『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第三章 シャノン大海戦編

EP89 魚竜

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「くそっ!8班が壊滅したか!だが、その分は7と9で何とか補ってくれ!
 11班、入り江への海竜の集積状況を伝えてくれ!
 ・・・・・・よし、ノルマの7割に到達したか!で、被害状況はどうだ!?
 ・・・そうか。中に入った奴の数人が戻らなくて、10班が押され気味か・・・。
 よし!1から4班は10班の援護に向かえ!後は俺と花で何とかする!
 他の班も入り江に向かって少しずつ水流の渦を収縮して行ってくれ!背後に気をつけろよ!」

 シンはコンサートホールから持ち出した無線機で、各班に素早く指示を飛ばしていく。
 そして側に居ながらも、何も手伝うことが出来ずに立ち尽くしている花に、早口で話しかけた。

「そろそろアトランティスに向かうぞ!準備は出来てるな?」

「え、ええっ!バッチリよ・・・。」

 花は自分の言葉に段々と覇気がなくなっていくのを感じた。
 もはや、隠しようが無いほどに海竜を恐れてしまっている。
 シンはそんな彼女に対して、大声で喝を入れる。

「清也にまた会いたいなら、死ぬ気で生きるぞ!分かったな!」

 シンの激励は、誰でも分かるほどに強く矛盾している。しかしその気迫は、花を奮い立たせた。
 彼女も言葉では返事しなかったが、縮こまっていた姿勢を正す事で返事に代えた。

「それじゃあ、魔法をかけるわよ!」
<地上を包み込む大気の力よ!水面下に進みゆく我らに、その加護を与えよ!!>

 花が杖を天にかざして高らかに叫ぶと、清也と花の頭が透明なシャボン玉に包まれた。

「これ、量的に足りなくないか?」

 シンは素朴な疑問を述べた。
 たしかに見た目通りの含有量なら、10分と持たずに吸い尽くすだろう。しかし、その心配はない。

「これは空気を溜めるのはもちろん、フィルターとして空気を取り込む事も出来るの。
 二人で分けたし・・・6時間ね。共有した泡同士は通信が出来るから、水中でも会話できるわ。」

「よし!それじゃあ、俺たちも出撃だっ!!」

 シンは言い終わるよりも先に、アトランティスに直進できる浜辺から海へ飛び込んで行った。
 花もそれに続いて、海に飛び込んだ――。

~~~~~~~~~~~~

 1から4班の尽力によって、シン達が進む道は綺麗に舗装されていた。
 数百メートル先に魔線が飛び交う戦場が広がっているとはとても思えないほどの静かさである。

 水温は暑すぎず、寒すぎずと言った心地の良さで、とても泳ぎやすい。
 背の高い海藻群が日光を遮り、その隙間から差し込む細い光が、暗い海中を木漏れ日の様に照らすという幻想的な光景が形作られている。

(あぁっ♪あの魚、とっても可愛い♪)

 花は眼前に広がる非日常的な光景にすっかり魅了されている。
 もちろん、遠方で死闘を繰り広げている仲間達の存在を忘れたわけでは無い。
 だからこそ、足が千切れそうなほどの速さで泳いでいるのだが、その道中を楽しむだけの心の余裕は出来始めていた。

「おっと・・・花、これは見ない方が良い。」

 花よりも少し先を泳いでいたシンは何かに気づいて、花の目を塞いだ。
 視界に映る美しい光景を堪能していた花は、シンの突然の行動に僅かな嫌悪感を覚えたが、周囲の雰囲気が明らかに先ほどと違う事を肌で感じて、何となくではあるがが広がっている事を、暗に察したのだった。

(こりゃあひでぇな・・・。)

 シンは腹部と胸部を食い破られた女性の凄惨な遺体を眺めながら、静かに頭を下げた。
 最期の表情は生きたまま腹を食い破られるという、限界を超えた苦痛によって目が見開かれており、決して安らかとは言えない。
 生前はかなりの美女であった事が窺えるが、今となっては物言わぬ肉塊に過ぎない。

 その奥には、服装から辛うじて性別が判断できる遺体が男女合わせて数体、脱力し切った姿勢で浮いている。

(場所的に考えて3班か・・・。)

 シンは再び頭を深く下げると、悪いとは知りながらも、遺体の様子を少しだけ観察した。

(・・・体長はマチマチで、5.6メートルの奴もいれば2メートルくらいの奴もいそうだな。
 牙は鋭くて・・・嘴がある!?一体、どんな姿をしてるんだ・・・。)

 シンは噛まれた後や争った痕跡などから、未だ遭遇しない”海竜の姿”を想像しようとしたが、謎が深まるばかりであった。

「シン・・・?もう目開けても良いかな?」

 花が耐えきれなくなって、モジモジと体を揺らし始めた。

「・・・もう分かる事は無いか。そろそろ行こう。」

 シンは花の手を引いて、再び泳ぎ始めた。

~~~~~~~~~~

「私たちの進む道を確保するために・・・。」

 シンから状況を聞かされた花は、心を深く痛めた。
 心なしか海全体が、仄暗くなって来た気がする。

「死んで行った奴の為にも、必ず破海竜をぶっ殺してやろう。」

「・・・そうね。必ず、破海竜を倒さないと!

 その為にはアトランティスに・・・・・・あぁっ!!」

 花は突然、目を見開いて前方を指差した。
 シンは遂に海竜がその牙を剥いて来たのかと思い身構えたが、それは違った。



 ”青色”と言うには、薄すぎるかもしれない。
 快晴の空に広がるのと同じ色をした巨大な城が、眼前の海底に鎮座している。
 二人はその城が一体何なのか、確認するまでも無く見解が一致した。

「うぉぉっ!!!これがアトランティスかぁっ!!」
「とっても綺麗ね・・・♪」

 先程までの重苦しい雰囲気が取り払われ、軽やかな気分へと塗り変わって行った。
 二人の気分に合わせるかのように、段々と黒ずんでいった視界が青白い光によって照らし出された。

 そんな二人をするかのように、花は”ある物”を見つけて興奮を隠せなくなった。

「見てよシンっ!!イルカさんがいる!」

 花はシンが見ていたのとは真逆の方向を指差して、興奮が抑えられないかのように叫んだ。

「おいおい、海竜がいる海にイルカなんてよ。・・・なんつって!」

 シンのくだらないダジャレを、花は完全に無視した。

「あれ?でも、ちょっと大きいわね。もしかしてシャチかな?」

 花はよく目を凝らすと、自分が思っているよりもイルカが大きい事に気付かされた。

 結果から言えば、この発言が二人の”命運”を分けた――。

「おいおい!そりゃあ全然違うぜ!」

 イルカとシャチでは凶暴性の度合いが全く違う事を、シンは知っていた。
 なので武器を待っているとは言え、一応自分の目で確認しておこうと思い、花が見ている方向に上機嫌で目線を移した。

「どれどれ、俺が確認してやらぁ!・・・・・・・・・絶対に声を上げるなよ。今すぐ逃げるぞ。
 あぁっ!ヤバいっ!!!気づかれたっ!!!死にたく無かったらさっさと泳げっ!!」

 シンは突然に顔面蒼白となり、慌てだした。

「え?まさかサメだったの!?」

 花は呆気にとられて、微動だにしていない。
 その様子を見たシンは、大声で叱り飛ばした。

「馬鹿やろぉぉぉッッッ!!!今すぐ逃げろって言ってんだろ!」

 花の背後に迫りくる”奴ら”を見て焦ったシンは、彼女に向けて叫ぶ。

「あれはだッッッッッ!!!!!」
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