36 / 72
第四章 衣食住、服を着てオシャレをします
36.王子、乙女に会う
しおりを挟む
コボスケとヒツジとともに糸を探すために森の中に来た。今回は森の深部まで来ているのか、辺りが薄暗く日差しがあまり入って来ない。
「そういえばなんで糸を探すのを嫌がってたんだ?」
『拙者、あやつが苦手なんです』
『ワシも性格が合わない』
どうやら苦手意識があったから、一緒に行くのに戸惑っていたらしい。今までそんなことを言ってこなかった奴らだからこそ、今回のやつは一段と変わり者が出てくるのかもしれない。
ただ、この島には普通のやつがいないため、もう覚悟はできている。
「んあ!? なんだこれ」
突然顔に何かが付着した。手に取り、よく見てみると白い糸が顔に付いていた。
やっと糸を見つけたことに喜んでいたが、コボスケとヒツジは少しずつ後退りしていく。
「そんなに嫌なやつ――」
『あらー、いらっしゃーい!』
少ししゃがれた声が上から聞こえてきた。見上げるとそこには、とてつもなく大きな蜘蛛がいた。
ウニョウニョする虫よりは見た目がよくて安心した。
元々虫自体はあまり好きな方ではないが、これならまともに話せるだろう。
「あのー、この糸ってもらうことができますか?」
『いやん♡ そんなに私のことが欲しいのね』
いや、欲しいのはあなたではなく蜘蛛ですが……。
「どちらかといえば糸が――」
『もう! 早く迎えに来てくれればよかったのに! 私の王・子・様!』
うん、今回もキャラが濃いやつが出てきたようだ。
一応王族だから王子様には変わりない。ただ、どこかこの言葉をそのまま受け取ってはいけない気がする。
それにこの感じは、カンチーガイ伯爵家の令嬢に似ていた。
昔、転んでいた令嬢に手を差し伸べてハンカチーフを渡したら、次の日には婚約をされたと令嬢達に自慢していた。
それがカンチーガイ伯爵家の令嬢だ。
次の日には、レオン兄さんとマリア姉さんに呼び出されて、三時間も問い詰められたことを思い出した。
あの時は本当に婚約者にしたいのか、兄と令嬢どっちが好きなのかを聞かれた。
特に令嬢には興味がなかったため、レオン兄さんとマリア姉さんの方が好きと言ったら、二人は泣いていたな。
世継ぎのいらない僕には婚約者がいらないって考えなんだろう。
そもそも友達もいないため、婚約者どころではない。
『ちょっと落ち込んでどうしたのよー』
「いやー、昔のことを思い出して」
過去のことを忘れようと思っても思い出してしまう。初対面なのに蜘蛛を心配させてダメな王子様だな。
僕は安心させるためににこりと微笑んだ。
『きゅん♡』
どこからか変な声がしたと思ったら、糸がたくさん宙に舞っていた。
『アドル!』
『おい!』
いつのまにか僕の体は糸で巻かれていく。
すぐに気づいたコボスケとヒツジが近寄ろうとするが、糸が邪魔で近くに来れないようだ。
『あー、もうなんなのよ! この可愛い王子様は!』
「可愛いって誰のことですか?」
『無自覚王子様……あああん♡ 絶対私の理想の王子様ヨオオオオォォォ!』
蜘蛛がさらに糸を出すと、僕はいつの間にか逃げられなくなったようだ。僕に巻くぐらいなら、そのまま糸として欲しい。
『じゃあ、王子様を誘拐するのは乙女の役目よおおおおん』
そう言ってグルグル巻きになった僕は蜘蛛に誘拐された。
そういえば、乙女って言葉聞いたことないな。
「そういえばなんで糸を探すのを嫌がってたんだ?」
『拙者、あやつが苦手なんです』
『ワシも性格が合わない』
どうやら苦手意識があったから、一緒に行くのに戸惑っていたらしい。今までそんなことを言ってこなかった奴らだからこそ、今回のやつは一段と変わり者が出てくるのかもしれない。
ただ、この島には普通のやつがいないため、もう覚悟はできている。
「んあ!? なんだこれ」
突然顔に何かが付着した。手に取り、よく見てみると白い糸が顔に付いていた。
やっと糸を見つけたことに喜んでいたが、コボスケとヒツジは少しずつ後退りしていく。
「そんなに嫌なやつ――」
『あらー、いらっしゃーい!』
少ししゃがれた声が上から聞こえてきた。見上げるとそこには、とてつもなく大きな蜘蛛がいた。
ウニョウニョする虫よりは見た目がよくて安心した。
元々虫自体はあまり好きな方ではないが、これならまともに話せるだろう。
「あのー、この糸ってもらうことができますか?」
『いやん♡ そんなに私のことが欲しいのね』
いや、欲しいのはあなたではなく蜘蛛ですが……。
「どちらかといえば糸が――」
『もう! 早く迎えに来てくれればよかったのに! 私の王・子・様!』
うん、今回もキャラが濃いやつが出てきたようだ。
一応王族だから王子様には変わりない。ただ、どこかこの言葉をそのまま受け取ってはいけない気がする。
それにこの感じは、カンチーガイ伯爵家の令嬢に似ていた。
昔、転んでいた令嬢に手を差し伸べてハンカチーフを渡したら、次の日には婚約をされたと令嬢達に自慢していた。
それがカンチーガイ伯爵家の令嬢だ。
次の日には、レオン兄さんとマリア姉さんに呼び出されて、三時間も問い詰められたことを思い出した。
あの時は本当に婚約者にしたいのか、兄と令嬢どっちが好きなのかを聞かれた。
特に令嬢には興味がなかったため、レオン兄さんとマリア姉さんの方が好きと言ったら、二人は泣いていたな。
世継ぎのいらない僕には婚約者がいらないって考えなんだろう。
そもそも友達もいないため、婚約者どころではない。
『ちょっと落ち込んでどうしたのよー』
「いやー、昔のことを思い出して」
過去のことを忘れようと思っても思い出してしまう。初対面なのに蜘蛛を心配させてダメな王子様だな。
僕は安心させるためににこりと微笑んだ。
『きゅん♡』
どこからか変な声がしたと思ったら、糸がたくさん宙に舞っていた。
『アドル!』
『おい!』
いつのまにか僕の体は糸で巻かれていく。
すぐに気づいたコボスケとヒツジが近寄ろうとするが、糸が邪魔で近くに来れないようだ。
『あー、もうなんなのよ! この可愛い王子様は!』
「可愛いって誰のことですか?」
『無自覚王子様……あああん♡ 絶対私の理想の王子様ヨオオオオォォォ!』
蜘蛛がさらに糸を出すと、僕はいつの間にか逃げられなくなったようだ。僕に巻くぐらいなら、そのまま糸として欲しい。
『じゃあ、王子様を誘拐するのは乙女の役目よおおおおん』
そう言ってグルグル巻きになった僕は蜘蛛に誘拐された。
そういえば、乙女って言葉聞いたことないな。
3
あなたにおすすめの小説
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」
***
魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。
王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる