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第二区画
83. あぶない関係
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俺が目を開けると目の前には知らない天井があった。どうやらベッドで寝かされていたようだ。
「うん、服はちゃんと着ているな」
少し乱れてはいるがどうやら服は着ていた。頭の中で何があったのか整理していると、少しずつ足音が近づいてきた。
「おっ、目を覚ましたか」
扉が開くとそこには笹寺が立っていた。そういえば、笹寺に会いに来たはずが、いつのまにかベッドに寝ていた。
「すまんな。やりすぎたわ」
「……」
俺は体を起こし下着の中を確認するが無事なようだ。お尻にも違和感はない。
「それだけじゃあ誤解を招くだろ」
「ははは、気絶するまでやったのは俺の責任だからな」
いやいや、この会話だけ聞いてたら怪しいやつらだと思われてしまう。気絶するまでやったってもはやパワーワードだ。
「それで今何時ごろだ?」
「ああ、15時ぐらいだな」
道場に来たのが13時過ぎだったため、2時間近くは気絶していたようだ。笹寺は部屋に入りベッドに腰掛けた。
「……」
いやいや、男二人がベッドに腰掛けて見つめるのは流石にアウトだろう。何も話さない笹寺に俺は何を考えているのかわからなかった。
「勝手に辞めると言ってすまんな」
どうやら言葉にするのを躊躇っていたようだ。
「何があったんだ?」
「ああ、親父が倒れてな……」
「そうか……それは――」
言いにくいぐらいだからよっぽど重症なんだろう。雰囲気や空気感も笹寺から感じたことのない重さを感じた。
「いや、親父は無事だぞ?」
「おい、先にそれを言えよ。めちゃくちゃ心配したじゃねーかよ」
あんな重い空気を出したから、亡くなったと思ったがまさかの元気らしい。
「ははは、無事なんだけどまだ仕事ができるような状態じゃないからな」
話を聞いていると父親は脳梗塞で倒れて、病院に入院しているようだ。命には問題ないが今後、後遺症のことを考えると、現場に復帰できるかどうかわからないらしい。
「だから道場の後継ってことか?」
「そういうことだな。今の仕事だと平日は残業ばかりで土日しか道場はできないしな」
笹寺の父親は小さな工場を経営しながら、道場をやっていた。工場は元々弟が継ぐ予定になっていたが、道場自体は継ぐ人がおらず笹寺がやることになったらしい。
「ブランクとかないのか?」
「ああ……まあな」
一度武道を辞めたことに関しては、触れてほしくないのか歯切れが悪かった。
「あの会社じゃ仕方ないよな」
俺もやっと時間に余裕ができて、今の自分の立場と会社としての構造を理解してきている。あの当時は働くことが精一杯で、社員を奴隷のように扱う会社を続けても、今後の未来はないと思っていた。
ただ、会社が大きい分それなりのメリットがあるのも現状だ。結局問題なのは、あの糞野郎がいることだ。
「仕事はやっぱり工場に入るのか?」
工場を経営しているならそこで働くことも可能だし、時間の融通も効くのだろう。
「今は親父の仕事を弟がやってるけど、元々の人数不足で工場自体が回ってないからな」
小さな工場だとやはり人数の確保も難しいのだろう。大手の会社に卸している部品も多数あるから、その納品が間に合わないらしい。
「せっかくの営業スキルも勿体ないな」
「んー、それが問題なんだよな。今頃工場に入っても今までのスキルは生かせないし、俺って営業向きだから、人に会わずにコツコツ同じ作業をするのは合わないんだよ」
確かに会社の中でも営業成績が良い笹寺なら辞めてしまうのは勿体ない印象はある。
単純にブラック企業だけど製品は良いものを作っているからこそ、笹寺の営業だけがすごいわけではないが、それでも実力はあると俺も思っている。
俺も笹寺に工場は合っていないような気がしていた。それこそ営業スキルを逆手に、工場を発展させる方が今の彼には合っているだろう。
「辞めるとは言ったけど上司が今の現状を理解して、しばらくは有給休暇させて貰ってるけどな!」
「はぁん!?」
同じ会社でも営業部は俺の部署とは異なり、ホワイトということを初めて知った。それなら尚更辞めるべきではないと思う。
笹寺の話では退職願を出したが、まだ受理されず少し考えて欲しいという理由で有給休暇になっているらしい。
俺なんて入職して一度も有給休暇を使った覚えはない。年に5日は使わないといけないが、結局仕事が終わらずに家でやっていた。
「俺の営業成績ってかなり上位だから仕方ないな」
こういうところがさらにイラッとする。営業しやすいように準備しているのも俺の仕事だ。話を聞いた俺は帰ることにした。
「仕事場が違っても俺には連絡くれよな」
「ああ、勿論だ。道場に来てもらいたいからな」
「どういうことだ?」
「お前のあの動きに道場に通っている奴らが、興味を持ったから暇な時には遊びに来いよ」
「いや、武道やったことないから無理だぞ」
投資で得たパッシブスキルによる影響だが、俺は武道が全くできない。それなのに遊びに来いって言われても動ける気がしない。
「あれで武道をしたことないってどういうことだ?」
笹寺から見ても俺の動きは普通の人ではない動きをしていたらしい。
「それは色々あるんだよ」
笹寺は酔っ払った俺を運ぶ時に家には来ているが、酔っ払って覚えていないとは言っていた。
ただ、飲んでいた時に穴の話をしたのは覚えているため、その時の記憶があればすぐにバレてしまう。
また口を滑らせないように注意は必要だ。
「じゃあ、理由も聞けたし俺は帰るわ」
「おう。わざわざ来てくれてありがとな!」
笹寺の事情を聞いた俺はベッドから立ち上がった。なぜか少しだけ尻の痛みを感じたような気がした。
ああ、そういえば倒れた時に尻を打っていたな。
「うん、服はちゃんと着ているな」
少し乱れてはいるがどうやら服は着ていた。頭の中で何があったのか整理していると、少しずつ足音が近づいてきた。
「おっ、目を覚ましたか」
扉が開くとそこには笹寺が立っていた。そういえば、笹寺に会いに来たはずが、いつのまにかベッドに寝ていた。
「すまんな。やりすぎたわ」
「……」
俺は体を起こし下着の中を確認するが無事なようだ。お尻にも違和感はない。
「それだけじゃあ誤解を招くだろ」
「ははは、気絶するまでやったのは俺の責任だからな」
いやいや、この会話だけ聞いてたら怪しいやつらだと思われてしまう。気絶するまでやったってもはやパワーワードだ。
「それで今何時ごろだ?」
「ああ、15時ぐらいだな」
道場に来たのが13時過ぎだったため、2時間近くは気絶していたようだ。笹寺は部屋に入りベッドに腰掛けた。
「……」
いやいや、男二人がベッドに腰掛けて見つめるのは流石にアウトだろう。何も話さない笹寺に俺は何を考えているのかわからなかった。
「勝手に辞めると言ってすまんな」
どうやら言葉にするのを躊躇っていたようだ。
「何があったんだ?」
「ああ、親父が倒れてな……」
「そうか……それは――」
言いにくいぐらいだからよっぽど重症なんだろう。雰囲気や空気感も笹寺から感じたことのない重さを感じた。
「いや、親父は無事だぞ?」
「おい、先にそれを言えよ。めちゃくちゃ心配したじゃねーかよ」
あんな重い空気を出したから、亡くなったと思ったがまさかの元気らしい。
「ははは、無事なんだけどまだ仕事ができるような状態じゃないからな」
話を聞いていると父親は脳梗塞で倒れて、病院に入院しているようだ。命には問題ないが今後、後遺症のことを考えると、現場に復帰できるかどうかわからないらしい。
「だから道場の後継ってことか?」
「そういうことだな。今の仕事だと平日は残業ばかりで土日しか道場はできないしな」
笹寺の父親は小さな工場を経営しながら、道場をやっていた。工場は元々弟が継ぐ予定になっていたが、道場自体は継ぐ人がおらず笹寺がやることになったらしい。
「ブランクとかないのか?」
「ああ……まあな」
一度武道を辞めたことに関しては、触れてほしくないのか歯切れが悪かった。
「あの会社じゃ仕方ないよな」
俺もやっと時間に余裕ができて、今の自分の立場と会社としての構造を理解してきている。あの当時は働くことが精一杯で、社員を奴隷のように扱う会社を続けても、今後の未来はないと思っていた。
ただ、会社が大きい分それなりのメリットがあるのも現状だ。結局問題なのは、あの糞野郎がいることだ。
「仕事はやっぱり工場に入るのか?」
工場を経営しているならそこで働くことも可能だし、時間の融通も効くのだろう。
「今は親父の仕事を弟がやってるけど、元々の人数不足で工場自体が回ってないからな」
小さな工場だとやはり人数の確保も難しいのだろう。大手の会社に卸している部品も多数あるから、その納品が間に合わないらしい。
「せっかくの営業スキルも勿体ないな」
「んー、それが問題なんだよな。今頃工場に入っても今までのスキルは生かせないし、俺って営業向きだから、人に会わずにコツコツ同じ作業をするのは合わないんだよ」
確かに会社の中でも営業成績が良い笹寺なら辞めてしまうのは勿体ない印象はある。
単純にブラック企業だけど製品は良いものを作っているからこそ、笹寺の営業だけがすごいわけではないが、それでも実力はあると俺も思っている。
俺も笹寺に工場は合っていないような気がしていた。それこそ営業スキルを逆手に、工場を発展させる方が今の彼には合っているだろう。
「辞めるとは言ったけど上司が今の現状を理解して、しばらくは有給休暇させて貰ってるけどな!」
「はぁん!?」
同じ会社でも営業部は俺の部署とは異なり、ホワイトということを初めて知った。それなら尚更辞めるべきではないと思う。
笹寺の話では退職願を出したが、まだ受理されず少し考えて欲しいという理由で有給休暇になっているらしい。
俺なんて入職して一度も有給休暇を使った覚えはない。年に5日は使わないといけないが、結局仕事が終わらずに家でやっていた。
「俺の営業成績ってかなり上位だから仕方ないな」
こういうところがさらにイラッとする。営業しやすいように準備しているのも俺の仕事だ。話を聞いた俺は帰ることにした。
「仕事場が違っても俺には連絡くれよな」
「ああ、勿論だ。道場に来てもらいたいからな」
「どういうことだ?」
「お前のあの動きに道場に通っている奴らが、興味を持ったから暇な時には遊びに来いよ」
「いや、武道やったことないから無理だぞ」
投資で得たパッシブスキルによる影響だが、俺は武道が全くできない。それなのに遊びに来いって言われても動ける気がしない。
「あれで武道をしたことないってどういうことだ?」
笹寺から見ても俺の動きは普通の人ではない動きをしていたらしい。
「それは色々あるんだよ」
笹寺は酔っ払った俺を運ぶ時に家には来ているが、酔っ払って覚えていないとは言っていた。
ただ、飲んでいた時に穴の話をしたのは覚えているため、その時の記憶があればすぐにバレてしまう。
また口を滑らせないように注意は必要だ。
「じゃあ、理由も聞けたし俺は帰るわ」
「おう。わざわざ来てくれてありがとな!」
笹寺の事情を聞いた俺はベッドから立ち上がった。なぜか少しだけ尻の痛みを感じたような気がした。
ああ、そういえば倒れた時に尻を打っていたな。
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