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第九章 反逆の狼牙編
EP268_① リーサル・ウェポン <☆>
しおりを挟む「ん? なんだこれ。」
花と別れた後、征夜は寝室に戻り、歯ブラシを取り出そうと洗面台の鏡を開いた。
歯ブラシ、歯間ブラシ、歯磨き粉、マウスウォッシュ、化粧水。見渡す限り白一色の清潔な洗面用具、その片隅に真っ赤な巾着袋があった。
(この匂い……どこかで嗅いだ事あるな……。)
何者かによる手製の巾着袋だ。手先が器用なのだろう、Hana💕と名前とハートが丁寧に刺繍されている。
鼻に透き通る清潔な芳香は、さりげないようで記憶に残る女性――包み隠さずに言うのなら、繁殖適齢期のオンナのフェロモンであった。
(すごく清涼なのに……クラクラするくらい、濃い匂いだ……。)
恋人の香りではない、デザインからして彼女の趣味とは明らかに異質だ。包み込むような真心と、ただならぬ魔性が同居した、不思議な圧を放っている。
征夜は、中身がどうしても気になった。
というより、巾着の作者本人が「開けちゃいなよ~♡」と耳元で囁いているような、デザインからしてそんな印象を受けた。
「…………ッ!?」
巾着の口を引っ張り、中に指を突っ込んでみる。プラスチックの滑らかな手触りが、指先に触れた。
(ぇ……これ……花の……///)
恐る恐る取り出して見てみれば、いくつもの張型が掌に溢れ落ちて来た。
どれも小ぶりで何の気配も感じない。新品未使用の清潔感が、確かに漂っていた。
驚くべきはその種類だ。スタンダードな品から、征夜には用途を理解しきれない形状の物まで、多岐に渡る。
「…………///」
袋の奥を覗き込むと、コンドームの箱が出てきた。新品未開封のまま、シュリンクに包まれている。
さらに奥には、透明なピンク色の液体が瓶に封じられいた。花の文字で、ラベルが貼られている。
「……体液を貰って作った。
市販品と同じ調合のはずなのに、濃度が全然違う。 平均的淫魔より3倍以上高い催淫作用。 危ないので10倍に希釈すること。…………なるほど。」
ラベルの言葉を見て、ようやく分かった。
ここに入っているのは、きっと贈り物だ。上級者の友人から、初心者の花に託された品々だろう。
その推察は、袋の最下層に畳み込まれていたプリントの束を見て、確信に変わる。
――――――――――
♡殿方を満足させる、ご奉仕の極意♡
(サービス向上マニュアル・統一版vol.1)
監修・セレアティナ♡
親愛なる新人娼婦ちゃん(もしくは私の友達)の諸君!ご機嫌よう!
オルゼ全体のサービス向上のため、会社の垣根を超えたマニュアル作成を任された!(ちょっと恥ずかしいけど、私の実演写真もあります……///)
ここに描いた極意を実践すれば、殿方は貴女にメロメロ間違いなし!娼婦として、あるいは恋人として、一段階上の女性になりましょう!
目次
P3.相手の属性に合わせた会話の作り方
※愛されるキャラクターを作るには!
P5.天蓋の採光と、陰影を用いた女体の演出
※その……フルヌードいっぱいなので、一応ご注意を……(>人<;)
P10.紅葉合わせのコツと訓練の方法について
※私の必殺技~♡ お任せなさい~(*´꒳`*)
次のページに続く!
――――――――――
(思った通りだ……。)
監修者の名前は、紛れもなく知人の名。
袋に詰められた卑猥な品々と、体液を抽出して作られた謎の薬品。その全てが、一つの線で繋がって説明がつく。
「すごい物を発見してしまった……。」
娼婦のマニュアル……おおよそ人生で巡り合う事の無い奇異な物体が、自分の手の中にある。
征夜はたじろいだ。中身を覗きたい好奇心と、女性の世界を垣間見る背徳感。何より、大人として慕う女性の実演写真は劇物だった。
「紅葉合わせか……うぅむ……。」
無学の化身たる征夜だが、その隠語は知っていた。
同じく御曹司の同級生が、嬉々として高級旅館の接待を自慢していた時、耳にしたのだ。
「セレアさんか……。」
離別してから数ヶ月。
圧倒的なあのボリュームを、今だに五感が記憶している。
ここだけの話、25年の人生において征夜が現実の女性に生々しい性衝動を抱いたのは、花とセレアのみである。
巨乳と高身長という共通点が2人には有るが、それだけでは無い気がした。
「いや……ダメだ! そもそも……セレアさんはそういう対象じゃない……!」
頭を振って理性を整えた。容易に浮かぶ卑猥な妄想、全てを振り払い掻き消した。
セレアは尊敬する大人だ。資正が恩師なら、セレアは先輩とも言える神聖な存在。母親の性行為と同程度に、直視を憚られるものがある。
たとえ、それが娼婦として生きるセレアティナの、紛れも無い真実の姿であったとしても。征夜は目を背けたかった。怖かったのだ。
(花が……訓練……。)
袋から溢れ落ちた卑猥な張型は、自慰行為に限らず、奉仕の訓練を兼ねて使用される。
男性を性的に悦ばせる為の技術。その矛先が何処に向かうのか、考えるだけで頭が沸騰する。
「…………///」
耳が熱くなり、頬が紅潮する。
こんな事をしている場合ではないと、分かっているのに。感情を鎮静できない。
悶々とする気持ちが、まずは微笑として転がり出た。面白かったのではない、気が付けば笑っていたのだ。
鏡の前に立ち、卑猥な張型を見つめて笑う姿。
傍から見れば滑稽だが――張り詰めた悲嘆と激情に駆られていた征夜にとって、それは一時の逃避だった。
だが――それも長くは続かなかった。
<おい……お前……。>
眼前の鏡から、耳慣れた声が響いたのだ。
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