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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP182 お帰りなさい
しおりを挟む「少将!こっちです!」
「あぁ!行こう!」
ミサラは地下道の入り口で手を振りながら、一人で待機していた。そして征夜と合流し、内部へと駆け込んで行く。
「牢屋はどこか知ってる?」
「いえ、分かりません・・・。」
「探すしかない!急ごう!」
「はい!」
征夜は刀に手を置き、暗い地下道を駆け抜けて行く。
段々と灯籠の光が見え始め、教団のアジトに近付いている事が分かる。
「お、おい!アンタら!何やってんだ!」
「邪魔だぁッ!!!」
「おわぁっ!?」
見張りの教団員を殴り倒し、征夜は先へと進んで行く。
早くしないと手遅れになる。こんな相手に構っていられないのだ。
「少将!見てください!これ、地下道の地図です!」
「地下の牢獄は・・・中心部か!」
ソントの地下道は今でこそ教団が独占しているが、かつては貧民街として使われた場所である。
当然ながら大規模な施設もあり、牢獄や住宅も存在している。尤も、出来る限り住みたくないが――。
(急げ・・・急げ急げ・・・!)
全力で走りながら進む二人だが、地下道は恐ろしい程に広大だ。
ソント全域に張り巡らされた迷宮のような下水網は、縦4キロ横4キロの16平方キロ。中央に広がる監獄も、無駄に広いのだ。
「ここから先が地下牢です!・・・広いですね・・・。」
「嘘だろ・・・さらに地下まで・・・。」
征夜は崩れ落ちそうになった。それほどまでに、この地下牢は広すぎる。
地下道の中央に広がる牢獄は、更なる地下にまで広がっていた。
螺旋状に巻かれた通路の下には、見渡す限りの鉄格子があったのだ。
「どれが・・・セレアさんの友達なんだ・・・?」
「分かる訳ないです・・・困りましたね・・・。」
ザッと見ただけで、300人は捕まっている。おそらく全体では、1000人以上居るだろう。
全員を解放すれば良いとしても、そんな時間は無い。見張りが伸びている事に気付いて、すぐに追手がやって来るだろう。
「どうする・・・どうすれば良いんだ・・・!」
思考が止まってしまい、良い案が思い浮かばない。
どうすれば助けられるのか。どうすればセレアとの約束を守れるのか。
「どうすれば!どうすれば・・・!!!」
焦りだけが肥大化していく。このままでは、誰一人救えずに捕まるだけだ。
ミイラ取りがミイラになると言うが、これでは”解放者”が”囚人”になってしまう――。
<こっちに・・・来て・・・。>
「・・・え?」
脳内に、誰かの声が響いて来た。
美しく華やかな女性の声。聞き覚えがあり、安心感のある声だ。
<こっちだよ・・・もっと下・・・。>
女性の声は確かに、自分を呼んでいる。
道案内をして、自分の元に導こうとしているようだ。
その声の主は、確かに自分を必要としている。
彼はすぐに分かった。自分を必要として、自分が救うべきなのは、一体誰だろうか。
「”彼女”が呼んでる・・・!」
「はい?」
ミサラは驚いた表情で、征夜を見つめている。何の事なのか、全く分からないのだ。
頭に響いた声は、征夜にしか聞こえていない。そんな状況では、彼の発言が理解できる筈ない。
「待ってて・・・今、助けるから!!!」
だが、征夜は彼女に一切の説明も無いまま、凄まじい速度で走り出した。
まるで、何かの本能に従うかのように、義務感に駆られている。その姿は、明らかに何かが変だ――。
「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってください!少将!!!」
彼女の問いに答える事は一切なく、征夜はただ走り続ける。
ミサラもそれに続いて、暗い地下牢を駆け出したのだった。
~~~~~~~~~~
「ま、待って!少将っ!私にも説明をっ!!!」
(な、なんて速さ・・・!同じ人間とは思えない・・・!)
征夜の後を追うミサラだが、少しも追いつける気配が無い。グングンと加速していき、階段を飛び降りてショートカットもするのだ。
人間の常識を超えた速度で走り抜ける征夜は、何処か不気味にすら思えて来る。
「お、おい!止まれ!お前は誰だ!」
<<竜巻斬!!>>
刃を逆向きに返した征夜は、高速回転の峰打ちを容赦なく叩き込んだ。
その太刀筋に迷いはなく、自分を阻む敵を徹底的に排除する事のみを考えている。
「待ってください少将!本当に、どうしちゃったんです!何か変ですよ!」
征夜は確かに、先ほどから豹変してしまっている。
正義感や善意で動いていた当初とは異なり、まるで誰かを守る為の"戦闘マシーン"のように、半ば暴走しているのだ。
「こっちだ!こっちに居るんだよ!捕まってる!」
「だ、誰がですか!?何も分かりません!」
息を切らしながら必死に追いかけるミサラも、そろそろ限界なのだ。征夜の化け物じみた体力に、ひ弱な彼女は着いて行けない。
「聞こえたろ?彼女の声が!」
「声・・・?誰の声ですか・・・?」
テレパシー検知に高い精度を持つミサラにも、その声は聞こえなかった。
だからこそ訝しむ。お世辞にも魔法が得意とは言えない征夜が、どうしてテレパシーを検知出来たのかと――。
「そんな事、今はどうでも良いんだ!とにかく急ごう!」
「ま、待ってください!もう、足が・・・!」
足裏とふくらはぎが、断裂しそうなほどに痛い。
これ以上の追走は不可能だと判断した彼女は、少し減速するように要求したが――。
「後から着いて来て!先に行くから!」
普段なら彼女を気遣ってくれる筈の征夜は、教団の牢獄という危険地帯に、彼女を置き去る選択をした。
それも一切の迷いなく、息つく間もない即決なのである。
征夜は腕をダラリと背後に垂らし、更なる加速を遂げた。
足が千切れるのではと心配になるほどの速度で、征夜は走り続ける――。
「ざ、残像・・・?そんな馬鹿な・・・!」
何の魔法も掛かっていないのに、征夜は自らが走り抜けた軌跡に残像を作り始めた。
とてもじゃないが、人間の走る速度とは思えないのだ。誰よりも速く走り抜け、囚われた"彼女"を救う事しか考えていない――。
「はぁ・・・はぁ・・・もう・・・無理・・・。」
膝から崩れ落ちたミサラを尻目に、征夜は牢獄の最深部へ到達した――。
~~~~~~~~~~
不思議な声に導かれるままに、征夜は走り続けた。
そして遂に、導かれた牢獄の先に到達し、大きく安堵する。
そこには既に、先客がいた。
数人の教団員が牢の中に入り込み、ズタ袋を被せられた二人の囚人を見下ろしている。
団員の一人が、ゆっくりと征夜の方へ振り返った。
そして征夜が胸元に付けた階級バッチを眺め、慌てて敬礼を行なう。
「・・・少将!?何故こんな所に!?」
「・・・強いて言えば、勘かな。何故か分からないが、ここだと思った。」
声が聞こえたと言っても、信じてもらえないだろう。
それならばいっその事、"勘"とでも言って誤魔化した方がマシだ。
「そこにいるのは・・・誰かな?」
壁を向いて拘束された、女性と思わしきズタ袋を指差して、征夜は団員に聞いた。
「あっ!そうなんですよ少将!実は、捕らえた女が偉く美人でしてね!
このまま売られるのは可哀想だって事で、何とか逃がそうと思ってるんですけど・・・。」
「おい!俺は賛成してねぇぞ!」
団員達は囚人の処遇について、白熱した議論を開始した。
征夜はその隙に考えを巡らせ、何をするべきか即座に決心した――。
「潮時か・・・今助けるから待ってて!」
「え?少将、一体何を!?うわぁっ!!!」
団員たちを次々と峰打ちで黙らせ、圧倒していく。
本当は、まだまだ調べたい事も多くあったが、これ以上は教団に居るのは難しいだろう。
自分が優先するべきは何か。考えるまでもなく、それは"彼女"を救う事だ。そこに迷いは存在しない。
その場にいた教団員を、征夜は数秒で制圧した。
拘束された女性に素早く歩み寄り、噛まされた猿轡を解き、被らされた袋を優しく取り払った。
「ぷはぁっ!助けてくれてありがとう!!!」
鮮やかな緑の髪と、フルーツのように甘い香り。そして何より、煌めくように美しい笑顔。
それは紛れもなく、征夜が再会を望み続けた"彼女"だった。
「やっぱり君だったのか・・・久しぶりだね!"花"!」
「こんな所で会えるなんて・・・!お帰りなさい!!!」
数ヶ月ぶりの再会を果たした二人は、抱き合って互いの無事を喜んだ――。
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