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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP183 脱獄
しおりを挟む「合流に遅れてごめん!やらなくちゃいけない事が・・・・・・ん!?」
征夜は花の着ている服を見て、驚愕した。
そしてすぐに、身に付けたシャツを脱いでいく。
花はその時、何故か男物の"青い袴"を纏っていた。
この世界では珍しい、和風の衣装。そして何より、その服には見覚えがある――。
「僕の服!回収しといてくれたんだね!無くしたと思ってたけど、君が持っててくれたのか!」
「・・・えっ!?」
そう、ミサラから征夜の服を渡された"遭難者"は、他ならぬ彼女だったのだ。
借り物の服だと分かってはいたが、花は彼の袴を気に入っていた。
風通しがよく、動きやすい。征夜の胸筋に合わせて作ってあるので、胸元もキツくない。男物とは思えないほど、花は快適だったのだ。
「あっ、この服あなたの物だったの!?ごめんなさい勝手に着ちゃって・・・。」
そう言うと、花も袴を脱ぎ始めた。スルスルと袴を脱ぐと彼に優しく手渡す。
「ごめんなさい!本当は洗って返すべきなんだけど・・・。」
「あ、いや、あの、その・・・う、うん・・・。洗わなくても一向に構わないんだけど、その・・・僕のシャツ着て良いから・・・。」
彼は、服の汚れなど一切気にしていなかった。むしろ問題なのは、彼女の格好である。
目のやり場に困った彼は、彼女の姿を直視する前に虚空へと視線を巡らせた。
それを見た花も、やっと自分の格好を理解した。
「あ・・・う、うん・・・///」
完全に下着姿の花は少し恥ずかしそうにすると、すぐに渡された服を着直した。
征夜の方も、大切な服が戻ってきて満足そうにしている。
「よし!刀も差せるし、何より動きやすくて良いな!」
征夜は背に取り付けた剣を、腰に帯びた。
花が着ると少し不恰好だった袴も、持ち主が着ると完璧に調和している。
「素敵よ・・・清也・・・♡」
花はそのままの勢いで、久しぶりのキスしようとする。
征夜もそれを受け入れるように、少し前のめりになった。
しかし、そんな二人の間に割り入って来るものがいた――。
「あっ!少将!!探しましたよ!チュッ♡」
花の背後から、花としても見覚えのある少女が現れる。
そして突然、彼女を差し置いて征夜の頬にキスをした。
「うわっ!?花の前でそう言う事しないでよ!」
最近、征夜はミサラにキスされる事が多くなっていた。
これまでは"子供の勘違い"として処理してきたが、恋人の前では誤解を生みかねない。そう思い、征夜はすぐに注意した。
「えへへ♡良いじゃないですか♡」
「・・・え?」
花は唖然とした。四ヶ月ぶりの再会だと言うのに、全くもって腑に落ちない。
恋人である自分を差し置いて、何故その少女が征夜にキスするのか理解出来ないのだ。
そうなると、自然な考えが脳裏に浮かぶ。
自分は恋人ではなく、"今の恋人"は目の前の少女なのではないかと。
「あ、あの・・・。」
「あっ!誰かと思えば、いつぞやのオバさんじゃ無いですか!」
「ぐはっ!!」
ミサラの言葉が、花の心臓に突き刺さった。
しかし、めげない折れない諦めない。花は食ってかかるように、ミサラに詰問する。
「あ、あなたは彼と、どう言う関係なの!?」
「もちろん、ガールフレンドです♡そうですよねぇ?少将♡」
ミサラは念を押すように征夜の方を仰ぎ見るが、彼は別の事に気を取られているのか、全くもって反応がない。
「20・・・いや、25だな。結構な数の追手が来る。」
征夜はそう言うと、腰に差した剣に手を置いた。戦闘に備えて、即座に抜刀の構えを取る。
「ちょ、ちょっと待って!?せ、清也!?こ、この子は一体・・・!」
花は追手など気にする余裕もない。事実を確かめようとするが、彼にはそんな余裕は無い。
「危ないから、少し下がっててくれ・・・。」
そう言うと凄まじい速さで剣を抜き放ち、雲のように白い冷気が暗い牢獄で煌めいた。
「清也、その剣は一体・・・?」
自分との馴れ初めでもある"思い出の剣"は、どこに行ったのか。
花はそれを確認しようとするが、征夜は名乗りを上げて敵に立ち向かって行く。
「氷狼神眼流伝承者・吹雪征夜!参る!!!」
扉の前に群がる看守を蹴散らしながら、征夜たちは地下道へと転がり出た。
~~~~~~~~~~
「"ソント地下牢獄"警備中の全団員に告ぐ。エリアZにて、二名の脱獄を確認。
脱獄を手助けした二人と共に、四人で逃走中。女は生捕り、男は殺害で良い。四人全員が未だ武装していると思われ、注意されたし。
繰り返す、ソント地下牢獄警備中の・・・。」
地下牢全域に響き渡る"音響魔法"が、脱獄者の存在を周知している。
サイレンのような警告音が響き渡り、続々と看守が集結する。その潮流の中を、4人の男女が流れに逆らって進んでいた。
<<<竜巻殺法!!!>>>
迫り来る敵を薙ぎ倒し、征夜は"三人の仲間"を守っていた。
古来よりパーティの先頭を張るのは、"戦士"の仕事なのだ。彼としても、自分の役目は分かっていた。
「せ、清也・・・待ってよぉ・・・!」
征夜と同等の体力を持つシン、身体強化魔法で誤魔化せるミサラは良い。
だが花の体は、彼の疾走に追従できないのだ。ダイエットによって体は引き締まったが、あくまで一般女性の域を出ない。その程度では、体力的な面で"怪物ども"と並べない。
それに、体力以外の面でも厳しい物がある。
オブラートに包んで言えば、ミサラは"スリム"なのだ。なので走っても、特に弊害はない。
花はその真逆。運動では落とせない女性特有の脂肪分が、豊かに実っている。走るたびに揺れる胸は、彼女の疾走を邪魔していた。
「ごめん花!速度は落とせない!・・・そうだ!」
「えっ?・・・きゃっ!」
突如として立ち止まった征夜は即座に納刀し、一切の迷いなく花を抱え上げた。
両腕で彼女を支えて、背部から持ち上げる。俗に言う"お姫様抱っこ"である。
「首に手を回して!絶対に放さないで!」
「あっ・・・うん・・・///」
大変な状況なのに、花は思わず頬を赤らめてしまう。
彼の腕に抱かれていると、不思議な安心感を与えられる。何があっても大丈夫だと、何故か確信出来るのだ。
「シン!その子を頼む!」
「お、おう!任せろ!」
彼女を抱え上げた征夜は、シンにミサラを任せて先に進む。速度も花も落とさずに、直進を続けている。
両手を塞がれた征夜は、当然ながら刀を使えない。よって、頼れるのは足技のみだ。
<<真空狩り!!>>
抱きしめた花を庇いながら、征夜は次々と回し蹴りを放つ。首筋を的確に狙った一撃が、瞬く間に活路を開いていくのだ。
征夜はこの数週間、刀を使わない戦闘を学んでいた。
テセウスの言葉は的を得ている。刀で斬るだけが戦闘では、決してないのだ。
"木枯らし殺法"を足に纏わせた蹴りは、リーチと破壊力が増している。
征夜は敵を薙ぎ倒しながら、「我ながら汎用性の高い技を思いついたものだ。」と考えていた。
「征夜!どこにいく気なの!?出口はこっちじゃないわ!」
出口に繋がる階段を通過した征夜に、花は正しい道を教える。だが彼は、まだ脱出する気はなかった。
「こっちに"制御パネル"がある!それを使えば、ここに囚われた人たちを解放できる!」
あくまで花は、"最優先目標"なのだ。それを救出したなら、より多くの人間を解放するのが彼の目的になる。
「正気かお前!?」
シンは、この状況で更なる人助けをする余裕が、自分達にあるとは思えなかった。
だが、征夜抜きでは脱出が不可能な事も、今の状況を見れば分かる。
(めんどくせぇけど、着いてくしかねぇ・・・!)
シンは覚悟を決め、ミサラを庇いながら征夜の後を猛追した。
団員との終わりが見えない戦闘を切り抜けながら、ひたすらに走り続ける――。
「あったぞ!コントロール室だ!」
四人は目立った傷もなく、無事に地下牢の最奥へ到着した。抱きしめた花を下ろした征夜は、鉄製の扉を蹴り破る。
「な、なんだお前達!まさか脱獄!おい!誰か来て、うっ・・・!」
パネルの前に座り込んだ男を気絶させ、征夜は制御盤を弄り始めた。
やはりここにも、本来ならあり得ない"電子機器"が用いられており、モニターには囚人が映っている。
全く同じ制御盤を、征夜はオルゼでも見た。
その時と同じように、手元には"赤と青のボタン"がある。
(間違いない!これを押せば・・・!)
一切の迷いなく、征夜は青のボタンを押した。
警告音のようなブザーが鳴り、遥か遠方から"雪崩れ込むような轟音"が響き始める。
それは、地下の牢獄に囚われた1000人以上の人間が、解放された証だった――。
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