213 / 251
第七章 天空の覇者編
EP197 稲光の渓谷 <☆>
しおりを挟む花たちが装備を整えた翌日、窓の外を見上げると、嘘のように晴れ渡る青空が広がっていた。
この日の為に、彼らは1ヶ月も村で時間を潰して来た。
こうしている間にも、ラースは大勢を拐って何かに利用している。だからこそ、この機を逃す訳には行かないのだ。
「みんな準備出来た!?」
「えぇ、バッチリよ!」
「いつでも行けるぜ。」
「準備万端です!」
4人は早朝から大声を出して、装備の確認をしていた。
谷の奥にある"稲光の渓谷"までは、遅くても3時間で着く。
だが、天候がいつまで持つか分からないので、早いに越した事はない。
花は昨日買った下着を着けただけでなく、不恰好だが頑丈な"アイアン・ヘルメット"や、雷を逸らす"絶縁グローブ"。
軽くて貧弱だが、魔法反射に特化した"マジックシールド"なども装備している。
ミサラは様々な"保護呪文"を仲間全体に掛け、白くて身軽な"魔法少女の法衣"を身に纏い、"電流放散ポーション"を胸ポケットにしまっている。
どちらも昨日の装備補強で、万全な耐性となっていた。
物理防御もさる事ながら、魔法耐性が底上げされている。
「よし・・・行こうか!!!」
肺気胸を完治し、リハビリと更なる修行を越えた征夜は、力強く声を張り上げた。
そして、彼を先頭にして歩み出した一段は、1ヶ月ぶりに村から外へと出て行った――。
~~~~~~~~~~
「それにしてもよぉ?」
「何だい?」
「どうしてアイツは、この谷から出ねぇんだろうな?
完成した後、数ヶ月もここに居るんだろ?」
「確かに不思議よね・・・。」
シン、征夜、花の3人が不思議そうに首を傾げていると、ミサラが口を挟んだ。
「きっと、落雷を吸収してるんです。
エレメントを溜め込んだ魔法生物の活動には、捕食じゃなくてエネルギー吸収の方法を用いる事もあります。
ましてやマスターブレイズの同族なら、巨体を維持するのに膨大なエネルギーを必要とする筈です。」
「でも、それって変じゃないかな?」
「変?」
ミサラの推論に対して、征夜は"待った"を掛けた。
いつもの事ながら、妙な事に勘が良い男だ。
「そんなにエネルギーが要るなら、まともに活動出来ないよ。この谷に置くだけが、奴の役目じゃない筈だ。」
「ただ生きてるだけじゃなく、何か"目的"があるのかも。
その為に、普段以上のエネルギーを必要としてるのかな。」
「一体、何がしたいって言うんだ・・・。」
得体のしれない生態を持つ未知の怪物に対して、征夜たちは不安を募らせていた。
~~~~~~~~~
砕け散った岩石が敷き詰められた、足場の悪い下り坂。
そんな劣悪な道を、四人はひたすら進んで行く。
「意外と遠いなぁ、稲光の渓谷ってのは・・・。」
シンは半ば悪態を吐きながら、足元の砂利を蹴飛ばした。
もう3時間は歩いている。そろそろ、討伐対象が見えても良い頃だ。
「いや~!僕も驚いたよ!こんなに遠いとは!ちょっと疲れて来たし、休憩でも・・・・・・みんな、静かに。」
「・・・ッ!」
征夜が馬鹿みたいに大きな声でシンに同調した直後、"ソレ"は視界に現れた――。
"稲光の渓谷"と呼ばれる、轟きの谷の最深部。
そこには無色透明な尖った水晶が生え、見渡す限り遠くまで隙間なく連なっていた。
日光を反射した水晶の光を、他の水晶が再び反射する。
まるで"万華鏡"のように幻想的な光景の中、その一部が薙ぎ倒され、折り重なるようにして踏み潰されている。
色を持たない水晶は、"体表"の色彩を反射して黄金に染まっていた。
まるで"天を駆ける稲妻"のように優美な光が、崩れ去った水晶たちを照らし、渓谷の中央を煌めかせている。
「・・・寝てる。」
硬く冷たい水晶を寝床にして、"巨大な竜"が眠っていた。
低いイビキをかきながら、白い尻尾を地面に打ち付け、呼吸に合わせて震える翼を広げ、無防備にも腹を晒している。
間違いなく、征夜たちが思い浮かべる"奴"そのものだった。黄金と純白に包まれた体は、どこかサランにも似ている。
「このまま近付いて、気付かれる前にぶっ殺しちまおうぜ。」
「待ってください。そんな軽率な・・・。」
「ミサラちゃんの言う通りよ、あんまり油断するのは良くないわ。」
「僕はシンに賛成だよ。どうせなら、奇襲した方が良い。」
意見が真っ二つに割れた。
どちらの意見も正しいが、ここは建設的な方を取るべきだ。
「・・・まぁ、気付かれないようにすれば良いですかね。」
「OK、不意打ちで首を落とそう。」
「あんなに太い首、本当に切れるの?」
「流石に無理じゃね?」
「大丈夫、水中で斬り飛ばした事もある。」
「征夜がそう言うなら、私は信じるけど・・・。」
花は半ば不安げだ。
征夜の実力を信じてはいるが、目前に横たわる竜の首には、分厚い皮膚と堅牢な筋肉が纏わり付いている。
たかが日本刀一つで、そんな簡単に切れるとは思えないのだ。
「アイツが起きる前に、手早く済ませようぜ。」
「私たちも、何か手伝った方が良い?」
「いや大丈夫。念のために、後方で待機しといて。」
「一応、身体強化魔法を掛けます。・・・斬撃特化で良いですか?」
「頼むよ。」
ミサラはゆっくりと頷いて、征夜に向けて杖を振った。
赤いオーラが彼を包み込み、信じられないほど膨大なパワーが、体の内より湧き上がって来る。
「これなら・・・行ける!」
「気を付けてくださいね、少将・・・!」
「あぁ・・・!」
征夜は刀を抜き、気を引き締めた。
そんな様子を見た3人は、どこか緊張した足取りで大岩の影に隠れる。
(さぁ・・・やるぞ!)
砂利を踏み砕いて音を出すような、ホラー映画特有のミスはしない。
完成された忍び足で、彼はゆっくりと怪物へ詰め寄って行く。
足元と竜の動向に細心の注意を払いながら、3人の期待を背に受けた彼は竜の下顎に辿り着いた。
幸いな事に、まだ奴は眠ったまま。このまま寝首を掻こうと、征夜は刀を振り上げる――。
(本当に・・・これで良いのか?)
彼の中に、突如として湧き上がった疑問。
安らかな寝息を立てる竜に振り下ろす筈の刀は、その力を失っていく。
(あっけなく終わらせて・・・何になる?)
せっかくの強敵なのだ。
正々堂々と真剣勝負を挑み、打ち負かしてみたい。
そうする事で、自分は更に成長できる。更に強くなれる。そう思うと、このまま首を切るのが惜しく思えた。
それだけでなく、彼には一つの"邪な欲求"があった――。
(コイツを叩きのめして・・・屈服させてやりたい・・・!)
狂気とも呼べる歪んだ欲求が、征夜の中に満ちて行く。
寝たまま即死させたのでは、"勝利の快感"を味わえない。正面から叩き潰す事で、怪物を自分の足元に這わせてみたい。
破海竜や灼炎竜を倒した時に感じた底知れない"興奮と熱狂"が、彼を邪道に誘う――。
「・・・ハッ!?征夜!危ない!!!」
「・・・え?うぐぅおぁっ!!!!」
突如響いた花の声、その直後に征夜の体は殴打された。
砂利の中に転がった体に、土煙が纏わりつく。
「な、何が・・・うわぁっ!!!」
振り下ろされた巨大な尻尾が、征夜を潰そうとした。
紙一重で回避した彼は、先ほど自分を襲ったのも同じ"凶器"であると悟る。
キュオォォォォォンッッッ!!!!!
金切り声のようなかん高い咆哮が、渓谷を包む土煙を吹き飛ばした。
黄金の光が柱となって震える大気の中を木霊し、四方八方に炸裂していく。
「・・・そうか、お前も戦いたいか!!!」
開かれた視界の先に居たのは、殺意によって目を覚ました"稲妻の竜"だった――。
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる