16 / 251
序章 登録試験編
EP14 接敵
しおりを挟む登山道はよく整備されていて、乾いているため歩きやすい。それは、とても試練の道だとは思えなかった。
通常なら居る筈のゴブリンやスライム、角うさぎなどのモンスターも、一匹もいなかった。
しかし、2人とも決して油断しなかった。これが嵐の前の静けさだと分かっていたからだ。
しばらく進むと分かれ道があった。
看板が置いてあり、こう書かれている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~試練に挑みし者たちよ~
選ぶが良い。二つの道のどちらかを。
一方が絆の大樹へ繋がり、一方が繋がってはいない。
右の道は道が険しく。
左の道は歩みやすい。
友を真に信ずるならば、やるべき事はただ一つ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
清也は納得した。片方が降りて来れば良いと、念を押された理由。
そして高山病の薬をわざわざ飲ませたのは、ここで選択を迫るためだ。しらみつぶしに二つの道を行けば、時間切れで高山病になってしまう。
その事は、花にもわかっていた。
「二手に別れよう」
清也がいうと、花は無言で頷いた。
「僕が右に行くよ。先に山頂についたら、遠慮なく下山してくれ。」
清也は花を安心させるために、笑顔と共に付け足した。
その表情を見た花は、嬉しそうに笑うと同時に少し恥ずかしそうになった。
「け、険しい方の道行ってくれるんだね・・・。ありがとう・・・。」
花は少し俯くと、モジモジと体を揺らした。
真っ赤になった顔を見られたくなかったからだ。
「一人で大変そうなら、遠慮なく逃げていいからね。
もし棄権になっても、別の試験を受ければいいから気にしないで!」
清也は実際のところ、花と旅さえできればそれで良いと楽観視していたので、この発言はフォローではなく本音だった。
彼は特殊な環境で育って来たため、精神年齢が年齢と対応していない。
そのため、並の成人男性であれば言えないような言葉も、躊躇なく言うことが出来る。
自然な流れで繰り出される下心の無い甘い言葉は、花の心を的確に穿っていく。
「うん、分かった。気を付けてね!」
花と清也はお互いを安心させるように、とびきりの笑顔を作って別れた。
2人には分かっていた。ここからが本当の試験なのだとーー。
~~~~~~~~~~~~~~~~
右の道は警告された通り、さっきまでとは異なり険しかった。足場はぬかるみ、穴ぼこだらけで、斜面も急だった。
何十分も同じような道が続き、清也はバテて立ちくらみがしてきた。視界が歪み、肺に空気が入らない。
「まだなのか、山頂は・・・。」
倒れ込みそうになりながらも歩き続けると、入り組んでいたさっきまでの道とは異なり、足場がしっかりと固まった、開けた場所に出た。
奥を見渡すと、巨大な木が一本だけ立っていた。
「あれか!」
清也はあの木こそが絆の大樹であると察した。駆け寄ると、確かにハート型の葉が付いている。
それをもぎ取ると、すぐに振り向いて下山し始めた。まだ狼煙は上がっていない。
清也は自分の方が先に着いたのだと知り、少しでも早く下山した方が、花の帰りが楽になるのではないかと思った。
「なんだ!楽勝じゃないか!」
晴れやかな声で清也は言った。足取りもかなり軽くなった。
帰ろうとすると、また分かれ道があり看板が立っている。
よく見るとそこはさっきの開けた場所だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~絆の証を手にした者へ~
帰るまでが試練である。
この先に待ち受けるのは、真の試練を与えし者。
友と築いた信頼が、希望の未来を照らし出す。
初めに通ったその道と、同じ道を行くがよい。
右を通ってきたなら右を、
左を通っていたなら左を、
無限に彷徨いたくないなら、そうする事が賢明だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
行きには気付かなかったが、看板の詩は一定のリズムで書かれているようだ。
歌のつもりで書いたのかも知れないが、作詩したやつは才能が無い。と清也は思った。
「まぁ、迷って死にたくはないし・・・。」
清也は大人しく看板に従うことにした。
目的を達成した後だからか、行きよりも歩きやすく感じる。
ある程度進むと、真っ直ぐな道に出た。
見通しがよく、雑木林の向こうの山道まですべてが見える。
(・・・ハッ!前から来る!)
清也は視界に移り込んだ、登山道の足場に沿うようにして歩み寄って来る影に、敏感に反応して腰に刺した剣に手を置いた。
それは、これまでに見たこともない怪物だった。頭は緑で、仮面を被ったような顔をしている。
棒のような蛇を片手に持ち、体は青一色だった。背丈は清也よりも少し小さいくらいだ。
「止まれ!」
言葉が通じないと分かっていても、その異様な見た目に、清也は叫ばずにいられなかった。
するとその怪物は奇声を上げて飛び上がり、蛇を清也に向かって振り下ろした。
既に死んでいるのだろうか、蛇はピクリともしない。
清也は咄嗟に、盾でそれを防いだ。
そして、そのまま隙を晒さぬように、盾でできた死角から怪物を斬り上げた。
冷気が空気を白く染める。
当たったかに見えたが、実際は体を捻って避けていたようだ。そして、そのまま蛇で殴りかかってきた。
今度は避けられなかった。蛇は清也の肩に当たり、鈍い痛みが走る。
やはり蛇は死んでいるのだろう。噛まれる事はなかった。
三日間殴られ続けてきた清也にとって、この程度の痛みはなんて事無かった。
後ろに飛び下がり、距離を取る。
すると相手も蛇を下向きに構えた。隙のない構えだ。
ひょっとすると武術の概念があるのだろうか。恐らく、以前の受験者から学び取ったのだろう。
分かってはいたが、この"試練"は想像よりも手強そうだ。清也は一層、気を引き締めた。
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる