15 / 251
序章 登録試験編
EP13 試験内容
しおりを挟む三日間の特訓。
その戦績は端的に言えば、花の圧勝であった。
初日の勝利がまぐれだったと思わざるを得ないほど、清也の惨敗。そして連敗であった。
そもそも、あの日に清也が勝てたのは植物を操る花が、棒立ちをしていたからであって、もしも根本を守っていたら、蔦と杖の挟み撃ちで、清也にはなす術が無いのである。
そして、清也は殴られ続ければ倒れてしまうのに対し、花は自分を回復することができる。それも清也が勝てない要因の一つであった。
だが、清也もただ負け続けていた訳ではない。
動きは初日に比べれば格段に機敏になった上に、斬撃も一撃が重く、鋭くなっていった。
「凄い進歩じゃない!まだまだ私には及ばないけどね!」
訓練を終え町へ帰る途中、花は得意げに言った。
「結局勝てなかったけど、どんな試験でも僕たちなら合格できる。そんな気がする!」
「じゃあ、明日の7時に正門ね!」
花はそう言うと、走り去って行った。
3日目の夜は明日が楽しみに、そして不安に思えた。
しかしそれ以上に、とても疲れていたため2人ともあっさり眠ることができた。
そして、夜が明けた。
朝日がソントの町を煌々と照らし、気温は暑すぎず、寒すぎない。そんな心地よい朝だった。
清也は朝早く起きて体操し、身支度を整えて約束通り7時に正門に到着した。
予想通り、花は既に来ていた。
「どんな試験なんだろう?」
道中で先にその話題に触れたのは花だった。
「巨大モンスターの討伐じゃないかなぁ?連携が大事だって言ってたし。」
清也は当たり障りのない答えをした。
「友情の山・・・もしかしたら2人組のモンスターを2人で相手するのかもね。」
花は、より建設的な意見を述べた。確かに、友情の山と呼ばれるからには由来があるはずだ。
「何度も言うようだけど、どんな課題にせよ、僕たちなら合格できるさ!」
清也は張り切った調子で言った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そうして歩くうちに、2人は地図に書かれた友情の山に到着した。
麓にはキャンプが貼ってあり、口髭を生やした中年の気難しそうな男性が腰掛けていた。
「お前達か、今回の試験を受けるのは。」
話しかけるより先に向こうが気付いたようだ。
「はい!よろしくお願いします!」
2人同時に元気よく答えた。
「先に言っておく、この試験は世に無数にある登録試験の中でも最高難度の物だ。
今、酒場にいる連中で、この試験を突破した者は1人としていないだろう。そう断言できるほどの試験だ。
今いる奴らは皆、わざわざ他の町にまで行って試験を受けた者だ。
先に警告しておくぞ。この試験は失敗すれば、最悪2人のうちどちらかが”死ぬ”ことになる。」
そこまで言われて、2人の顔からそれまであった笑みが消えた。
「これではやる気が起きなくって、結果も悪くなるだろう。だから、良いことを教えてやろう。
この試験を突破したものは皆、例外なく偉大な冒険者になっている。」
「一体、試験の内容はどんな物なのですか?」
花が耐え切れなくなって聞いた。
「一度しか言わないからよく聞くんだぞ。山頂には”絆の大樹”と言う神木がある。
その木のハート型の葉を、どちらか一方が持ち帰り、その後3時間以内にもう片方が戻ってくれば、その時点で合格だ。もし、戻って来なければ不合格だ。
片方が持って帰って来たなら、もう片方が持って帰って来なくても良いからな。」
それを聞いた2人は安堵した。想像の何倍も簡単な試験だったからだ。
洞窟に住む黒龍を討伐してこい。などの無茶振りを予想していたので、拍子抜けでもあった。
ただ、相手が下山したかどうかを知る方法が無いのだと気づき、冷や汗が出始めた。
確かにそれなら、お互いをよく知っていなければ成功しない試験だ。
相手の足の速さを知っている必要がある。
「言い忘れていたが、下山した時には狼煙をあげる。それを見たらすぐに降りてこい。
お前らのような軟弱者でも、3時間あれば頂上からでも下山できる。
とはいえ、上の方は酸素が薄いからな、これを飲んで高山病を予防しろ。今飲めば、頂上付近で効果が出始めるさ。」
そう言うと、2人に2粒の錠剤を渡して来た。
「これ!飲んだら二分の一の確率で死ぬ毒薬だったりしませんよね?」
清也は少し怯えながら聞いた。
「そんなわけ無いだろ。」
男はあっけらかんと言った。どうやら大丈夫そうだ。
清也は思い切って飲んでみたが、なんとも無い。花も続けて飲んだが大丈夫そうだ。
「飲んだなら早く言った方がいいぞ、効果が切れるからな。」
そう言われて、2人はすぐに登山道を登り始めた。
2人が見えなくなったのを確認してから男は小さく呟いた。
「飲んだって“死にはしないさ”。」
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる