気弱な公爵夫人に転生しました

randge

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 店に入ると、一人の店員が声を掛けてくれた。

 「ようこそ、ご来店ありがとうございます。当店へのご来店は初めてですか?」
 「はい、初めてです」
 「では、私が貴女の担当をさせていただきます、ジェファソンです。よろしくお願いします」
 「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
 「早速ですが何をお探しですか?」
 「"バイオリン"という楽器を探しているのだけどあるかしら?」
 「バイオリン……ですか?申し訳ございません存知上げません」

 この世界のこの国には少なくともバイオリンはないようね。でも、まだ諦めるには早いわ。

 「そうですか。では、色々と楽器を見たいのですがよろしいですか?」
 「もちろんです。どうぞこちらに」

 ジェファソンに連れられていった場所には元の世界に似たような楽器も有れば、全く見たこともないようなものもあった。そして、どれもこれもとても良い品質のものだった。

 「とても良いものですね。」
 「ありがとうございます。実はこれらは全部、トール=ゼノンの作品なのです」
 
 その店員は少し自慢気に言った?

 「トール=ゼノン?凄い人なのですか?」
 「ご存知無いんですか!?楽器作りの神様と言われてる人ですよ」

 いいことを思いついた。この世界にバイオリンが無いならその人に作って貰えばいいのよ。

 「その、トール=ゼノンさんはどこにいるのですか?」
 「……?それを聞いて一体……まあいいでしょう。王都の外に住んでいるのでここから少し遠いですが案内しましょうか?」
 「ほんとですか?お願いします!」
 「分かりました。その代わり」

 そう言ってジェファソンは"お金"のジェスチャーをした。

 「もちろん払うわよ」
 「ありがとうございます。すぐに出発しますか?」
 「ええ、お願い」

 「ところでレディはどうしてトール=ゼノンに会いたいのでしょうか?」
 「オーダメイドの楽器を作りたいの」

 この世界にない新しい楽器を作ってもらうなんて言ったら驚かれるだろうから嘘をついた。

 「オーダメイド、ですか?たしかに、そのようなお客さんはよくいますけど……かなり掛かりますよ」
 「お金のことなら問題ないわ」
 「……失礼かもしれませんが、爵位は?」
 「公爵よ」
 「こっ、公爵ですか?付き人が少ないからてっきりもう少し下だと思ってました。余計な心配でしたね」

 ちょうど王都を出たすぐの森の中にそこの雰囲気を思いきり壊すような大きな建物があった。

 「着きました」
 「え?トール=ゼノンという方が一人で作っているのでは無いのですか?」
 「作るのは一人ですけど、楽器の神様と言われるだけあって弟子がたくさんいるのですよ」
 「そうなんですね」

 それだけの技術があるなら私の注文も受けてくれるはず。
 ジェファソンは私に紹介状を渡してくれた。「公爵家の者なら大丈夫だと思うけど念のため」ということらしい。

 建物の中に入ると、特に怪しまれることもなくトール=ゼノンのところまで連れていってもらえた。最初に紹介状を見せたおかげだと思う。

 「あなたがトール=ゼノンさんですか?」
 「そうです。何か注文ですか?」

トールさんはまさに職人といった感じの見た目だった。

 「はい、実は新しい楽器を作って欲しいのです。」
 「……?"オーダメイドの"ということですか?」
 「いえ、"全く新しい楽器"つまり、この世界にまだ存在しない楽器を作って欲しいのです。」
 「ずいぶんと面白いことを言いますね。設計図とお金さえ有れば私は何でも作りますよ」
 「ありがとうございます!では、設計図は後日持ってくるのでお願いします」
 「楽しみにしてますよ」

 少し興奮したように私の注文を受けてくれた。

 この世界にバイオリンはなかったけど、作ることはできそう。あとは設計図を書くために素材選びをしないと。

 私は王都にある材木店に行ってバイオリンを作るのに良さそうな木の候補を数本選んでから店を出た。


 「奥様、今日は色々と不思議なことをしますね。あっ、悪い意味じゃ無いですよ!」
 「良いのよわたしが作ろうとしているものができたら最初にあなたに披露するわね」
 「ありがとうございます!楽しみにしてますよ」


 後は設計図を書くだけ。これもいい暇つぶしになりそうね。
 私は転生する前に使っていたバイオリンの寸歩を覚えていたから設計図は簡単に書けた。
 それを持ってもう一度"トール=ゼノン"のところへ行った。


 「トールさん、これが私が作って欲しい楽器の設計図です。お願いできますか?」
 「おぉ、ずいぶんと早く書きましたね。どれどれ……これからどんな音が出るのかが楽しみてますね。腕がなるってものです。作ってみましょう!」
 「ありがとうございます」
 「出来上がったら屋敷に送るよ」


 こうして私はバイオリンができるまでの暇な時間を潰さないといけなくなった。
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