『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第八章 魔人決戦篇

EP204 黙示録の世界

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「う、うぅ~ん・・・?」

 征夜が目を覚ますと、そこには花の顔があった。
 心配そうに覗き込む彼女だったが、彼の目覚めに気が付いて安堵した。

「起きたのね・・・征夜・・・!」

「あれ・・・ここは・・・?」

「いつものホテルよ・・・体は大丈夫?」

「うん・・・まぁ・・・。」

 痛みは殆ど無く、怪我も治っている。
 強いて言えば筋肉痛が残っているが、気にする程でもない。

「・・・ハッ!他の二人は!?」

「大丈夫。私がすぐに治療したわ。」

「そっか・・・良かった・・・君は大丈夫なのかい?ラドックスに、酷い事とかされてない・・・?」

「疲れてて・・・何も・・・覚えてないんだ・・・。」

「そっか・・・何はともあれ、無事で良かったよ・・・!」

 花の表情は曇った。本当に、何も覚えていないらしい。
 聞きたい事は色々あるが、彼女の為にも詮索はやめようと征夜は思った。

「ラドックスが、あの後どうなったか分かる?」

「・・・口で伝えるより、目で見た方が早いわ。」

 花は征夜の手を握り、ベランダに飛び出した。
 満天の星が煌めく夜空は、幻想的な美しさを持っている。
 この大地では、星がよく見えた。人の作り出す紛い物の光が、世界を覆っていないからだ。

「綺麗な星だね・・・!」

「見て欲しいのは星じゃないの・・・アレよ。」

「うん・・・?」

 花が指差した先に、征夜は視線を移した。
 色とりどりの星の中に、禍々しい何かが混ざり込んでいる事に気がつく。

「アレは・・・城・・・?」

「きっと、あの谷から逃げたラースが作ったのよ。
 世間一般では、天空魔城って呼ばれてるわ・・・。」

「天空・・・魔城・・・あそこにラドックスが・・・!」

「えぇ、間違いないわ・・・。」

「分かった!あそこに乗り込もう・・・花?」

「・・・え?あ、何?」

 言葉尻に差し込まれる不自然な間を感じ取った征夜は、花の意識が少しボンヤリしている事を悟った。
 目の前で手を振って、彼女の意識をハッキリさせる。

「もしかして・・・元気無い・・・?」

「ごめんなさい・・・もう2日は寝てないの・・・。」

「えっ!?」

 良く見ると、彼女の瞼には濃いクマが出来ている。
 彼女が過度な睡眠不足に陥っている事は、注意して見ればすぐに分かる事だ。

「気付かなかった!ごめん!」

「良いのよ・・・あの後・・・色々と大変で・・・。」

「そっか、僕達の看病で・・・。」

「いや、それだけじゃないの・・・。」

「・・・と言うと?」

 何だか、嫌な予感がする。
 花の表情は曇り果て、その疲労と相まって悲壮感を漂わせている。

「ちょっと・・・散歩しましょうか。」

「う、うん。」

 征夜は花と共に、宿から飛び出して行った。

~~~~~~~~~~

「コレは・・・全部ラドックスが・・・!?」

「彼と、彼の手下の仕業よ。
 それと、マスターフラッシュの流れ弾。」

「そんな・・・。」

 表へ出ると、村は壊滅状態だった。
 木製の家は引き裂かれ、炎上し、倒壊している。
 至る所に矢と剣が突き刺さり、激しい戦闘があった事を思わせる。
 傷だらけの人たちが身を寄せ合って、小さな毛布を共有している。夜の寒波を凌ぐには、それしか方法が無かったのだ。

「この村だけじゃないの。朝になれば分かるけど、見渡す限りの村が壊滅した。でも、ココはまだ良い方。生存者の方が多いもの。
 今残っているのはソント、ドゴル、シャノン、オルゼ・・・とか、そういう大きな町だけ。」

「みんな・・・死んだのか・・・?」

「死んじゃった人もいるし、攫われた人もいる・・・。」

「クソッ・・・!」

 征夜は地面に拳を打ち付けて、悔し涙を流した。
 自分がさっさと起きていれば、魔王の手下など退けられた筈。そう思うと、涙が溢れて仕方ない。

「僕が・・・居たら・・・こんな事には・・・!」

「あなたは悪くない・・・みんなを守る為に、必死に戦ったじゃない・・・。」

「でも!僕が居れば!誰も死なずに済んだかも!そうすれば!この村を救え、あぅっ・・・。」

 征夜の"懺悔"は、途中で遮られた。
 花の優しい抱擁に包まれて、何も言えなくなったのだ。

「良いの・・・良いんだよ・・・今、生きているだけで・・・起きてくれて、ありがとう・・・。」

「・・・うん。」

 泣いているのは、征夜だけではなかった。
 彼が眠っていたのは3日ほど、そのまま目を覚さない可能性だって有った。
 そんな状態で、彼女は三日三晩の看病を続けたのだ。その最中も、モンスターの攻撃から村を守る為に戦っていた。

 最愛の人が生きている。そして、再び立ち上がってくれた。それだけで、安堵の涙が溢れ出して来る。

「本当に・・・良かった・・・うぅっ・・・。」

「心配させてごめん・・・でも、もう大丈夫・・・君も、この村も、この世界も・・・僕が守ってみせるから・・・!」

 花の抱擁を受け止め、優しく抱き返した征夜。
 彼は決意を新たに、夜空に浮かぶ魔城を見上げた。

~~~~~~~~~~

「えっ!?魔法が使えない!?」

 花と言葉を交わしながら村を練り歩いていた征夜は、驚いて声を上げた。

「そうなの。女神様から貰った能力も、使えないわ・・・。
 シンは黄金操作が、私は回復魔法と植物操作が使えない。
 それどころか、魔法で出現させてた銃と杖も出せない・・・。」

 彼女とシンは、ラースから特殊な攻撃を受けたようだ。
 そのせいで、魔力を用いる技や能力を使えない。当然、魔法で出現させていた武器も、扱えなくなっている。

「そ、そっか・・・じゃあ、僕の治療は・・・。」

「お医者さんに来てもらって、魔法抜きの医学療法で治したわ。私の薬も使ってね。」

「そうなんだ・・・ありがとう。」

 当然ながら医学による治療の方が、回復魔法の何倍も手間が掛かる。
 他の人の治療で疲れながらも、自分の看病をしてくれた。そう思うと、「ありがとう」以外の言葉が見当たらない。

「大切な恋人を治す為なら、なんて事ないわ。
 それに、あなたは私だけじゃなく、"世界にとっての希望"なんだから・・・。」

「そうだね・・・。」

 征夜には、とっくに分かっていた。ラースを倒して世界を救えるのは誰か。
 増長でも、傲慢でも、自信過剰でも、自惚れでもない。ただ事実として、分かってるのだ。

「僕たちが・・・勇者が・・・世界を救わないと・・・!」

「えぇ・・・魔法が使えなくても関係ないわ・・・!」

 疲れを感じさせるが、力強い返事だ。
 征夜が眠っていた間も、彼女は一般人を守り抜いて来た。その覚悟が感じられる、立派な"戦士"の声だ。

「・・・あれ?そう言えば、ミサラはどうなの?」

 魔法が使えないのは、彼女の話を聞く限り花とシンだけ。

 では、もう一人はどうなのか。
 4人の中でも、魔法の技能が別格のミサラ。彼女の戦闘力は、魔法の有無に直結していると言っても良い。

「それなんだけど・・・。」

「花さん!」

 噂をすれば何とやら、背後から当然ミサラの声が響いた。
 彼女は征夜よりも先に目を覚まして、花の手伝いをしていたようだ。

「どうしたの?」

「薬草が・・・全然足りません・・・!」

「もうすぐ物資が届くわ・・・鎮静剤を打って誤魔化すしかない・・・!」

「分かりました!・・・あっ!少将!目を覚ましたんですね!?」

「うん、君たちが守ってくれたおかげだ・・・。」

 息を切らせながら花と語り合うミサラの眼中に、征夜は居なかった。
 アレほど慕っていた相手に気付かないほど、疲労と緊張が積み重なっていると分かる。

「何はともあれ、良かったです!」

「うん。君も無事で良かった。」

「では!私はやる事があるので!失礼します!」

 汗ばんだ額を肩に掛けたタオルで拭いながら、ミサラは走り去って行った。
 征夜に構っている時間が無いほどに、事態は緊迫しているのだろう。

「僕が居ない間も、みんな必死に・・・。」

「そうしないと、生きていけないから・・・。」

 魔族と怪物が天空を跋扈し、美しい青空は消え去り、異常気象が頻発している。
 この1週間、太陽は一度も昇っていない。暗闇の中に満ちるのは、罪の無い人たちの断末魔だ。

 今の世界に、"太平の世界"と呼ばれた面影は何処にも無い。現状を名付けるなら、"黙示録の世界"。

 正に、この世の終わりだ――。

「この村は"良い方"って言ってたけど・・・。」

「元々、"魔法使いが多い村"だから戦力もあったし、地形的にも入り口が少なかったから。
 万全じゃなかったとは言え、シンも必死に戦ってくれたし。」

「でも・・・それだけじゃない・・・そうだろ?」

 征夜には分かっていた。
 花とシンが必死に戦っているとは言え、所詮は人間技。
 シンが超人的な体術を使えて、多くの魔法使いが力を貸している。

 それでもまだ、ラースの侵略を退けるには力不足だ。
 それこそ、""が居る場合を除いて――。

「ミサラちゃんは・・・何故か、魔法を使えるの・・・。」

「・・・どうしてだろう?」

「分からない。ラースが私達にかけた封印が、あの子にだけ効かなかったのかも。」

「そっか・・・。」

 効かなかった理由を知りたいが、花に聞いても分かる筈が無かった。
 これ以上、彼女について考えても仕方がない。村中を回って、花の手伝いをしよう。

 征夜が、丁度そう思っていたところ――。



「花ーッ!"奴ら"が!また来たぞぉーッ!」

 見張り台に陣取っていたシンが、鋭い号令を飛ばした。
 暗闇に包まれて静まり返っていた村が、一斉に騒めき始める。
 そこかしこで松明に火が着き、荒々しい怒号と共に戦闘態勢の火炎が高まっていく――。

「みんな!敵襲よ!怪我してる人は隠れて!戦える人は武器を取って!
 大型バリスタと連射クロスボウに、人が居ないわ!誰か来て!あと、魔法投擲装置に属性瓶の補充を急いで!!!」

「ッ!?」

 征夜は驚いた。"戦いの指揮"を執っているのは、他でもない花だったのだ。
 か弱く、可憐な容姿とは対照的に、その声は覇気と闘志に満ちている。

 征夜のいない状況で多くの命を預かって来た彼女は、極限状態で覚醒したかのようだ。
 元より彼女は勇敢だったが、今となっては"死線を潜り抜けて来た戦士"に他ならない――。

「征夜はまだ万全じゃないから、隠れといて!」

 手早く指揮を執りながら、花は振り返る事もなく指を差し、征夜を退避させようとする。
 だが、ここで引き下がるような男ならば、"氷狼神眼流・伝承者"の名が廃る。

「隠れる・・・?冗談を言わないでくれ。」

 征夜はどこか興奮気味に、それでいて嬉しそうに微笑みながら、腰に帯びた刀に手を置いた。

クイーンが指揮するなら、僕は駒として戦う!」

「本気で言ってるの!?」

「あぁ、本気さ・・・!」

 久々に体を動かし、人の為に戦える。
 そう思うと、テンションが上がって仕方ない。
 後から思い出して恥ずかしくなるような事が、当たり前のように口を突いて出る。

「無茶よ!まだ回復し切ってないのに!」

「僕を誰だと思ってるんだい?花・・・!」

 鮮やかな動作で抜刀した征夜は、刀を構えながら不敵な笑みを浮かべる。
 まだ万全ではない事が分かっていても、その佇まいには安堵感を覚えずには居られない。
 これまでの不安も相まって、花の方も彼に期待せざるを得なかった。

「私の・・・騎士ナイト・・・!」

「大正解・・・!」

 征夜は短く呟くと、ブランクを一切感じさせない足取りで駆け出した。
 そして、先を競って襲い来る怪魔の群れへ、颯爽と飛び込んで行った――。
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