花は少し困ったように言ったが、動きに迷いが一切無い。
 鮮やかに攻撃を受け流し、隙を見つけると杖で突こうとしてくる。



 花は清也の想像を超えて強かった。いや、純粋な技だけなら清也を上回っていた。

 それもそのはずだ。花は実際に習っていた技を馴染んだ武器で使っている。
 それに対し、清也は戦闘に関してはずぶの素人で、尚且つ持っている武器は一級品とは言え、今朝入手したばかりで、たった今初めて振ったのだ。

 実力の差は歴然だった。手にした武器だけが、その差を埋めていた。

 互角の勝負が10数分続いた。
 清也はなんども杖で殴られたが、戦いのコツを掴み始めていて、攻撃を喰らうことも減ってきた。

 花は杖を巧みに操り、時には棒高跳びの要領で跳躍したり、杖を軸にして回し蹴りを繰り出したりと、アクロバティックな動きで清也を翻弄した。



 両者ともに疲弊しきった頃、先に仕掛けたのは花だった。

「そろそろ行くよ!それっ!」

 掛け声と共に杖で地面を叩き、何かを詠唱し始めた。清也にはそれが何か、直感で分かった。

「あれか!まずいっ!」

 言い切るより先に走り出した。
 振り向くと、さっきまでいた地点の雑草が生い茂り、檻とも鞭とも言えぬ形となって、成長し続け、清也に迫ってくる。

 咄嗟に、自分に向かって伸びてくる蔦を切り飛ばしたが、断面からまた伸びてくる。

「このままじゃ負ける!」

 ただの模擬戦と分かっていても、やはりここまで持ち堪えたのだから勝ちたいものだ。
 すると、握っている剣が急に冷たくなった。よく見ると刃が白く輝いている。

「そうか!復活したのか!」

 この機を逃す手はない。
 そう思った清也は蔦から逃げながら、必死に冷気を活かす方法を考えた。

 そして、何を思ったのか逆に蔦の方に振り返って走り出した。

「観念したのね!」

 花は満足げに言ったが、実際はその逆だった。

「僕はまだ!諦めてないよっ!」

 清也はそう言って剣を蔦の根元に向けて振り下ろした。

 冷気は雑草を凍らせられる事はさっき分かっていた。
 だから、根本を地面と共に氷漬けにすれば、蔦は伸びることができない。そう考えたのだ。

 結論から言えば、この考えは正しかった。
 蔦は伸びなくなり、これまでに生成された蔦も地面へと垂れ下がった。

 だが、これで終わった訳ではない。
 すぐに清也は花へと向かっていき跳び上がり、杖へと剣を振り下ろした。
 おそらく植物の操作で疲弊していたのだろう。花は簡単に杖を取り落とした。

「降参!強いじゃない清也!」

 観念した花は、先ほどまでの好戦的な態度とは打って変わって、いつもの大人しい性格にもどっていた。

「いや、全てこの剣のおかげだ・・・。
 単純な体術だけなら、君の方が遥かに優れていたよ・・・。」

「ありがとう♡だけどあなたは、もっと鍛える必要がありそうね。
 あら?怪我してるじゃない。ちょっと待ってね・・・。」

 そう言うと花は、取り落とした杖を拾いに行き、清也に向けて振った。

「ありがとう!また明日もここで訓練しようか。」

「次は絶対負けないから!」

 ~~~~~~~~~~

 部屋に帰って、寝る直前にもう一度剣を抜いてみた。
 手に馴染んだからか、ひとまわり刀身が伸びているようにも感じる。

「まだまだ、お前を使いこなせて無いな。」

 清也はそう呟くと、すぐに深い眠りへ落ちて行った。
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