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第三章 シャノン大海戦編
EP96 碑文
しおりを挟む「ひ、ひでぇ・・・。」
シンは顎を摩りながら、花に非難の目を向けるが花はそんな事を気にせずに何かを考え込んでいる。
「何か水着の代わりになる物無いかなぁ・・・と言うか、電撃で溶けるって不良品じゃ・・・あっ!」
花はそこまで不満を言って、なぜ水着が蒸発してしまったのかを理解した。
シンによって殴り倒された水着屋の店主、花は彼に対して防御力の高い水着を要求した。
持ち出された水着が、あまりにも防御の対極にある見た目をしていたので分からなかったが、彼は確かに花の注文には答えていたのだ。
「私を守って身代わりに消えたのね・・・。
そっか、あの店主には悪い事・・・してない!覗きしてた事に変わらないし!」
花は一瞬、注文通りの物を売ってくれた店主に感謝しかけたが、改めて考えるとそんな事無かったようだ。
「清也と添い寝するのは良くて、俺はダメなのは何でや・・・。」
シンは無性に気になって、花に対して聞いてみた。これは花に気があるからでは無い。
いつか見た夢が本当なら、シンにはこれから素晴らしい女性と巡り会うチャンスがある。
しかしこれまでと違い、シンは所謂ガチ恋状態だった。
夢で見ただけの女性に対して、完全に惚れ込んでしまったのだ。
その点ではある意味、女性への接し方に慎重になっているのだろう。
「う~ん・・・。何でだろう?
清也なら全然許しちゃう事でも、シンだと不快な気分になる。下心が出過ぎなんじゃ無い?」
ここまでは普通だったが、花はまだ話を続ける。
「清也ってね、私が胸を押し付けると、とっても恥ずかしそうに顔を赤くするの♡それが可愛くて・・・♡
それに、ちょっと子供っぽいところも有るのに、カッコ良くて紳士だし・・・♡」
花は全く遠慮せずに言い切った。
途中から、またしても彼氏自慢が始まっているが、シンはそれを受け流した。
「精進致します・・・。」
(つっら!!!)
シンはかなり傷付いた。
~~~~~~~~~~~~
「中には入れないって分かったし、一旦海から上がるか・・・。」
シンはガックリと肩を落とすと、再び扉に背を向けた。
しかし、花はそれを呼び止める。
「シン!これ見てよ!!」
シンが振り向くと、彼女は扉と扉の間にある壁を指さしている。
ーーー秘宝に手を伸ばす者へーーー
幻想を抱くなら右の部屋
現実を認めるなら左の部屋
神器を求めるなら右の部屋
兵器を望むのなら左の部屋
どちらかを選ぶが良い。
人を癒す事しか出来ない、優しくも臆病な力は右
人を傷つける事しか出来ない、容赦ない破壊の力は左
されど、秘宝に手を伸ばす者は気を付けよ。
この先にあるは人の身に過ぎた力
永遠を求める罪と、同胞を殺める罪
海の神、ポセイドンの怒りはここにあり。
かの者が認めるは真に強い心のみ。
意味も無く欲深き者、欲を出さぬ臆病者、そのどちらも弱き心なり。
弱き心に友は無く、友無き者に秘宝を求める資格無し。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・これってどう言う意味だ?」
「多分、この言葉の意味が分かれば、部屋に入れるのよ!」
花は嬉しそうに笑っている。丸焦げになりかけた事は完全に忘れているようだ。
「やめとこーぜー・・・。」
シンは呆れたように花を制止するが、花は止まらない。
「弱くて汚い心がダメで、友がいて・・・。
う~ん・・・?私、友達も居るし弱くて汚い心は持ってないよ?」
(奥手な男に乳押し付けて、反応を楽しんでるのは痴女なのでは?汚い心なのでは?)
シンは心の中でツっこまずに居られ無い。
確かに、清也に対する花の接し方は、少し常軌を逸している。
"好感度の差"と言う言葉では、言い表せない程の溝が清也と他の男との間にあるのだと、容易に察する事が出来る。
「運命の・・・出会い・・・?」
シンはそう言った物を信じていなかった。
しかし、今の彼には花と征夜の関係がそう思えて仕方ないのだ。
そして、またもあの名前が浮かんでくる。
「アメリア・・・?一体、誰だ・・・?」
先程、無意識に呟いていた名前。
知らないはずなのに知っている名前。
呟くたびに愛おしい気分になる。しかし、同時に圧倒的な狂気に頭が支配されそうになる。
「俺は・・・?お前を救う?愛してるから?何故だ?会ったことも無い?いや、ずっと一緒だった?
ここに居ない?嘘だ!!そんな筈ない!!俺のそばには、いつも彼女がいる筈だ!!そう約束したはずだ!!!」
いよいよ、小さく呟いていただけの独り言が大きくなってくる。
しかし、口調は急に静かになった。
「貴様が邪魔なんだ・・・私はこの手で・・・。
もういい、お前の綺麗事は聞き飽きた。なに?戻って来ない?どうでも良いさ。俺は彼女さえ取り戻せれば構わないんだ。」
「もう!真面目に考えてよ!!」
奇怪な言動を繰り返すシンを、花は叱りつける事で正気に戻した。
「え?・・・うわっ!すまん!ボーッとしてた!」
シンはその瞬間、夢から覚めたかのようにアメリアと言う名前と、呟いていた事柄を全て忘れた。
「真面目にやってね。あなたの足を治すためなんだから。」
花はそう言うと、また考え込み始めた。
しかし、それを見たシンは静かに呟いた。
「この扉の入り方なら、もう分かったぞ。」
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