37 / 158
第一区画

37. 無防備な桃乃

しおりを挟む
 酸素が足りない俺の体は大きく息を吸い込み、身体中を巡るように必死に呼吸する。

「はぁ……はぁ……」

 俺と桃乃は全力で穴の中に飛び込んだ。その結果、二人とも床に倒れ込み息をするのもやっとだ。

 もう少しジョギングが必要だと俺は再認識した。

「桃乃大丈夫か?」

「はい……」

 桃乃もその場で動けずぐったりしている。体が回復してから、またポイズンスネークに襲われそうになり、倒したら全力で走らなければいけないという散々な目に遭っているから仕方ない。

【ポイズンスネークの討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します】

 恒例の脳内に直接響くアナウンスが始まった。突然のアナウンスに桃乃は驚いていたが、俺の反応を見て落ち着きを取り戻していた。

【ポイズンスネーク討伐数1体、地球人救出者1名です】

 今回は桃乃を救出したことで、救出者1名となっている。

【それでは報酬の発表です。ポイズンスネーク1体につき7万円で計7万円になります。そして、地球人1名救出したため5万円獲得。合計は12万円の報酬となります】

【マジックバックの中身は売却しますか?】

 俺はコボルト達が倒したゴブリンの素材を全て売ることにした。ホブゴブリンの素材は以前の物を残してあるので、ゴブリンの素材売却で80万円と討伐報酬と合計すると92万円となった。

【お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております】

「そっちも終わったか?」

「はい」

 アナウンスを聞き終えると俺は桃乃に声をかけた。各々聞こえているのは異なるが、どうやら同じタイミングで終わるようになっているのだろう。

「じゃあ、帰ろうか!」

 無事に桃乃を救出できたことを噛み締めながら、現実世界に戻っていく。

「あー、疲れたな」

 とりあえず桃乃を家の中に招き入れ説明することにした。

「まずは風呂から……いや、これってセクハラになるのか?」

 玄関で桃乃は立ち尽くしていた。鏡に映った自分の姿に驚いているのだろう。俺もはじめは現実だとは思わず、受け止められなかった。

 桃乃は現実だったと実感したのだろうか、少し震えていた。

「そのまま帰るには汚れ過ぎているから、風呂に入って行くか?」

「そうですね。流石にこんなに真っ黒な状態だとみんなに見られて落ち着きませんし、家族が心配しますね」

 先に温まって落ち着くようにお風呂場まで案内した。確かに今の姿を家族が見たら、誰かに襲われたと思い、警察沙汰になるかもしれない。

「ここに着替えを置いておくからな。まずはゆっくり休めよ」

 大きいとは思うが、俺のジャージを脱衣所に置いておく。

 桃乃はそのまま浴室に入って行った。

 今回ETFの配当金によって桃乃を助けることができた。解毒ポーションがなければ今頃桃乃は毒で亡くなっていたかもしれない。本当に無事に終わったと実感して俺も力が抜けてしまう。

「先輩ありがとうござました」

 お風呂から出てきた桃乃は袖と裾を折り曲げていた。いつも元気な桃乃が少し女性らしく感じた。

「ああ、全然気にするな。俺も風呂に入ってくるからちょっと待ってもらってもいいか?」

 俺はすぐに風呂に入り、桃乃が待つ居間に行くと桃乃はすでにソファーで眠っていた。

 どうやら疲れて眠ってしまったようだ。

 先輩って言っても独身男性の家で無防備な姿で寝ない方が良いだろう。それだけ安心しているのかもしれないが、それはそれで男として悲しくなる。

 桃乃に布団をかけ、おばさんから貰ったおかずをレンジで温めていく。

 さすがは隣のおばさん。俺の好物であるコロッケは毎回用意されている。サクサクで中がホクホクとしたコロッケに俺は毎回感動している。

「ん……」

「あっ、起きたか?」

「すみません、私寝てましたよね!?」

 桃乃はレンジの音で目を覚ました。もう少し寝かせるつもりだったが、俺のお腹も限界に達していたためちょうどよかった。

 俺は温めたおかずを机に並べていく。今回は、コロッケと春巻き、きんぴらごぼう、きゅうりの和物だ。

「先輩が作ったんですか?」

 沢山の料理に桃乃は驚いている。流石に料理スキルまでは持ち合わせていない。

「隣のおばさんが定期的に作ってくれるんだ。後で返しに行くから先に食べようか」

 俺と桃乃は席に着くと手を合わせて、食べ始めることにした。桃乃もお腹が空いていたのかしっかりとご飯も食べていた。

 いつもよりは若干量は多くなっていたが、成人を過ぎた俺達にはちょうど良い量だった。

 俺は食事を終えてから、異世界について詳しく説明することにした。異世界にいる時はまずは命の優先をしていたため、細かい話はしていない。

「詳しい話をするから帰ってきた時に持ってた袋を持ってきて」

 何を言われているのかわかっていなさそうだが、何かを思い出したかのように玄関に取りに行った。

「先輩、袋ってこれですか?」

 桃乃の手にも同じ麻の袋が握られていた。

「ああ、じゃあ今まであったことを説明するぞ」

 俺は桃乃にあった今までの経緯とあの謎の穴、異世界への扉の説明を始めた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...