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第二区画

146. 桃乃の策略 ※一部第三者視点

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 あれから元部長の柿谷は仕事に来なくなった。どれだけ連絡しても、繋がることはなく引き継ぎがないまま俺は仕事に追われている。

 実際部長のやっていた仕事は、さほど大変な作業でもなく、俺は勝手に引き継いで、どうにか期限に間に合わせることができた。

 部長という役職名はついたが、特に普段と変わりない。直接俺ができるものに関しては、俺がやることにして、他の人に向いているものは振り分けて仕事をしている。

 気づいた頃には、全員が定時に帰れることが当たり前になっていた。

 実際は俺が定時には帰れと言って、オフィスから追い出しているけどな。

 そういえば、この間手に入れた謎のアイテムはウィンドウが表示されたのが一度きりだ。何度見ても出ることはなかった。

 俺の目がおかしくなってきているのだろうか。

「そういえば、最近笹寺さんに会いましたか?」

「誠か? 連絡は取ってるけど会ってないぞ?」

「あのあと異世界のことに関しては何も言ってこないですか?」

 帰ってきた時には大体の説明をしたが笹寺自身から異世界の話を振ってくることはなかった。

「私も相当悩みましたからね」

 桃乃の時は仕事を休むぐらいだった。電話越しの笹寺の声は問題なさそうだ。

 現在は問題が解決するまで、自営業をしているが、今はそっちの方で忙しそうだ。

「久々に行ってみるか」

「えっ?」

 俺は仕事帰りに桃乃と一緒に笹寺の家に向かうことにした。





 笹寺道場に着くと桃乃は驚いて立ち止まっている。

「笹寺さんの道場ってこんなに大きかったんですね」

「道場をやってるってことは知ってたんか?」

「むしろ先輩知らなかったんですね」

 桃乃の言い方だと笹寺の道場が有名のようだが……。

「この辺に住んでいる人は誰も知っていると思いますよ。たしかお兄さんが――」

「おお、お前達来てたのか」

 桃乃が話そうとした瞬間に道場の扉が空いた。ちょうど習い事が終わったのか、子供達が道場から出てくる。

「あっ、この間の強いおじさ――」

「誰がおじさんだ!」

 俺は子供を捕まえるとそのまま上に投げた。コボルトと遊ぶように投げたはずが、思ったよりも投げてしまったようだ。

「うっ……」

 何事もなくキャッチすると子供は小さく震えていた。どうやら怖がらせてしまったらしい。

「あっ……すまない。お母さん達はいないよな?」

 俺は周りに保護者がいないか確認する。変な大人が子供を泣かしたとなれば問題になるはずだ。だが、子供達の反応は違った。

「おじさんもう一回やって!」

「えっ?」

「だからさっきの投げるやつもう一回やってよー!」

 どうやら子供は怖がっているのではなく、興奮して震えていたようだ。

 変にビビらせやがって。

 その後も俺は一種の遊園地アトラクションのように子供達を投げ続ける。

 今まで子供に好かれることはなかったが、これも何かスキルや称号が関係しているのだろうか。

「おじさんありがとう! また来てね」

「だからおじさんじゃないわ!」

 子供達は迎えに来た保護者とともに帰って行った。保護者は何も言わずに、"楽しそうで良いわね"と保護者同士で話していた。

「先輩お疲れ様です」

「ああ、もう疲れたわ」

 現実世界でも体力は上がった方だが、さすがに30分連続で子供を投げ続けるのは無理がある。

 次第に大人達も混ざって並んでいるため、さすがに断った。ここに来る人達はどことなく笹寺に似ている気がする。

 一方、俺が子供達と遊んでいた時に、桃乃と笹寺は話し合っていた。

「笹寺さんと話し合いの結果、明日異世界に行くそうです」

 どうやら俺の予定も聞かずに、異世界に行くことが決まったらしい。

 彼女もいないし、やることがない俺はドリアードの種に水と肥料をあげるぐらいだ。

「俺も行ったら強くなれるらしいな! だから明日一緒に行くぞ」

 特に行く予定もなかったが、桃乃が笹寺の後ろで謝っていた。きっと桃乃も断るのがめんどくさかったのだろう。

 笹寺って基本考えずに行動するため、この前話したことも忘れている気がする。

「ということだからお前の家にから行くぞ!」

「はぁん? 今か?」

「何かダメな理由はあるのか? 家なら酔っても大丈夫だろ?」

 急に話を進めたのは何か理由があるのだろうか。桃乃も初めの時は自分を変えたいと言っていた。

「おー、良いですね! なら私が何か作りますね」

 いつのまにか話が進み、俺の家に事前に泊まることになった。なぜか笹寺と桃乃はにやにやと笑っている。

 流石に男二人のところに桃乃を泊まらせるわけにはいかない。

「ちょっと準備してくるから待ってろよ」

 そう言って笹寺は道場の鍵を閉めて家の中に戻って行く。

「急に伺うことになってすみません」

「あー、ももちゃんは帰れよ?」

 俺の言葉に桃乃は残念そうにしていた。そんなに笹寺と仲良くしたいなら、二人で過ごせばいいだろう。

「そんなに笹寺さんと二人が好きなんですね」

 何か勘違いをしているような気もするが、桃乃が泊まらなければ問題ないだろう。確かに男二人なら気にしなくても良いからな。





 女はモニターの電源を消すと急いで台所に向かう。今日もいつものように作業を始める。

「まさかの一人追加なのね!」

 女は小さな冷蔵庫を開けると材料を取り出した。出てきた材料は何日分のご飯を作るのかというぐらいの量だった。

 材料を包丁で素早く切り下準備をする。その姿は早すぎて目が追いつかないほどだ。

「あー、今週もあっちの世界に行くなら早く準備したわよ。絶対あの子たくさん食べるタイプだわ」

 女は買った材料を鍋に入れると、適当に醤油や砂糖を入れ味付けをする。計量しなくてもできるのが、主婦歴の長さを物語る。

「これで肉じゃがはいいわね」

「おーい、帰ってきたぞー!」

 玄関から男の声が聞こえてきた。きっと女のことを呼んでいるのだろう。

「チッ!」

 無視して料理を続けていると、再び女を呼ぶ声が聞こえてくる。男は玄関で何かを言い続けていた。女のイライラは収まらない。

 まな板に乗っている魚には、包丁が真っ直ぐに突き刺さっていた。
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