140 / 158
第二区画

140.サボッテンナ

しおりを挟む
 俺はなぜ生きているのだろうか。

 楽しいこともなく、大事な家族まで失い、一人になってしまった。

 あの時の記憶は今も鮮明に覚えている。燃え上がる車に必死に叫ぶ妹の声が、俺の耳元を突き抜けた。

「お兄ちゃん!!」

 懐かしい妹の声が俺を呼んでいた。

 ああ、俺も家族の元へ今すぐ行きたいと思ってしまう。

 俺だけ生き残るとは思いもしなかった。

「俺だけ一人にしないでくれ!」

「慧大丈夫か?」

「えーっと……誠か?」

 さっきまで妹が叫んでいたはずだ。

 あれ……?

「俺がわかるなら大丈夫そうだな」

 声にハッとすると辺りは燃えていた。気づいたら、なぜか笹寺の腕の中で俺は倒れている。

 平凡な顔の俺とは真逆で、整った顔に笑顔が似合うその男の顔が妙にムカつく。

 俺はそのまま頭突きをしようと、勢いよく起き上がったが、あっさりと避けられてしまう。

「こんにゃろー」

「ははは、それぐらい慧の表情見てたらわかるぞ」

 そんな他愛も無いことをしていると、近くにいた桃乃は怒っていた。

 隣では笹寺が口元を隠している。

「先輩達イチャイチャしてないで、早くサボテンをどうにかしてくださいよ! キスをするなら倒してからにしてください!」

「イチャイチャしてねーし、キスをする気はないぞ!」

 桃乃は怪しむような顔でこちらを見ていた。

「それよりもサボッテンナが燃えてるぞ」

 サボッテンナ必死に火を消そうとバタバタとしている。

 気づいたら俺は囲まれて、変な踊りを見ていた。するとだんだんと気持ちが落ちていったのだ。

 その後、俺はそのまま倒れて、笹寺の腕の中にいたのだろう。

 次第に意識がはっきりして、記憶が戻ってくる。

「そいつらは敵意なんかないぞ! だから水をかけてくれ」

「ええ!?」

 桃乃はすぐに水属性魔法と回復魔法をかけた。幸い命は大丈夫だったが、焦げた部分は戻らない。

 サボッテンナは俺に敵意を感じなかった。

 俺にはただ一緒に遊びたいように見える。

「おい、大丈夫か?」

 俺の問いにサボッテンナは腕を挙げていた。

 いつの間に手と足が生えたのだろうか。

 俺は植物成長グロウアップを唱えると、傷は消えていく。それに合わせて全体的に体が大きくなり、サボッテンナはより元気になったようだ。

 その姿がエナジードリンクを摂取した社畜会社員に見えてしまう。

 サボッテンナ達はまた変なダンスをしようとしていた。

「おい、そのダンスは――」

 気づいた時にはさっきと異なり、力が湧いてくる気がした。

 視界に映る桃乃のステータスも徐々に回復していた。

 サボッテンナのダンスにはバフとデバフ効果があるのだろう。

「お前らってサボってるのか、役割を果たしてるのかわからないな」

 やる気を削ぐダンスも役割を果たしていることになるが、それでも基本的にはサボっているようだ。

「めちゃくちゃ疲れてますけど大丈夫ですか?」

 すでにダンスをやめて休憩していた。

 サボッテンナは体力が尽きたのか、その場で体を半分に曲げてへたり込んでいる。どういう体の構造をして、体が折りたたまれているのか気になってしまうほどだ。

「それでこの行列どうしますか?」

 視線をずらすとサボッテンナ達の行列が出来ていた。さっき魔法をかけたのを見ていたのだろう。

「りあえず魔法をかけるか」

 俺はトレント達のように並んでいたサボッテンナに魔法をかけた。

 どこかエナジードリンクを配っている人になった気持ちだ。

 魔法をかけたサボッテンナ達はどんどん岩場から離れ、砂漠の方へ向かっていく。

 何しに行くのかはわからないが、本当に彼らはサボっていたのだろうか。

「あっ、クエストクリアしたわ」

 突然笹寺が話し出した。脳内にアナウンスが流れてきたらしい。

 全てにおいて仕様が違うので、今回も何が理由でクエストクリアになったのかもわからない。

 その後もサボッテンナ達に魔法をかけ終えると、集落に戻ることにした。





「笹寺さん……なんで手を繋いでるんですか?」

 なぜか俺と桃乃は笹寺と手を繋いでいた。ちなみに一度笹寺は穴に手を入れてみたが、弾き返されることはなかった。

 無事にクエストをクリアしたという証拠だ。

 ならなぜ今も繋いでいるのだろうか。

「いや、怖いじゃんか? 俺だけ仲間外れで知らないところにいたら、生きていけないよ」

 笹寺は目隠しをされて、この世界に来た。結局どこから来ているのかわからない笹寺は、どこに戻るのかもわからない。

 最悪どこかの国で一人で出てくるのかもしれない。

「でもその考えなら私達も巻き込まれますよね?」

 ただ、戻れてもそれから日本に帰る手段もないのが問題だ。

「そしたらお前らの腕を道連れに――」

 良からぬ発言が聞こえたため、手を離そうとしたら笹寺は強く握ってきた。

「先輩と違って私は骨格まで馬鹿じゃないので、離してください」

 おいおい、さらっと俺の悪口を言っていないか?

「おい、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえてきただが……」

「えっ、何も言ってないですよ? ほら、笹寺さん行きますよ」

「おい!」
 
 俺達は桃乃に引っ張られる形で穴の中に入って行く。 不安になっていた笹寺が笑っているなら問題ない。

 笹寺の不安な気持ちを和らげるためだったと思うことにした。

 俺達は三人で現実世界に戻った。

「はぁー、先輩が単純でよかった」

 桃乃の声はアナウンスの声にかき消されて、何を言っているのかわからなかった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...