『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第七章 天空の覇者編

EP197 稲光の渓谷 <☆>

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 花たちが装備を整えた翌日、窓の外を見上げると、嘘のように晴れ渡る青空が広がっていた。

 この日の為に、彼らは1ヶ月も村で時間を潰して来た。
 こうしている間にも、ラースは大勢を拐って何かに利用している。だからこそ、この機を逃す訳には行かないのだ。

「みんな準備出来た!?」

「えぇ、バッチリよ!」

「いつでも行けるぜ。」

「準備万端です!」

 4人は早朝から大声を出して、装備の確認をしていた。
 谷の奥にある"稲光の渓谷"までは、遅くても3時間で着く。
 だが、天候がいつまで持つか分からないので、早いに越した事はない。

 花は昨日買った下着を着けただけでなく、不恰好だが頑丈な"アイアン・ヘルメット"や、雷を逸らす"絶縁グローブ"。
 軽くて貧弱だが、魔法反射に特化した"マジックシールド"なども装備している。

 ミサラは様々な"保護呪文"を仲間全体に掛け、白くて身軽な"魔法少女の法衣"を身に纏い、"電流放散ポーション"を胸ポケットにしまっている。

 どちらも昨日の装備補強で、万全な耐性となっていた。
 物理防御もさる事ながら、魔法耐性が底上げされている。

「よし・・・行こうか!!!」

 肺気胸を完治し、リハビリと更なる修行を越えた征夜は、力強く声を張り上げた。
 そして、彼を先頭にして歩み出した一段は、1ヶ月ぶりに村から外へと出て行った――。

~~~~~~~~~~

「それにしてもよぉ?」

「何だい?」

「どうしてアイツは、この谷から出ねぇんだろうな?
 完成した後、数ヶ月もここに居るんだろ?」

「確かに不思議よね・・・。」

 シン、征夜、花の3人が不思議そうに首を傾げていると、ミサラが口を挟んだ。

「きっと、落雷を吸収してるんです。
 エレメントを溜め込んだ魔法生物の活動には、捕食じゃなくてエネルギー吸収の方法を用いる事もあります。
 ましてやマスターブレイズの同族なら、巨体を維持するのに膨大なエネルギーを必要とする筈です。」

「でも、それって変じゃないかな?」

「変?」

 ミサラの推論に対して、征夜は"待った"を掛けた。
 いつもの事ながら、妙な事に勘が良い男だ。

「そんなにエネルギーが要るなら、まともに活動出来ないよ。この谷に置くだけが、奴の役目じゃない筈だ。」

「ただ生きてるだけじゃなく、何か"目的"があるのかも。
 その為に、普段以上のエネルギーを必要としてるのかな。」

「一体、何がしたいって言うんだ・・・。」

 得体のしれない生態を持つ未知の怪物に対して、征夜たちは不安を募らせていた。

~~~~~~~~~

 砕け散った岩石が敷き詰められた、足場の悪い下り坂。
 そんな劣悪な道を、四人はひたすら進んで行く。

「意外と遠いなぁ、稲光の渓谷ってのは・・・。」

 シンは半ば悪態を吐きながら、足元の砂利を蹴飛ばした。
 もう3時間は歩いている。そろそろ、討伐対象ターゲットが見えても良い頃だ。

「いや~!僕も驚いたよ!こんなに遠いとは!ちょっと疲れて来たし、休憩でも・・・・・・みんな、静かに。」

「・・・ッ!」

 征夜が馬鹿みたいに大きな声でシンに同調した直後、"ソレ"は視界に現れた――。

 "稲光の渓谷"と呼ばれる、轟きの谷の最深部。
 そこには無色透明な尖った水晶が生え、見渡す限り遠くまで隙間なく連なっていた。

 日光を反射した水晶の光を、他の水晶が再び反射する。
 まるで"万華鏡"のように幻想的な光景の中、その一部が薙ぎ倒され、折り重なるようにして踏み潰されている。

 色を持たない水晶は、"体表"の色彩を反射して黄金に染まっていた。
 まるで"天を駆ける稲妻"のように優美な光が、崩れ去った水晶たちを照らし、渓谷の中央を煌めかせている。

「・・・寝てる。」

 硬く冷たい水晶を寝床にして、"巨大な竜"が眠っていた。
 低いイビキをかきながら、白い尻尾を地面に打ち付け、呼吸に合わせて震える翼を広げ、無防備にも腹を晒している。

 間違いなく、征夜たちが思い浮かべる"奴"そのものだった。黄金と純白に包まれた体は、どこかサランにも似ている。

「このまま近付いて、気付かれる前にぶっ殺しちまおうぜ。」

「待ってください。そんな軽率な・・・。」

「ミサラちゃんの言う通りよ、あんまり油断するのは良くないわ。」

「僕はシンに賛成だよ。どうせなら、奇襲した方が良い。」

 意見が真っ二つに割れた。
 どちらの意見も正しいが、ここは建設的な方を取るべきだ。

「・・・まぁ、気付かれないようにすれば良いですかね。」

「OK、不意打ちで首を落とそう。」

「あんなに太い首、本当に切れるの?」

「流石に無理じゃね?」

「大丈夫、水中で斬り飛ばした事もある。」

「征夜がそう言うなら、私は信じるけど・・・。」

 花は半ば不安げだ。
 征夜の実力を信じてはいるが、目前に横たわる竜の首には、分厚い皮膚と堅牢な筋肉が纏わり付いている。
 たかが日本刀一つで、そんな簡単に切れるとは思えないのだ。

「アイツが起きる前に、手早く済ませようぜ。」

「私たちも、何か手伝った方が良い?」

「いや大丈夫。念のために、後方で待機しといて。」

「一応、身体強化魔法を掛けます。・・・斬撃特化で良いですか?」

「頼むよ。」

 ミサラはゆっくりと頷いて、征夜に向けて杖を振った。
 赤いオーラが彼を包み込み、信じられないほど膨大なパワーが、体の内より湧き上がって来る。

「これなら・・・行ける!」

「気を付けてくださいね、少将・・・!」

「あぁ・・・!」

 征夜は刀を抜き、気を引き締めた。
 そんな様子を見た3人は、どこか緊張した足取りで大岩の影に隠れる。

(さぁ・・・やるぞ!)

 砂利を踏み砕いて音を出すような、ホラー映画特有のミスはしない。
 完成された忍び足で、彼はゆっくりと怪物へ詰め寄って行く。

 足元と竜の動向に細心の注意を払いながら、3人の期待を背に受けた彼は竜の下顎に辿り着いた。
 幸いな事に、まだ奴は眠ったまま。このまま寝首を掻こうと、征夜は刀を振り上げる――。





(本当に・・・これで良いのか?)

 彼の中に、突如として湧き上がった疑問。
 安らかな寝息を立てる竜に振り下ろす筈の刀は、その力を失っていく。

(あっけなく終わらせて・・・何になる?)

 せっかくの強敵なのだ。
 正々堂々と真剣勝負を挑み、打ち負かしてみたい。
 そうする事で、自分は更に成長できる。更に強くなれる。そう思うと、このまま首を切るのが惜しく思えた。

 それだけでなく、彼には一つの"邪な欲求"があった――。

(コイツを叩きのめして・・・屈服させてやりたい・・・!)

 狂気とも呼べる歪んだ欲求が、征夜の中に満ちて行く。
 寝たまま即死させたのでは、"勝利の快感"を味わえない。正面から叩き潰す事で、怪物を自分の足元に這わせてみたい。

 破海竜や灼炎竜を倒した時に感じた底知れない"興奮と熱狂"が、彼を邪道に誘う――。





「・・・ハッ!?征夜!危ない!!!」

「・・・え?うぐぅおぁっ!!!!」

 突如響いた花の声、その直後に征夜の体は殴打された。
 砂利の中に転がった体に、土煙が纏わりつく。

「な、何が・・・うわぁっ!!!」

 振り下ろされた巨大な尻尾が、征夜を潰そうとした。
 紙一重で回避した彼は、先ほど自分を襲ったのも同じ"凶器"であると悟る。

キュオォォォォォンッッッ!!!!!

 金切り声のようなかん高い咆哮が、渓谷を包む土煙を吹き飛ばした。
 黄金の光が柱となって震える大気の中を木霊し、四方八方に炸裂していく。

「・・・そうか、お前も戦いたいか!!!」

 開かれた視界の先に居たのは、殺意によって目を覚ました"稲妻の竜"だった――。
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