『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第八章 魔人決戦篇

EP211 見知った門番

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 村の人たちが怪魔を引き付けてくれたので、ここまでは一切の戦闘を行わずに済んだ。
 しかし、ここから先はそうも行かない。城の入り口を守る者、即ち"門番"を確認した瞬間、征夜たちはそう自覚した。

 そこには、"あの男"が立っていた――。



「久しぶりだな・・・セーヤ。」

「あぁ・・・"サーイン"。」

 ナイトハンターの襲撃に関与していたと思われる、あのサーインだ。
 ラドックスの伏兵にして、奴の腹心の一人。教団の幹部会議にも出席していた。

 そんな男が門の前に立ち、天空魔城の入り口を守っている。
 やや手薄な警備だが、そもそも怪魔の群れ自体が防壁となっている現状において、城に到着された時点で護衛の意味が無いのかも知れない。

「邪魔だ。俺は急いでる。」

「随分と貫禄が増したなセーヤ。
 あの時の"甘っちょろいガキ"とは、別人じゃないか。」

「今の俺は気が短いぞ。」

 自分たちを欺き、多くの罪無き人を犬の餌にした男。そんな外道を前にして、征夜は既に"眼術"を発動させていた。

「俺を殺して行くか?え?そんな勇気無いくせに、強がるなよ。」

「そうだな。お前は殺さない。人間を殺すのは、そうしなければならない時だけだ。・・・さぁ、そこをどけ。」

 素早く刀を抜いた征夜は、その切っ先を鼻頭に突き付けた。白い刃に肌色が反射し、キラキラと煌めいている。

「そうだな。どうせ俺じゃ、お前には勝てねえ。
 だったら、素直に通した方がマシってもんよ。」

 既に彼の実力は、サーインを遥かに凌駕している。その事実を悟った彼は、素直に身を引く事にした。
 守っていた門を魔法のパスコードで開放し、奥に聳える魔王城への道を開通させる。門番として彼に期待された防衛義務は、既に失敗していた。

「ほらよ、通れ。」

「どうも。」

 征夜、花、ミサラの3人はサーインの横を通り、魔王城へと向かう。
 しかし、急に立ち止まった征夜は、サーインの方へ素早く向き直った。

「すまん、通行料を忘れてた。」

「ん?そんな物、別に無、」

ザシュッ!!!

「・・・え?」

 突如として響いた、何かが切断される音。
 重心が保てなくなったサーインは体制を崩し、前のめりに卒倒する。

「うがあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッッッッッ!!!!!!!」

 ジンワリと効き始める、太腿の強烈な痛み。
 何かがおかしいと気付いたサーインが、急いで足元を見ると――。

「あ、足がッ!俺の足がぁ"ぁ"ぁ"ッッッ!!!!!」

 切断された足が地面に転がり、太腿から下は完全に切り飛ばされている。これでは、立っていられる筈がない。

「騙しやがったな!テメェッ!!!」

「すまない。魔王城を守ってる奴が、人間な訳ないと思ったんだ。俺のミスだ。」

 征夜はそれだけ言うと、既に先へ進んでいた花たちを追いかけて、魔王城の敷地へと乗り込んだ。
 両足を切断されたサーインは、もう動けない。あとは座して死を待つだけ、そう思われたが――。



「クククッ!詰めが甘いな!俺がタダの人間だと、本気で思ってんのか!」

 サーインがそう言うと、両足の切断面が煙に包まれ始めた。肉が焼けるような音とともに、あたりに焦げ臭い匂いが漂い始める。
 煙が晴れた時、彼の両足は見事に治っていた。どうやら、彼も悪魔の力を得た男のようだ。でなければ、この超回復に説明が付かない。

「ハハハッ!このまま後ろから不意を突い」

ズブッ!

「・・・え?」

 その時突然、肉が抉れるような鈍い音と鋭い痛みが右足に走った。
 足元を見下ろすと、金色の杭のような何かが、足を貫通してはみ出している。

「黄金の・・・杭・・・まさか!?」

「大正解。よく覚えてたな。」

 驚愕と恐怖に包まれながら、サーインは背後を向いた。
 すると、シンの顔が額にぶつかりそうなほど近くに、接近している。

「ば、馬鹿なッ!"黄金の魔術師"は、確かに死んだ筈だぁッ!!!」

<貴様らを殺しに、地獄から舞い戻ったのさ・・・!>

「くっ、来るなッ!来るなあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッッッ!!!!!」

 恐ろしい断末魔の叫びが何度か城門に響いた後、血塗れのシンだけがその場を後にした――。

~~~~~~~~~~

「それにしても・・・広い城ですね・・・。」
「敵が居ないのは良いけど・・・どこを進んでるのか分からないわ・・・。」
「一体、ラースは何処に居るんだ・・・?」
「この道、さっきも通った気がするぜ。」

 魔王城の廊下は、当然ながら同じような内装の連続だった。
 非常に迷いやすく、自分が何処にいるのか分からない。ラースの居場所など、当然のように分からない。そんな状況だ。

 そんな中、ミサラはある事に気が付いた――。

「止まってください!」

「どうしたの!?敵!?」

「・・・耳を澄ましてください。」

 ミサラが音を聞くようにジェスチャーすると、他の3人も耳をよく澄ます。

 すると、"ある音"が聞こえ始めた。

ドポンッ・・・トポンッ・・・ダボンッ・・・

 何かが落ちるような、水滴が垂れた波紋で波立つような、何とも言いようが無い不思議な音だ。
 一定の周期で、次々と鳴り響く音。おそらく、そう遠くない場所を源としている。

「行ってみよう。」

 征夜の提案に対し、四人は顔を見合わせて賛成した。
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