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第三章 シャノン大海戦編
EP80 乱入
しおりを挟む「妥協案ねぇ・・・先に聞いとくけど、私の貞操が危機に瀕しない内容なんでしょうね?」
花は汚らわしい物を見る目で、シンを見つめている。
流石にナンパ同好会出身者も、友人からこんな目で見られると心に響くものがある。
花が声を潜めることなく聞いたので、既に満席状態の酒場の客からも好奇の目で見られる。
「大丈夫でござる。安心してほしいでござる。
淑女である花殿に低俗な提案をして、大変申し訳なかったでござる。」
シンはこの一日でかなり反省し、口調が侍になっていた。
しかし、便宜上仕方無いとは言え彼には、胸囲を聞かれて服を脱ごうとし始める女性を、淑女と呼んで良いのか些か疑問であった。
「で、妥協案と言うと?」
花はシンに向けた鋭い眼光を緩ませると、落ち着いた口調で聞いた。
「手料理を振る舞おう。花の手料理は実際のところ、かなり美味い。
それでダメなら、俺が作った酒で酔わせて契約書にサインさせよう。
お前任せになっちまって申し訳ないんだが、警戒心を解かせるためにはお前ひとりでやってもらうしかない。」
「まぁ、料理を作ってお酒を注ぐくらいなら・・・。」
花は渋々了解した。
本心では清也以外には、そういう事はしたくないと思っていた。
「う~ん・・・。”食べさせる”くらいはあるかも・・・。」
シンも花にこんな事を頼みたいとは思っていなかった。
しかし、計画の成功には彼女の尽力が必要不可欠だと分かっていたので、歯を食いしばって頼むことにした。
「無い事を祈るけど、求められたらそれくらいはするわ・・・。清也には内緒だよ・・・。」
花は強い嫌悪感を示したが、条件付きでシンの頼みを承諾した。
「今日中に、サーペントの本部に招待状を送ってね。」
花はそう言うと、ダンスの自主練習を開始した。
「おう、分かった。」
シンは笑顔で返事し、手紙を書き始めた。
花に本文を見られないように気を付けながら、数分の後に手紙を書き上げた。
―――――――――――――――
拝啓 水中戦専門傭兵組織・サーペント総監様
肌を焦がすような熱波が照り付ける、気温が高い日が長期にわたって続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、貴殿をシャノンの町にて行われるコンサートに招待したく、この手紙を送らせて頂きました。
現在、私の助手が運営する組織と貴殿の運営する組織が、健全な関係にないことは承知していますが、前向きに検討していただけたら幸いです。
※アイドルによる”人には言えない接待”を受ける事を求められる場合は、貴殿以外の方に行き先を教えないで来る事と、同封した装飾品を身に着ける事が条件です。
”冥界”を統べし者・黄金の魔術師
―――――――――――――――
(本文はこれでいいか。ミステリアスな方がそれっぽいよな。
表向き死んだと思われてる俺が、本人だと分かる物を入れなとな。)
シンは敵対組織の大将として招待するよりも、生前は政界にも介入していた有力者として名乗った方が得だと考えた為に、このような文を書いた。
シンは本人だと分かるように、ポケットから自前の金貨を取り出すと能力で変形させ、複雑な形をしたイヤリングへと変形させた。
そして、そこに「黄金の魔術師より、親愛なる貴殿へ」と刻印した。
(このレベルの加工技術はこの世界に無い。
そして、自分の名前と本人の名前が彫り込まれているとなれば、信じざるを得ないだろう。
後は、花の写真を入れれば完璧だ。)
シンは封筒に手紙と花の写真、そしてイヤリングを入れた。
そして、”親展”という文字の赤色の封蝋をした。
(あとはコイツを自宅に向けて送るだけだ。
花には悪いが、手を出される直前で助け出してやれば良い。
写真を撮って、音声を録音して恐喝の材料にしよう。)
シンは確かに反省はしたが、”改心”はしていなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~
シンが封筒を持って郵便局に向かおうとしたとき、酒場の扉が勢いよく蹴り開けられた。
花とシンを含む、店内にいた全員が全員が扉を向くと、つまらなそうな顔をしたサムが立っている。
「飯。」
サムは二人には目を向ける事なく、マスターを睨み付けて短く言葉を発した。
「あ、あぁ・・・今作るよ・・・。」
マスターは怯え切った様子で、作りかけの客の料理を中断して新しい料理に取り掛かった。
「ここには来るなと言ったはずだ!」
「そんな言い方は無いでしょ!今すぐ謝りなさい!」
サムの態度の悪さに、当然だが花もシンも怒り心頭である。
シンはこうなる事が分かっていたので、「酒場は子供が来る場所じゃない。」という理由でサムを出入り禁止にしていた。
「うるせぇっ!さっさと食わせろ!」
花は自分の想像以上にサムの性格が歪んでしまった事を悟り、怒りと悲しみが入り混じった感情に押し潰されそうになった。
しかし、彼女の中で最も大きくなっていた物は責任感だった。
(私があの時きちんと叱っていれば・・・。)
サムが地震を起こした日に叱ってさえいれば、ここまで悪化しなかったと思った事が、昨日から彼女の胸を締め付けていた。
花は人前である事も憚らずに、足を踏み鳴らしながらサムへと近づいて行った。
サムはその様子を見ても、一切動揺せずにヘラヘラと笑っている。
「いい加減にしなさい!」
花はサムの頭上から大声で怒鳴りつけた。
清也の175㎝には劣るが、170㎝近い彼女が見下ろしながら怒る様子は傍から見ても迫力に満ちている。
「お前調子乗りすぎな。表出ろ。」
シンは花が協力してくれる今こそが最大のチャンスだと悟り、暴走族モードを解禁した。
目付きは糸のような細さになり、興奮しているせいか襟足が逆立っている。
「うるせぇババァ、適当に踊っておろよ。どうせ、俺がいなきゃ戦いにすらならねぇんだろ?
希望の槍だか何だか知らないが、変ちくりんな武器しか使えない雑魚は黙ってろ。」
サムは一度の発言で二度も禁句に触れた。
「誰がババァですって!?」
「変ちくりんな武器だと?」
「俺たちの金なんだぞ!」
サムの発言は花はもちろん、その場にいた全員を敵に回した。
血気盛んな者は立ち上がり、サムの方へと詰め寄った。
「何だぁ?俺とやる気か?」
サムは相変わらずヘラヘラと笑っている。
「そんなに死にてぇなら、俺がぶっ殺してやる。」
シンは言い終わるより先に跳び上がると、酒場の天井に頭をぶつけそうになりながら、十八番である飛び蹴りを放った。
シンの放った蹴りは完璧な軌道を描いてサムの顔面へと叩き込まれたかに見えた。
<グラビティ>
サムが冷淡な口調で呪文を唱えると、シンは足が命中する寸前になって急に体勢を崩した。
吸い込まれるように地面へと落下すると、大きく尻餅をついたシンは体が重すぎて立ち上がることが出来ない。
「てめぇっ!俺らの大将に何して・・・!おぐっ・・・。」
その男を合図にするかのように、酒場にいた全員が土下座をするかのような姿勢で跪いた。
全員が恨めしそうな顔でサムを睨み付けているが、指先さえ動かせないようだ。
いや、全員では無かった。
花だけは何とも無いかのようにピンピンしている。
「何してるのよ!!今すぐ止めなさい!!この大バカ者ッ!!」
花は力任せにサムの頬を平手打ちした。
サムは花からの思わぬ反撃に驚き、大きくのけぞった。
(マジかよ・・・俺の拳で怯みもしなかったアイツが・・・。)
シンは内心でかなり驚愕していた。
「やりやがったな!この野郎!!」
体勢を持ち直したサムは完全に逆上し、花の下腹部に向けて稲妻を纏った拳を放とうとする――。
しかし、サムは背後から漂ってくる”強烈な気配”に動揺し、拳を引っ込めた。
急所を殴られると思い、身構えていた花も何も起らないことに驚き、閉じていた目を開けた。
花が再び扉の方を見ると、”黒いマントを全身に纏った男”が立っている。
男は周りの様子を気にも留める事無く、サムの方へと歩み寄ってきた。
「やめておいた方が良い。俺は今、機嫌が悪いからな。」
男はフードに覆われた顔で、サムを覗き込むと低い声で呟いた。
「な、何だお前!!・・・喰らえ!」
<<<マスターライトニング!!!>>>
突然現れた異様な男に動揺したサムは、右手に纏わせた稲妻を肥大化させ、男に向けて発射した。
究極の魔法が男に命中したのを確認したサムは勝ち誇った笑みを見せた。
しかし、男は息を切らす事すら無く生きていた。
前に突き出した手先から、すべての電流を吸収したように見える。
「困るんだよ、その程度の威力じゃ・・・。
この世界を吹き飛ばすくらいの呪文を連射してもらわないと困る。」
男は腰を抜かしてしまったサムの方を見下ろすと、もう一言呟いた。
「私では無く彼女に放っていたら、お前を殺していた。命拾いしたな。」
男は冷酷な口調でサムに囁くと、顔を上げた。
そして、サムと同じように恐怖で腰を抜かしてしまった花を助け起こすと、優しく話しかけた。
「三色チーズ牛丼の特盛に温玉付きをお願いします。」
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