『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第七章 天空の覇者編

EP196 戦いの準備 <☆>

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 あれから、2週間が経った。
 四人は自由気ままに日々を過ごしながら、轟雷竜の情報を集めた。
 そして天候が好転し次第、谷の奥へ攻め入ろうと考えていた。

 そんな中、征夜はある事に気がつく。

「・・・装備弱くない?」

「え?」

 台所で花と共に料理をしていたところ、征夜は不意に思い至った。
 確かに四人とも、武器は非常に強力なのだ。

 敵を一刀両断し、凍らせて粉砕する事も出来る名刀、"照闇之雪刃"。

 体術ではカバー出来ない、遠距離からの攻撃にも対応出来る銃、"ミストルテイン"。

 非常に高い回復力を持ち、血液型や病気の診断も可能な万能の杖、"ヒュギエイアの杯"。

 ミサラの持つ潜在魔力を極限まで引き出し、10代では到底辿り着く事の出来ない境地にまで彼女を至らしめた、"始祖の杖"。

 どれもが、世界最高レベルの武器であり、これ以上の物を望むのは難しい。いわば、"最強武器"である。
 だが問題は、彼らの防具は至って普通であると言う事だ――。

「花って、どんな防具着てるの?」

「黒セーター、肌色ロングスカート、白インナー、黒スパッツ、黒肩掛けバッグ。
 ・・・あれ?何着けたかな?・・・ちょっと目を閉じててね。」

「う、うん・・・。」

 花はそう言うと、恥ずかしそうに視線を逸らした征夜の前で、下着の柄を確認した。

「パンツは水色ヒップハンガー、ブラは水色ノンワイヤー・・・あと、あなたから貰った髪飾り♡」

 花は丁寧にも、下着の色と種類まで教えてくれた。
 いつも欠かさず付けている髪飾りは、どうやら宝物らしい。

 花が持つ抜群のプロポーションを、余す事なく活かすファッション。
 それでいて、色や形状に至るまで、細部までこだわり抜いたコーディネート。

 征夜に、その手の知識は全くない。
 ただ一つ分かるのは、彼女がいつも完璧に着飾っている事だ。

「どれも似合ってて、とっても素敵だよ!」

「ありがとう!オシャレには気を遣わないとね♡」

 恋人に服装を褒められた花は、嬉しそうに笑み浮かべる。
 だが彼女とは対照的に、征夜の頬からは急速に笑みが消え、少し"怒ったような表情"に変わり――。

「ただ・・・。」

「ただ・・・?」

「防御力が全っ然足りん!!!」

「えぇぇっ!?」

「シンとミサラも呼んで、明日は装備を買いに行こう!じゃないと死ぬ!」

「わ、分かった!」

 征夜の勢いに押された花は、少し困惑しながらも彼の意見に従う事にした。

~~~~~~~~~~

「ここが装備屋さんですか?」

「そうらしい!」

 翌日、四人は村の外れにある装備店に集まっていた。

 この村は、いわば"合宿場"のような物。
 魔法使いや鍛冶屋の見習いが、雷属性の利用を学ぶ為に集まる場所だ。
 当然、ここに集まる装備に関しても、"魔法耐性"や"特殊効果"の類が付与エンチャントされている。

「ミサラちゃんも、杖はともかく防具には自信がないでしょ?」

「確かに・・・お金もあんまり無かったので・・・。」

「今日は私が出してあげるから、好きな物を買いましょうね。」

「そんな・・・申し訳ないですよ・・・。」

 花の申し出に対して、ミサラは少し恥ずかしそうに遠慮している。
 この数週間で、2人の仲は格段に良くなった。もう既に、"仲良し"と呼んでも良いレベルだ。

 だからこそ、今の彼女には花に対する遠慮がある。
 友人だからこそ、迷惑をかけたくないのだ。

「ちょっと待てぇいっ!!!」

 ミサラがそんな事を思っていると、横から突然シンが割り込んで来た。

「空気から生成出来るとはいえ、一応は"俺の金"だぞ!?少しは遠慮しろよ!?」

「・・・と言う事だから、なおさら遠慮しなくて良いよ!」

「・・・そうですね♪」

 シンの発言は、完全に逆効果だった。
 使うのが花の金でないなら、彼女が遠慮する必要もないのだ。

 ところが、ミサラと花が談笑しながら店に入ろうとする中、他の2人はそれに着いて行かない。

「あれ?征夜たちは良いの?」

「僕の服は、師匠がくれた物だからね。
 ミサラによると、"特殊な素材"が使われてるらしいから魔法耐性も高いよ。」

「シンは?」

「ジャラジャラと装備するより、避けた方が早いだろ?竜の物理攻撃なんて、当たれば即死なんだし。」

「魔法耐性は上げないんですか?」

「当たる気ないから大丈夫さ。」

 2人は物理戦闘もこなすので、重たい鎧や邪魔な装飾品は必要なかった。
 シンはともかく、征夜に関しては間違いなく、今着ている服が"最強装備"になるだろう。

「僕たちの事は良いから、2人で選んで来てよ!その間、色々と調べておくから!」

「分かった!」

 花はミサラを連れて、意気揚々と店に入って行った。

~~~~~~~~~~

 店の内部は、少し変わった作りになっていた。
 右半分がゲームで見るような"装備店"になっており、左半分が外国の"洋服店"に似ている。

「う~ん・・・右の店は、私達には重い装備だね・・・。」

「あんなの着たら潰れちゃいます・・・。」

「左の店を見よっか。」

「はい!」

 2人はまるで、普通の洋服店を訪れた友達同士のように、楽しそうに服を選んでいる。
 このままでは、ただのショッピングだと思い2人は一時的に別れる事にした。

 そんな中、花の目に一つの商品が留まった――。

「防御力が高い下着・・・。」

 洋服店の中央、売れ筋商品の棚に"例のアレ"を見つけた。
 そう、かつてソントにて彼女が購入した、"防御力が高い水着"の関連商品である。

 だが、前回と大きく違うのは――。

(なるほど、今度は逆路線ね・・・。)

 乳首と秘所がギリギリ隠れるほど、際どいデザインだった水着。
 それとは逆方向の路線、つまり"全てを隠してしまう"下着だった。

 おおよそ還暦近い女性が着用するような、外見を完全無視した地味すぎる下着。
 それはむしろ、マイクロビキニよりも嫌なデザインである。

(いや、これは流石に・・・・・・あっ!)

 花は少しだけ購入を迷ったが、棚に貼られたポスターを見て、考えを変えた。

「セレア!?」

 ポスターに映っていたのは、防御力が高い下着を着用したセレアだった。

 グラビアモデルとしても活動する彼女には、当然ながら広告の依頼も来る。
 下着メーカーとしては、どれほど綺麗な女に広告を任せるかが勝負なのだ。その点で、彼女は打ってつけだ。

 結論から言えば、その目論見は大成功と言って良いだろう――。

(うわぁ・・・綺麗・・・!)

 艶やかな笑みを浮かべながら、カメラに向かってウインクするセレア。
 その立ち姿からは色気が絶えず放射されており、下着のデザインすらも良く見える。

 結局のところ、"イケメン"が何を着てもカッコ良いのと同じように、"美女"は何を着ても美しいのだ。
 ましてや、これは下着である。水着よりも格段に、視線に触れる機会は少ない。

 ちなみにキャッチコピーは、"あなたのスペル・魔法じゃ、私の宝は奪えない♡"である。
 あえて、"スペルと魔法"で同じ意味を重複しているのは、何とも意味深である。

(スペル魔法・・・スペル・・・マ・・・やだ!セレアったら!)

 あまりにも下品なダジャレに対し、花は思わず赤面した。だが同時に、彼女らしいとも思える。

(確かに、防御力って大事よね・・・。)

 考えてみると、あの水着が無ければ今頃、自分は死んでいる。
 友人のポスターがあったのも、きっと何かの導きだ。これは素直に買った方が良い。

(セレアが買えって言うなら、買っちゃおう!!!)

 運命的な物に導かれた彼女は、その下着を数枚掴んで買い物カゴに入れた。



 一方、セレアはその頃――。

「あんっ💕 あぁんっ!💕 ヴィル君っ!💕 は、激しぃっ!💕 激しいよぉっ!💕 あっ💕おっぱいはダメっ💕 ん"っん"ん"ーッ!💕💕💕」

 ヴィルヘルムと言う名の貴族と、仲良く過ごしていた。

~~~~~~~~~~

 その後、2人は別々に分かれて会計を済ませ、店の外で合流した。
 花もミサラも、普通の服を含めた装備品を大量に購入したようだ。

「ミサラちゃん、なんだか嬉しそうね♪良い物見つかった?」

「それどころじゃないんです!本当に凄かったんですよ!」

「あらあら、どうしたのかしら?」

 ミサラは満面笑みを浮かべながら、すごく興奮した調子で話し始めた。

「私の胸!ちょっと大きくなってます!」

「あら!良かったじゃない!言った通りでしょ?まだまだ成長期なのよ!」

「教えてくれたサプリメントが、きっと効いたんです!ありがとうございます!花さんっ!」

 深刻なコンプレックスに関して、一筋の希望が見えた。
 その事に感激したミサラは、恩人である花に勢いよく抱き着いた。

「本当に良かったわ・・・!」

 ミサラの悩みに対しても、花はまるで自分の事のように気にかけていた。
 だからこそ、彼女が見た希望もまた自分の事のように嬉しくなる。

 そんな彼女を見て、ミサラはある事を思い付いた。

「花さんって、杖を二つ持ってますよね?」

「えぇ、木の杖とヒュギエイアの杯ね。」

「二つもあると、邪魔ですよね?」

「確かに・・・物理戦闘をするなら木の杖だけど、回復力はヒュギエイアの杯の方が強いのよね。」

「・・・合体させません?」

「えっ!?そんな事出来るの!?」

「試してみましょう!」

 花は常々思っていた。
 毎回のように使い分けるのは、あまりにも面倒だと。

 2つの杖をミサラに差し出した花は、少し不安そうに質問する。

「合体したら、どんな感じになるの?」

「木の杖のように長くて軽い、ヒュギエイアの杯のような回復力の、新しい杖が出来ます!」

「・・・良い感じね!」

「それじゃあ・・・行きます!!!」
<融合フュージョン!>

 ミサラは花の期待というプレッシャーに震えながらも、融合呪文を唱えた。

「・・・大成功!!!」

「凄いわ!ミサラちゃん!!!」

 ミサラの予告通り、そこに現れたのは完璧な杖だった。
 無骨な木の杖でも、短くて重たい杯でもない。
 透き通るような水晶で作られた、軽くて細長い杖。手で握る部分には、美しい杯が出来ている。

「これで、武器も完璧です!」

「ありがとうミサラちゃん!!!」

 花に対する恩返しと罪滅ぼしが出来て、ミサラは満足したようだ。
 降り止まなぬ雨とは対照的に、二人の間には晴れやかな虹が掛かっていた。
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