158 / 158
第二区画

158.オークの憧れ

しおりを挟む
 そういえば変わり者のオークはルイビと名乗っていた。
 ルイビってどこかで聞いたことがある名前だ。

 確かスーパーだったような気もするが……気のせいだろうか。

 ルイビは俺に飲み水を入れたコップを渡してきた。
 オークが使う物だからなのか、それともルイビが変わり者なのかわからないが、手で挟めるような構造をしている。

「毒は入ってないので安心してください」

 俺が単にコップを興味深そうに見ていたら、怪しんでいると思われていたらしい。

「ああ」

 俺はそのまま気にせずに一口飲むと、どこか小さい時に体験した感覚に似ていた。

「雨の日に転んだ時に口に入る水の感じか……」

 俺の頭の中は幼少期の楽しかった頃を思い出す。
 美味しい水ではないし、飲めないわけではない。
 ただ、全て飲むのはやめようと体が反応している。
 きっと腹痛で数日はトイレに篭る生活になるだろう。

「そんな……」

 つい出てしまった言葉にルイビは落ち込んでいるのか体を震わせていた。
 確かに自分が出したものをそんな風に言われて嬉しいやつはいないな。
 また、俺の悪いところが出てしまったようだ。

「ああ、すま――」
「人間はそういう風に思うのか!?」
「へっ?」

 俺は思わず変な声が出てしまった。
 ルイビは落ち込んでいるわけではなかった。
 むしろ、新たなことを知れて喜んでいたらしい。
 
「ドワーフ達はみんなここの水を飲むのを嫌がってたんだが理由がわかったぞ」

 ルイビは何か板にメモするように文字を書いていく。
 その道具もペンではなく何かのすすを指につけて器用に書いている。

「それはなんだ?」
「ああ、これはメモだ! いらなくなったらこの板ごと燃やせばまた使えるんだ!」

 板をまた燃やすことで木炭となり、そこでできた煤を再びペン代わりに使っているらしい。
 思ったよりもオークは頭を使って生活していた。

「これはドワーフ達がやってたんだ!」

 どうやらドワーフの生活をマネしているらしい。
 確かに人間に憧れているのなら、自然と生活を真似していると、いつのまにか便利な生活になっていくのだろう。

 ルイビが楽しそうに話すから、俺はそんな話をしばらく聞いていた。
 ベンもオークを恐れていたのに、ルイビには慣れたのか、俺の後ろでくっついて寝ている。
 さっきまで怯えていた姿はなんだったのか。


 そんな中部屋の片隅に飾ってある実が気になっていた。
 どこからどう見ても俺が知っている実にしか見えない。

「そういえばなんでトレントの実を飾っているんだ?」
「この実を知っているのか?」
「知ってるも何もその辺にいるじゃないか」

 俺はトレントの実をいくつか取り出してルイビに手渡す。
 珍しい物なのかオークは驚いていた。

「変な剣を出した時も思ったけど、今どこからトレントの実を出し――」

 すっかり忘れていたがドワーフやオークも、アイテムを空間から取り出す者はいない。
 ちゃんと袋の中に入れるか、手で持って移動している。

「ああ、ちょっと俺が特殊だからな」

 できるのは今のところ異世界に来た人間達のみ。
 人間が全てこんなことができる存在だと誤解されると大変だ。
 ドワーフ達ができると思われて、また被害に遭うかもしれない。

 そういえば、ドワーフと言えば――。

 俺は変わり者のオークに乗せられて、本当の目的を忘れていた。
 こいつの家に遊びにきたわけではない。
 俺が真剣な顔でルイビを見ると、ルイビも気づいたのか国の内情を話し出した。

「オラ達オークは人間に憧れているって話はしたよね?」
「ああ、実際に子供達はごっこ遊びするぐらいだったからな」

 子供達はお店屋さんごっこなど、憧れているごっこ遊びをする。
 それはオークも同じでごっこ遊びをするぐらい幼少期の時に人間に憧れているのは目で見て理解した。

「そこは変わらないのか……。オラ達は大きくなるたびに人間のようにはなれないことに気づくんだ」

 確かに豚が人間になることはできないだろう。
 ただ、今のオークの姿であれば、ほぼ人間に近い存在だ。

「だから次第に成長するたび、人間になるのを諦めるやつも多い。でもどこかで人間になりたいって気持ちは忘れずに皆思っているけど、口に出しては言えないんだ」

 オーク達は自分達が人間とは異なる種族ということを理解している。
 ただ、そこまでして人間になりたい理由が気になってしまう。

「なんでそんなに人間になりたいんだ?」
「オラ達は元々bgej(\4%:<から進化して――」
「ごめん、もう一度言ってもらってもいいか?」
「ああ、オラ達は元々vg2:=4・から――」

 何度もルイビに聞き返すが、全て大事なところは何を言ってるのかわからない。
 何かシステムに邪魔をされて、変換されずに謎のままだった。

 それにだんだんとルイビの動きも遅くなってきた。
 このままでは、途中で話が終わってしまうと思い、理解しているかのように頷くと、ルイビの動きは元に戻った。

「だからオラはこの国の中では変わり者の扱いをされているんだ。ずっと人間になりたいと思っていたからね」

 人間だって小さい頃の夢を叶えられないって思うとその夢を忘れて大人になってしまう。
 それでもオーク達が諦めていないのは、彼らなりのずっと続いてきた信念みたいなものがあるのだろう。 目の前にいるオークは今もその気持ちを抱いているが、それが仲間内の中では頭がおかしいオークと言われている原因らしい。
 確かに大人がアニメのキャラになりたいといつも言っていたら、何か病気があるのではないかと疑われてしまう。

「今でもオラが変わり者なのはわかっている。だけど、初めてできた人間の友達にお願いがある」

 ルイビは真剣な顔で俺を見ていた。
 俺も何か大事なことを話すと思い、すぐに姿勢を正す。

「どうかこの国を止めて欲しい」

 震えながらルイビの口から出た言葉は人間になりたいが、自身の過ちを正せない仲間への想いなんだろう。
 そんなやつの言葉を聞かないわけにはいかない。

「おう、友達の頼みなら任せとけ!」

 俺は震えるルイビの肩を軽く叩いた。
しおりを挟む
感想 24

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(24件)

ジーン・メルト

今53話でこの先に答えがあるかも知れませんが、稼いだ金を投資に入れればデーターが残るから税務署に金の出所を疑われかねないですね。

解除
つじひつじ
2023.04.26 つじひつじ

謎がたくさんで面白いです。
はじめは穴の中でお金儲けする話、やたらにハラスメントを口にする後輩?その割に口撃してきてどうなの?って感じていましたが 現在 104話まで読んできました。

出てくる人の姓に植物が多いなぁと思っていたらついに「桃乃」「栗田」「柿谷」が揃いました。

気になったのは「清香さん」の子供の名前と桃乃妹の名前が被っていること。
関連あるのならそれも期待します。

隣のおばさん、本社の社長と秘書など、まだまだ分からないことだらけですのでこの先が楽しみです。

2023.04.27 k-ing /きんぐ★商業5作品

つじひつじ様

感想ありがとうございます!
謎を散りばめ過ぎて回収できるかわかりませんが、今後も読んで頂けると嬉しいです(*´꒳`*)

解除
solanya
2023.03.26 solanya

96話
「ってこんなの食えねーよ!」
が桃乃の台詞だとしたら違和感が…

2023.03.27 k-ing /きんぐ★商業5作品

solanya様

そこの部分はそれで大丈夫です!
結構ノリの良い女性なので……演じていた化けの皮が剥がれるほど硬かったんでしょうね笑

解除

あなたにおすすめの小説

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。