遊羅々々うらら

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018話 昔からの友

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「あったく昨日は散々な目に遭ったなァ。今思い出しても…。」
朝、雲が白く広がってすこしどんより。
「大きかったねー。あんなのにまたあったら大変だよ。」
風も湿った香りで生温かい。
「それでさ、もう大丈夫なの。」
「ん、あれぐらいの傷、一晩寝れば治るよ。」
会好は呆れたような気持ちになった。
(なんつー丈夫な…。)
見ると確かに今の火奴羅には傷一つ無い。
「ねえ火奴羅、どういう傷だと辛いの。例えば、指切ったら?」
「平気。」
「骨が折れたら?」
「別に。」
「身体が真っ二つ!」
「よくあることよ。」
「ええーっ。どうすればいいのよ!」
火奴羅はむすっとした。
「私を倒したいんか。」
「えへへ。」
決まりわるく照れる会好。
「そうねー。たまに風邪ひくのはつらいけど…。」
「えー、火奴羅も風邪ひいたりするんだ。」
火奴羅は困ったように笑った。
「そうなのよ。たまにね…。」
ふと、遠くより近づいてくる影。
「何か来るな…。」
火奴羅は会好の前に立ち構えた。素早い動きで大きく飛び上がり、火奴羅を超えて背後につく。
「わあっ!」
そのまま会好に襲いかかる。驚く会好。しかしその鋭利な爪は、火奴羅の腕が受け止めていた。
「…あ?」
「…おいおい待てよォ!」
なにやら陽気な声がする。会好は急いで火奴羅の背に隠れた。
「お前、賀連!」
火奴羅は目を丸くする。見るとすらりとした体型の長身の男が、また驚いた顔で立っていた。
「やっぱり…、火奴羅じゃねえか!お前…、変わってねえなあ!」

「え…。」
会好は火奴羅の耳元でささやいた。
((ねえ、知り合い?))
火奴羅も小さな声で返す。
((ん。))
「紹介するよ。こいつは賀連珠。昔の友だ。」
火奴羅は男を手で示した。
「ええと、その妖霊さんは、火奴羅の知り合いかな?」
会好は火奴羅の背を離れ、男の前に行った。
「よろしくおねがいします。あたし、会好っていうの。」
頭を下げる会好。男は屈託ない笑顔をみせた。
「こんにちは。俺の名前は賀連珠。この時世じゃあ、妖霊さんも生きるのが大変でしょう。」
「え?そうかな…。」
会好は首を傾げる。火奴羅はすこし強引に会好を引き寄せた。
「わ。」
さりげなく会好を腕に抱く火奴羅。賀連珠と名乗る男は、彼の体をまじまじと見た。
「しかし変わってないねえ。」
「そうけ?」
火奴羅は照れたように笑った。
「おんどれもまあ変わらんと…。」
「そうだ。また昔みたいによ、一緒に旅をしようじゃねえか。」
腕を組んで髪に触れる火奴羅。
「ああ、それもいいか。」

賀連珠は楽しげに、火奴羅達の先頭を立って歩いた。
「にしても、ここで火奴羅に逢えてよかったぜ。最近はまた随分物騒でなあ。」
「そうだな。私も丁度昨日死にそうになった。参ったものだ。」
火奴羅も心底嬉しそうな顔でその後に続く。会好は火奴羅の肩に乗り、彼らを眺めていた。
(前の春沙もそうだけど、火奴羅って結構お友達多いんだ。いいなあ。)
すると目の前に、何がが向かってくる。見ると火奴羅の背ほどの大きさの、口先が尖った獣であった。彼らの前に立ち、唸り声を上げている。
「ああ、グズリか。火奴羅、どうする。」
「いや、賀連…。ちょっとまずいんじゃないか。」
獣が高く吠えた。すると同じ獣達が次々と集まってくる。
「二十はいるな。それにほら、あれ。」
「ああ、親玉もお見えか。まいったねえ。」
群れの先に、一際大きなものが。仰々しい角が映える、別格の獣が鎮座していた。
「会好。ここにいて。」
火奴羅は沙水斬を取り出して投げ飛ばし、地に突き立てた。青い光が宿る。
「ん。」
会好は沙水斬のそばに座った。火奴羅と賀連珠は背を向け、群れに向かって構えをする。
「俺たちの格闘は伊達じゃねえぜ。なあ火奴羅。」
「たりめえだ。まいら!」
弾けるように飛び出す、火奴羅と賀連珠。数十の獣が束になって襲い掛かった。
(わあ、賀連さんも強いなあ。)
黄色く光る腕拳は重い一撃を放ち、獣を次々と吹き飛ばしてゆく。
(火奴羅は…、やっぱりすごいや。)
時折消えるように動きつつ、拳より撃ち出される例の光で獣を寄せ付けない。
(あれ?火奴羅…?)
素早い動きのなかでぴたり止まって見える火奴羅のその顔に、すこし苦しみの情があった。
(大丈夫かな…。)
彼女の心配をよそに手際よく相手を払い除けてゆく火奴羅。あっという間に方がついた。

(あれは、なんだろう…。王様かな?)
残るはひとまわり大きな個体のみ。彼らの前に立ちはだかった。火奴羅と賀連珠が見上げるほどの大きさで、威厳のある立ち振る舞いにどこか揺れるような不自然さがある。
ヴ、ヴェロ、ガラグワワァ!
(わあ、変な鳴き声!)
奇妙な遠吠えをあげた。すると不思議なことに、背後から強烈な気の風を感じる。
(何!?)
会好は振り返ったが、何もいない。
(これは、もしかして…?)
見ると火奴羅と賀連珠が、地にしがみ付いてじっと耐えている。
「火奴羅!なんかおかしいぜ!」
「灯籠虫…?」
その獣は口を大きく開け空を仰いでいた。口元に陽炎のような揺らぎが見える。がさがさと音がして、摩訶不思議な光景が広がった。
(あ!やっぱり…!)
倒れた獣達が浮き上がってゆく。それらはやがて光る闘気の風に変わり、大きな口に次々吸い込まれてゆく。やがてあたりに倒れた大量の獣は一つといなくなり、怪しく、強力な風を纏ったあの獣の王者が目を開いた。
「やはりな。ああ、厄介。」
ぎょろっと目玉が飛び出しており、口元から舌が力無く伸びている。
「火奴羅、いくぜ!」
賀連珠が飛び込んだ。火奴羅も走りこむ。
強かった。あの巨体から想像もできない速さ。泣き赤子のように腕を振る、その一撃は彼らを吹き飛ばし、地を割った。立ち上がる賀連珠、しかし入り込む隙がない。火奴羅は仕返しと光を撃ったが、その大きな爪が弾き飛ばしてしまう。
その巨大な目が火奴羅に向かった。素早く大きく爪の攻撃、一振り二振り。火奴羅はひらひらとかわすが息が上がっている。
(火奴羅…!)
最後の爪の一撃で、火奴羅は大きく空に打ち上げられた。飛び上がる獣、大きく口を開けて迫った。そして極めて太い牙で、思い切り一口。がりっと音がした。火奴羅が消えた。そして会好の目の前、叩きつけられるように地に落ちる。
「ああ、危ねえ。」
会好にしか聞こえないような細い声。
「火奴羅!大丈夫!?」

ふと強い気の風を感じた。見ると賀連珠の身体が光っている。
「やったな…!おう!やったなァ!」
突き進む賀連珠。獣は腕を開け、勢いよく振り下ろした。がりりと音がして、その爪が砕け散る。
「賀連!」
素早く間を取った賀連珠は、火奴羅を守るように彼の目の前に立ちはだかった。その腕に大きな傷、黄色い光が流れ出す。
「気にすんな。仲間だろ!」
賀連珠の両腕が強く光った。大きく、力強く膨らんでゆく。傷の光が吹き出した。
「よせ!」
「火奴羅。お前やっぱり変わってねえなあ。…楽しかったぜ。」
振り向きざま悪戯な笑顔を見せると、獣の元へ飛び出していった。
「賀連…!」
獣共々遠くに吹き飛んでゆく賀連。立ち上がろうとすると、遠くから1匹小さな獣のが飛び出してきた。
「火奴羅!」
会好が叫ぶも遅く、突き飛ばされる火奴羅。丘の下に消えて見えなくなってしまった。
(火奴羅!火奴羅…。私どうしたら…!)
遠くから影が走ってくる。よく見ると、賀連珠の姿。
(あ、賀連さん無事だったの…。でも、火奴羅が!)
顔と胸元にも大きな傷を負い、しかし清々しい表情で走ってきた。
「よお!ぎりぎり勝ったぜ!…あ?火奴羅は?」
「火奴羅が襲われたの!あっち…!」
会好は丘の向こうを指差した。
「ああ、火奴羅いないのか。そうか…。」

賀連珠は懐に手を入れた。
「えっ…!」
その手には金色の短剣。
「なに…?」
無言真顔で振りかぶる賀連珠。
「うっ…!」
声が出ない。胸がきゅっとなった。会好は急いで沙水斬の後ろに隠れた。
思い切り振り下ろす賀連珠。すると沙水斬の青い光がずばと大きくなり、刃先を押し返した。
「ああ、火奴羅の剣か。…ちっ。」
会好は恐怖で目を逸らした。
(逃げたい…!火奴羅…!)
遠くで桃色の爆破が起こった。光の泡がよく見える。
「妖霊。このことは黙っていろ。でないと殺す。」
「…。」
会好は声を出せなかった。飛ぶように火奴羅が戻る。
「よお、火奴羅!やったな!」
すぐに屈託ない笑顔を取り戻す賀連。
「賀連!生きていたな!会好、怪我ないか?」
まだ声が出せない。
「会好…?…取り敢えず大丈夫そうだな…。」

「死んだとおもったろ?なあ?」
火奴羅の肩に手をかける賀連珠。
「相変わらずしぶといご様子で。」
軽口で髪を梳かす火奴羅。
(…。)
その胸に篭って動かない会好。
「ああ、そうだ。火奴羅、お前どこに向かってるんだ?」
「記憶の森を探しにな。」
星がちらちら見えている。
「なんだ、まだやってんのか。いいぜ、俺も協力して探すよ。」
「そうか?心強いねぇ!持つべきものはってやつか。はは!」
高い空に、彼らの笑い声が響いてゆくだけ。

「ああ、あの木陰。今日はあそこで休むか。」
「そうだな。ああ賀連、お前は寝つきが悪いからなあ。ちゃんと寝ろよ?」
森の近くにぽつんと伸びた木。火奴羅と賀連珠はそこに座った。おもむろに会好が火奴羅の胸元から現れる。
「どうしたんだい、妖霊さん。元気ないね?」
優しそうな声で賀連が尋ねた。会好は何も言わず、火奴羅の裾を引っ張る。
「ん、どうした会好。」
火奴羅は立ち上がった。
「いや…。」
小さく呟く会好。
「え?」
「いや…!いや!私ここ嫌!」
突然叫ぶ会好。手を伸ばす賀連珠。会好を抱き寄せる火奴羅。
「どうした?どうしたの会好!」
「そうだよ妖霊さん。ほら…。」
また手を伸ばす賀連珠。会好は避けるように火奴羅の後ろに回った。
「いや!怖い!火奴羅、逃げよう!」
「こら!会好!何云ってんだ!」
火奴羅が静かに怒鳴った。
「失礼だろ。大体賀連が何したっていうんだ!」
「…え?」
会好は火奴羅の裾を離した。
「いや…。いや…!」
会好の目に涙が溢れる。
「うわーん!!」
会好は泣き出した。そして一目散に森へ逃げてゆく。
「あ、まって!妖霊さん…!」
走ろうとする賀連珠。その腹をがしっと掴んで静止する火奴羅。
「ああ、あいつたまに癇癪起こすんだ。気悪いよな。ごめんな賀連…。」
「そうか…。いや謝ることないぜ。」
火奴羅は賀連珠を座らせた。
「ちょっと話つけてくる。お前は疲れたろ。ここで先に休んでな。」
「ああ!でも気にすんなよ!」
星空の下で賀連珠の笑顔が輝いた。
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