97 / 158
第二区画

97. 女性は皆怖いです

しおりを挟む
「とりあえず歩きましょうか」

「ああ、期待させてすまなかったな」

 俺は罪悪感に包まれながら歩きだした。さっきまで桃乃が後ろを付いてきていたが、今は前を歩いている。

「ねぇ……先輩」

「なんだ?」

「なんか前から砂埃が……」

 目の前から砂埃を巻き上げこちらに何かが向かってきている。

「なぜかクエストがクリアになってますよ」

「はぁん!?」

 俺が視線をずらすと、そこにはクエストクリアとの表示が出ていた。まだ穴を見つけていないし、オークを倒してもいないのにクリアになっている。

「それよりも逃げましょうよ!」

「そっ、そうだな」

 何が起きたかわからないまま逃げているが、穴がどこにあるのかもわからない。

 マッピングしていても結局迷子になっていた。

 ただ言えるのは結局全て薙ぎ倒すしかないのだろう。

「ももちゃん、隠れるよ!」

 俺達は気づいた時には集落に戻っていた。見送ったトレント達は居なくなり、あるのは滅びた集落のみ。

 俺達は集落の建物内に身を潜め、追いかけてくる敵を観察することにした。

「どこ……イッタ……」

 俺達を追いかけてきたやつらは、ドリアードと同様に言葉を話していた。それだけ知能が高い魔物なんだろう。

「ももちゃんあいつら話してるよ」

「えっ? 僕には何言ってるかわからないです」

「ああ、自動翻訳か」

 スキルでやつらが何を話しているのか理解できたようだ。

 それにしても、やつらは何のために追いかけてきたのだろうか。

「先輩、あれってオークですか?」

 見つめていると確かにオークと表示されている。

 オークと言っても頭以外は武装しており、武器も持っているため、図体が大きい人間にしか見えない。

 一般的なゲームとかに出てくるオークとは異なり、豚の見た目をしているわけでもなく、ただの気持ち悪い太った男だ。

 顔は潰れたような見た目をしており、生理的に受け付けない不潔感が漂っている。

 オークは四体存在し、そのうち一体がトレントの実を持っていた。

「オークで合ってるけど、俺が投げたトレントの実で倒したってことか?」

 トレントの実には血が多量に付いていた。クエストをクリアできたのも、ひょっとしたら運良くトレントの実が当たって倒したのかもしれない。

「ほら、先輩のせいですよ!」

「すまん」

 俺が桃乃に謝っていると、どうやらオークの様子がおかしいようだ。

「ハァハァ……ドコダ……」

 なぜかオーク達は息を荒げて興奮していた。トレントの実を持ってはいるが、そこにはあまり興味を示していないようだ。

「気持ち悪いです。ストーカーされる気持ちってこんな感じなんですね」

 桃乃の出した例えがリアル過ぎて俺は言葉にできなかった。

 これからは女性にアピールするときは、見た目を気にしてから声をかけようと心から思った。

「アアアァァァ!!! オカス!!」

 どこか興奮しているオークは突然着ていた鎧を脱ぎ、自身の大事な部分を突き出していた。

「あれって色んな意味で興奮状態ってこと?」

「あれって……」

 俺は桃乃がまた何かを言い始めたと思い、耳を閉じた。

 同じモテない男性として、どこか桃乃の例えを聞いていると辛くなってしまう。

「とりあえず、鎧を外したから今がチャンスじゃないか?」

「すぐに火属性魔法で援護します」

 俺は魔刀の鋸を装備してオーク達の前に出た。

「オマエ……チガウゥゥ!!」

 オークはよだれを垂らしながら、俺には目もくれずに辺りを探している。

 あそこまで言われると、振られた気持ちになってしまう。

「先輩いきます!」

 桃乃が魔法の準備ができた瞬間に、建物から出るとオーク達は桃乃の方へ視線を向けた。

「ミ……ツケタァァァ!!!」

「イヤアアアァァァ!」

 桃乃の口から聞いたこともない野太い叫び声が聞こえてきた。よく聞くあの甲高い叫び声は、本当に嫌がっている声ではないのだろう。

 俺は後ろからのオークに近づき、首元に鋸を押し当てた。そのままの勢いで体を回転させ、首を切り落とす。

「メテオストライク!」

 ファイヤーボールとは違い、燃えた岩のようなものを出した桃乃はオークにぶつけている。

 当たったのは一体だけで、あと二体は桃乃に接近していた。

「イヤダァァァー!」

 桃乃はそのまま集落を出て逃げていくと、オークもつられて追いかけていく。

 そんな中、うるさかったのか奥からスカベンナーが出てきた。

 その顔はどこかニヤッとしている。

 俺は集落から出た時のことを思い出した。

 臭くはないが桃乃が普段と違った匂いが出ていることに気づいていた。

「お前の仕業か!」

 俺はスカベンナーを捕まえようと近寄るが、すぐに集落の奥へ消えていってしまった。やはり獣の形をしている魔物は足が速かった。

「それよりもももちゃんが危ない!」

 俺は体を切り返して、急いでオーク達を追いかけることにした。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...