104 / 158
第二区画

104. この子を俺にください! ※一部第三者視点

しおりを挟む
 まさかの出来事に俺は固まっていた。だってこんなところで会うとは思いもしなかった。

「かっ……花梨さん!?」

「先輩さんお久しぶりです」

 俺の目の前には桃乃の妹である花梨さんがエプロン姿で立っていた。突然目の前にいるのか俺は意味もわからず混乱していた。

 久しぶりに会った彼女の笑顔に再び、あの時と同じ胸の高鳴りを感じてしまう。

 それにしても桃乃は家でも先輩と呼んでいるのだろう。

「なぜ、花梨さんがいるんですか?」

「ここ私のアルバイト先なんです」

「料理教室は……」

「ここは洋菓子店だけど定期的にお菓子を中心に料理教室をやっているんです」

 話を聞いてやっと意味が理解できた。洋菓子店でお菓子教室をしていても、料理教室という枠としては同じだろう。ただ、洋菓子ではなく、コロッケを作る予定だけど問題ないのだろうか。

「今度お家にお邪魔させて頂く予定ですが大丈夫ですか?」

「ふふふ、どこか奥さんの実家に挨拶に行くみたいな話し方になってますよ?」

「いやいや、そんなことは……」

 もはや一目惚れ相手の家に行くなんて、実家に挨拶に行くのと同じだ。

 一目惚れかって言われると恋愛経験が少ないからなんとも言えないが、初めて付き合ったのもアナウンサーとして活動している彼女ぐらいしか経験がない。

 まぁ、俺の中ではFIREしてニート・・・になることが第一優先だ。付き合うという選択肢は今のところない。

 恋人ができたらお金と時間を使うため、その分副業もできなくなってしまう。

「そう簡単にお姉ちゃんは渡しませんよ?」

「ん? ももちゃんのことか?」

 別に俺は桃乃が欲しいわけでもない。ただ、桃乃の時間をもらうことになるため、花梨さんはこうやって言っているのだろう。

「私シスコンなんですよね。最近お姉ちゃん取られて寂しいんですよ」

 まさか一番の天敵が桃乃だったとは……。一緒に異世界に行くことも増えていたし、異世界に行かない日も声をかけていた。

 きっとそのことを言っているのだろう。

 ただ、俺と桃乃は職場の上司と部下の関係でしかない。むしろそれ以上はパワハラかセクハラだと訴えられてしまう。

「そういえば今日はどうされたんですか?」

 姉の上司でもある男がマカロンを買いに来たなんて恥ずかしくて言えない。ただこのまま立っていても時間が過ぎるだけだ。

 きっと人気店ならすぐに女性のお客さんが来てしまう。

 俺はスキルをフル回転させて、決心した。

「この子を俺にください!」

 俺はショーケースに指差すと、目的のマカロンを買いに来たことを伝えた。買うにはどうしても伝えないといけない。

「ぐふっ!?」

 だが、そんな俺の言葉になぜか吹き出して笑っている。

「あれ? 売り切れでしたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。こちらマカロンちゃんセットですね」

 どうやらこのお店ではマカロンのことをマカロンちゃんと言っているらしい。たしかに赤や青、黄色や緑など色が様々で、見た目が可愛らしい。

 俺は頷くとピンク色の綺麗な紙袋に入れてくれた。堂々と大きく印字された店名とピンクの紙袋が少し恥ずかしいが、俺のミッションであるマカロンを手に入れた。

「お会計が1500円です」

 お会計を済ませてマカロンを受け取る。初めてのマカロンに俺の心は浮ついていた。

 女性がスイーツを買うときはこんな気持ちなんだろう。女性だけではなく男の俺でも、こんなにウキウキした気持ちになれるスイーツは本当にすごい。

「先輩さん今週待っていますね」

 彼女は俺が来るのを待っていてくれるらしい。そのことを考えるだけでさらに俺の心はウキウキしていた。

「俺も楽しみにしていますね」

 そう伝えると店を後にした。初めてのマカロンも買って、浮ついた俺は自然とスキップしながら帰っていた。





 お店の中ではケーキを作り終えた店主がお店に出てきていた。

「ふふふ、面白い方でしたね」

「あっ、柿谷さんお疲れ様です」

「花梨ちゃんもお疲れ様」

 洋菓子店の店主でもある柿谷は、マカロンを買った男性を奥で見ていた。男性が一人で買いに来ることはあるが、店の外から長いこと眺めては店の外を行ったり来たり。

 やっと入ってきたと思ったら、体をガチガチにさせて商品を見ていた男性に注目しない人はいないはずだ。

「あんなに喜んでもらえたら私も作り甲斐があるわね」

 ケーキを並べながら彼女は笑っていた。若くしてこのお店をオープンさせて今は有名店まで上り詰めた彼女に花梨は憧れている。

「私も好きです!」

「あら? 花梨ちゃんも好きということは両思いなのかしら?」

「いえいえ、私が好きなのは柿谷さんの作る洋菓子だけですよ」

「あははは、じゃあ私に惚れてるってことかしらね」

「んー、少し違いますがそういうことで合ってますかね」

 彼女達は笑いながら優しい目でケーキを見ていた。沢山の人にこの洋菓子を食べてもらいたい。

 そんな気持ちが沢山詰まった洋菓子が今日もたくさん売られていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...