無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

第六章 辺境の島に国を作る

５６.王子、初めて大人のお店に行く

「まずは家に入るときには足を洗う」

『イエッサアアァァァ！』

『ハイッサアアァァァ！』

　コボスケ達は素足で移動しているため、そんな状態で家に入ってきたら汚れてしまう。

　今度靴をカマバックに作れるか確認した方が良さそうだ。家に入らない奴らなら良いが、基本的にカマバック以外は家の中に入れる大きさだ。

　急いで扉の外に出たコボスケ達は水属性魔法で足を洗っている。

『アドル、ちゃんと洗ったぞ！』

『ワシもピカピカだ！』

　コボスケ達はそのまま濡れた状態で、家に入ろうとしていた。今度は家の中がベタベタに濡れてしまう。

「ちゃんと乾かす！」

『イエッサアアァァァ！』

『ハイッサアアァァァ！』

　怒られないためにてきぱきとしているのだろう。そんな姿を見て彼は笑っていた。

「あとは家主に確認してから家に入るんだぞ！」

『イエッサアアァァァ！』

『ハイッサアアァァァ！』

　コボスケとヒツジは誰に確認をして良いのか分からず、周囲をキョロキョロとしている。

　ここにいるのは僕と彼だけだ。すでに確認する人は決まっているだろう。

『どうぞお入りください』

　気を使って彼は許可をしてくれた。そのままコボスケ達は僕に抱きついてきた。

『アドル、ほったらかしにしてごめんなさい』

『ワシもすまなかった』

　謝り方に違いはあるもののどちらも反省しているようだ。自分がやったことを理解しているのなら、怒るのも可哀想だな。

「これからは気をつけるんだぞ」

　僕が優しく撫でるとコボスケとヒツジは尻尾を振っていた。そんな姿を見て彼も近づいてきた。

『ぼくも撫でてください』

　ああ、ここはやっぱり大人が来るようなお店だろうか。服を少し引っ張って上目遣いで僕を見てくる。

『アドルは拙者のだ！』

『いや、ワシのだぞ！』

　コボスケとヒツジは相変わらず歪みあっていた。僕は誰のものでもないはずだ。

『ぼくには撫でてくれないんですね』

　少し寂しそうな表情をして帰っていく彼がどこか可哀想に見えてきた。それはコボスケとヒツジも思ったのだろう。

　じーっと僕の方を見ている。

『今回だけは許すぞ』

『ワシはそれでも嫌だけどな』

　いや、だから僕はお前らのものではない。あまりにも背中が悲しそうなので、仕方なく僕は後ろから彼の頭を撫でることにした。

『ふふふ、お兄ちゃんありがとう』

　振り返った彼は僕に抱きついてきた。

　うん、これはドラゴニュートがいた沼よりも深そうな沼にハマってしまいそうだ。

　彼は男性だ。

　彼は男性だ。

　僕は自分に言い聞かせるが、彼から香る良い匂いにさらに混乱する。

　僕は急いで手を離そうとしたが、すでに彼は僕の手を持っていた。

『もう少しだけお願いします』

　ああ、ここはきっと大人が来るようなお店で間違いないようだ。

『そろそろ拙者の番ですよ！』

『一日一回は撫でる約束になっているが、それ以上撫でても良いんだからな！』

　どうやらコボスケとヒツジも彼に嫉妬したのだろう。ヒツジに関しては尻尾を巻きつけて催促してくる。

　ああ、本当に可愛いやつらだな。

　僕はその後もみんなが納得するまで撫でることにした。

　そういえば、早く家に帰らなくても大丈夫なんだろうか。