『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP173 圧倒的な力 <キャラ立ち絵あり>

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瞳に映るは望むべき目標か、忌むべき悪か――。


―――――――――――――――――――――



「な、何だって・・・!?」

「今言った通りだ。私が、この宇宙の誰よりも強い。」

 男の口調には、増長も傲りも自慢げな調子もない。
 自分が最強である事を微塵も疑わず、ただ自らの実力を提示しているだけなのだ。

「しょ、証拠は!アンタが宇宙最強だと言う証拠は何処にある!!!」

「戦えば分かるさ。それに、そもそも私に勝てなければ、お前が宇宙最強の筈がない。」

 一時は取り乱した征夜だが、少しずつ意識がハッキリして来た。
 目の前に立つ男。その覇気は本物で、その実力も本物だろう。そして何より、間違いなく自分より強い。

 去勢を張っている訳がないと、征夜には断言出来た。
 この男は自分よりも数段上、もっと言えば"格の違う強さ"を誇っていると、自信を持って認められる。

(今の僕では・・・絶対に勝てない・・・。もし本調子だろうが、奴に傷一つ与えられない・・・!)

 戦う前から、勝負は付いていた。正確には、"勝てる訳がない"と分からされていたのだ。
 ただ、何故か恐れる気持ちは無かった。むしろ、久々に訪れた強敵との対面に、興奮すらしている。

(それでも・・・やるしかない・・・!強い奴と戦わないと・・・目指す姿を見据えないと・・・人は強くなれないんだ!!!)

 征夜は歯を食いしばった。
 刀を握る両手に万力を込め、絶対に離さない意志を固定する。たとえ死んでも、刀だけは離さないと心に誓った。

「小僧、さっさと掛かって来い。」

 男は征夜を挑発する。先ほどまでの彼なら、この誘いに乗っただろう。しかし、今の彼は既に"戦闘モード"に入っていた。

「僕の流派は"先手必敗"だ。僕を格下だと思うなら、自分から来たらどうだ。」

「・・・少しは勘を戻して来たか。確かに、お前の言う事も尤もだ。
 しかし戦場において、相手が自分の間合いまで切り込む事など、万が一にも無いと知れ。」

「余計な世話だ。」

 征夜の中に、怒りの炎が灯った。瞳にも光が灯り、激情が身を支配する。
 師と共に学んだ"防御主体の剣術"に、水を差されたのだ。それは正に、開祖である資正への侮辱とも言える。

「”俺”を笑う事は構わないが、師匠を愚弄するな・・・!」

 燃えるような怒りを湛えた目で睨み付ける征夜を諫める様に、男は静かな返事を返した。

「勇ましいな。だが勘違いするな。私はお前の師にも流派にも、敬意を持っているつもりだ。
 客観的に見ても高い完成度を誇っている流派な上に、それを僅か一代で大成した”資正氏”の手腕には感服せざるを得ない。」

 尊敬する師に対しての侮辱に、征夜は怒っていた。だが、実際はそうでも無いらしい。
 その点に関して、征夜は男に対する不信感を僅かに取り払われた。ただし、男の言葉はまだ続いている。

「しかし、お前が伝承者の器であるかに関しては、些か疑問が残る。
 氷狼神眼流は危険な力だ。使い方や教え子を見誤れば、多くの命を消し去る”殺人剣”でしかない。
 お前には、その心構えが有るようには見えないが。」

「僕が・・・相応しくないと言いたいのか・・・?」

「小僧、よく覚えておけ。お前と師は違う。人を導き、人を率いる器ではない。英雄でも無ければ、教師でも無いのだ。」

「そんな事・・・やってみなくちゃ分からないだろう!!!」

「・・・まぁ良い、忠告はした。これはお前の人生だ。私の人生ではない。」

 男は少し寂しげに呟くと、深呼吸と共に納刀した。
 その後、両手をポケットの中に詰め込み、完全に無防備な隙を晒す。

「・・・どういうつもりだ?」

 征夜は思わず質問する。互いの刀を交えての戦闘をするはずが、男は構えた刀を腰に差し直したのだ。
 圧倒的な剣術を見せつけられて、自分は敗北するのだと思っていた。しかし男には、その気が無いらしい。

「お前のような奴を、私は剣士と認めん。そんな未熟者に合わせてやる剣など、持ち合わせていないのでな。」

「俺には・・・剣を抜くほどの価値も無いと・・・?」

「あぁ、その通りだ。」

 男は相変わらず手をポケットに入れたまま、小馬鹿にするような口調で言った。
 それに対し、征夜の中で眠っていた闘志が爆発する――。

「・・・舐めるなぁッッッ!!!!!」

 勢いを付けて走り出した彼の心には、もはや敗北を認める気持ちなど微塵もない。
 勝利し、捻じ伏せ、自分の価値を証明する。彼の中にあるのは生物の持つ原始の本能、”勝利への渇望”だけだった。

 走り出した征夜は、わずか数秒で男の懐に潜り込んだ。
 しかし男は、未だに拳を構えてすらいない。

「素手で勝てると思うなッ!!!」

 勢い良く叫んだ征夜は、全身を捻じりながら刀を振るった。
 勝負は一撃。男が油断して隙を晒している間に、究極の一撃を叩き込むつもりなのだ。

<<<刹那氷転!!!>>>

 亜音速の一閃が、虚空に青白い閃光を迸らせる。
 溢れ出した冷気と摩擦熱が、対象の体を内部から破壊しようと突き進み、男の体へと向かっていく――。

(勝った!!!)

 男の体に刃が重なろうとした時、征夜は勝利を確信した。
 たとえこれで倒せなくても、当たった事に意味がある。圧倒的な実力差のある相手に、一矢を報いた事が重要なのだ。

 だが、それは叶わなかった――。

「誰がお前などに拳を振るうか。素手ですら、お前には勿体ない。」

「何ッ!?・・・うわぁっ!!!」

 征夜の体は、突如として後ろ向きに吹き飛ばされた。
 男の背後から吹き出した突風が彼の全身を包み込み、その自由を奪った。

 男はその場から一歩も動いていない。それどころか、微塵も体を動かしている様子がない。
 それなのに征夜の体は動かないのだ。足は自然と浮き上がり、体には圧力が押し寄せ、背後の壁に磔にされる。

「ぐぅぅっ!うはぁっ・・・!」

 四肢を懸命に動かして、拘束を逃れようとする。
 しかし、纏わりつく気圧のうねりは、もがき苦しむ征夜の体を更に深く押さえ込む。

「どうした?もう終わりか?」

「うわぁぁぁッッッ!!!!!!」

 男は嘲笑と共に問いかける。しかし征夜は、その言葉を否定できない。
 首が締め上げられ、関節が軋み、骨の折れる音がする。内臓が破裂しそうなほど圧迫されているのだ。誰がどう見ても、既に負けている。

(ただの・・・風なのに・・・動けな・・・!)
「ぐあッ!あぁぁぁッッッ!!!!!」

「どうやら、本当に限界らしい。」

 吹き付ける気圧が征夜を拘束し、男は指一本を動かす事も無く彼に勝利した。
 征夜の敗北を確認した男は、少しずつ風を弱めていく。

「流石に、今の私では相手にならないか。私としては、10000分の1も力を出していないのだがな。」

「はぁ・・・はぁ・・・!一万分の・・・!?」

 信じることが出来ない。アレほど圧倒的な力が、まさか全力でないというのか。そんな事は有り得ないと征夜は思った。

「私の全力を以ってすれば、人間の体など簡単に吹き飛ばせる。
 体を動かさずとも、この世界を破壊することだって可能なのだ。」

「動かずに・・・世界を・・・!?」

 征夜は、目の前に立つ者の実力が完全に未知数であると悟った。
 自分では、男の全力を受け止める事すらも出来ないのだ。その無力さを、吐きそうなほど嫌悪する。

「軽く、鈍く、細く、柔く、甘い。お前の技に点数を付けるなら0点だ。
 この程度の技量で資正氏の後継者を名乗るなど、片腹痛いわ。」

「ぐうぅぅぅッッッ!!!!!!ちくしょーッ!!!」

 四つん這いで地面に倒れ込んだ征夜は、歯軋りしながら叫ぶ。
 だが、叫んでも何も変わらない。どれだけ罵られても、反論すら出来ないのだ。

「修業をサボっていなければ、多少はマシだっただろうに。私が強くなりすぎたのか、お前が弱すぎるのか。」

「くっ・・・!」

 分かっている事でも、グチグチと抉られたくはない。
 ここ数日の態度を恥じてはいるが、それでも他人からは言われたくないと思うのが、人間の性である。

「・・・丁度いい。この体では、むしろ戦いづらいと思っていたところだ。
 お前の持つ本当のポテンシャル。この機会に見せてやろう。」

「何を言って・・・はっ!?」

 征夜は驚きで声を失った。彼の視界の中央に映る男の姿が、少しずつボヤけて行く。
 揺らぎながら消えていく黒衣の代わりに、男は別の衣類を纏っていく。顔を覆う布は取り払われ、見覚えのある顔が現れた。



「お、お前は・・・!」

「容姿、体格、服装をお前に統一した。後は・・・。」

 男は征夜に聞こえるように呟くと、右手を天に向けて構える。

「我が手に収まれ、照闇之雪刃てるやみのせつはよ。」

 何処からか現れた白刃の刀が右手に収まると同時に、男は征夜と全く同じ構えを取った。

「さぁ、ラウンド2と行こうか。」
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