元ゲーマーのじいじ、気ままなスローライフを始めました〜じいじはもふもふ達の世話係です〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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7.じいじ、エイムを舐めるなよ

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『にゃあああああん!』
「うわああああああ!」

 大きく振り上げるベヒモスの手を避けながら、再び隠れの家に入っていく。

「やっぱりだめか……」

 ステータスが2倍になっていれば、いくら強敵でもダメージ1はあると思っていた。
 だが、わしの武器はただの歩行補助具で武器ではなかった。
 戦う手段のないこの状況はすでにムリゲーだ。

「じいじ、何でネコちゃん叩くの?」
「ぐぬぬぬ……」

 悲しそうな顔で言われると心苦しくなる。
 わしもネコを叩きたくないからな。
 だが、あいつはベヒモスだ。
 それに痛くも痒くもないだろう。
 今も頭を掻いて、大きなあくびをしている。

「テイムするには、弱らせないと捕まえにくいからな」

 ボールを投げるときは、弱らせて状態異常をする。
 昔はそれが当たり前で、あの有名なゲームの常識だからな。

「そうなのかな?」

 あまりゲームをしたことないハルキには、この常識がわからないようだ。

「何かダメージになる武器でもあればいいんだけどな……」

 周囲に何か落ちていないか探す。
 わしは落とし物を拾う天才だからな。

「あれは使えるぞ」

 わしは木製の椅子が近くに置いてあることに気づいた。
 きっと日向ぼっこするために、置いてあったやつだろう。
 わしは椅子を持ちあげて、再びベヒモスに向かっていく。

「うおおおおお!」
「じいじがおかしくなった……」

 チラッとハルキに視線を向けると、心配そうな顔でわしを見ていた。
 元ゲーマーのわしを舐めてもらっては困るからな。

『にゃあああああああ!』

 足が隠しの家の範囲内から出ると、ベヒモスはわしに気づいて、突撃する勢いで走ってきた。
 毛並みが風に流れており、あまりの可愛さにわしは震えてしまう。
 罪悪感はあるが、少しでもダメージを与えないといけないからな。

「うおおおお……おっ!?」

 全身が出た瞬間、手に軽さを感じた。
 視線を上げると、持っていたはずの椅子がなくなっていた。

【隠しの家にある物は持ち出せません】

「早く言えよ!」

 聞こえてくるアナウンスに、ついツッコミを入れてしまった。
 歳をとったわしにこんな元気があるとはな。

『にゃあああああ!』

 だが、その行動は間違いだった。
 ベヒモスはそのまま、わしに張り手をしてきた。
 避ける余裕もなく、そのまま隠しの家に向かって押し込まれる。

「ぐはっ!?」

 勢いは隠しの家に衝突するまで止まることはなかった。
 あまりの痛みと肉球の心地よさに、HPが1になってしまった。
 HPゲージがチカチカと点滅しながら、ピンチなのを知らせてくれる。

『にゃあ……?』

 自分で張り手をしながらも、急に消えたわしを探して、ベヒモスは今もキョロキョロとしている。

「じいじ!」

 すぐにハルキが駆け寄ってきた。
 もうわしは生い先長くはないだろう。

「ハルキ、今まで――」
「僕もネコちゃんと遊びたい!」
「なんだと!?」

 今にもログアウトしそうなわしの体は元気に起き上がった。
 どうやらハルキは、わしとベヒモスが遊んでいると勘違いしているのだろう。
 ダメージはあるが、肉球にムニムニされていたのは事実だしな。

「ハルキ、もう少し待ってなさい」
「えー」

 さすがに今は命がけすぎるからな。
 わしの場合、攻撃が一撃当たったことで、スキル【じいじ】が発動して強くなる。
 体の奥から力が込み上げてくるようだ。
 今なら亡き妻に土下座してプロポーズした時よりも、心と体は強いだろう。
 一撃必殺でもHP1で耐えられる仕様だからな。

「よし、次こそは仕留めてくる!」
「じいじ!?」

 今ならステータスも上がって強くなったはずだ。
 わしは隠しの家の範囲ギリギリまで近づいていく。
 ここにある物は持ち運びできない。
 使えるのはわしの体だけだ。

「うおおおおおお!」

 わしは気合いを入れてから、一歩足を踏み出す。

「じいじ!? やっぱり認知症になったの……?」

 チラッと振り向くと、あまりの気迫にハルキも驚いているようだ。

『にゃあ!』

 だが、残念だったな。
 わしはすぐに足を戻す。
 ベヒモスが周囲をキョロキョロしているところを見ると、本当に気づかないようだ。
 それに足を出して気づいたことがあった。

「装具は問題なさそうだな」

 装具はそのまま外に持ち出せた。
 ずっと付けていたから、全く気づかなかったが、これもわしの装備の一部だろう。
 わしはとりあえず装具を外す。

「よし、投げてみるか!」

 元ゲーマーのエイム力を舐めてもらっては困る。
 目標物が大きければ大きいほど、難易度は低くなるからな。
 わしは腕だけ出して、ベヒモスに向かって投げる。

――ダメージ50

「へっ!?」

 まさか同じ補助具でも、装具がダメージを与えられるとは思わなかった。

『にゃあああああ!』

 だが、驚いて立ち止まったことで反応が遅れたようだ。
 気づいた時には、ベヒモスの肉球が目の前にあった。
 今にも触れそうな肉球に、もうここで死んでも良いと思ってしまうほどだ。
 楽しい人生をありがとう。

「うぉ!?」

 突然体が引っ張られるような感覚に、視線を向けると、ハルキがわしの腕を掴んでいた。
 わしが死なないようにハルキが助けてくれたのだろう。

「ハルキ、そんなにじいじのことを――」
「じいじ! ネコちゃんをいじめるな!」

 どうやらわしはベヒモスに負けたようだ。
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