上 下
3 / 6

3.芋聖女、政略結婚させられる

しおりを挟む
「んっ……」

「ああ、起きたか」

 目を覚ますとベッドの横には父が座っていた。

 この国の宰相で王の側近でもある頭が切れる男だ。

「ローズが心配していたぞ。懐妊した妹に迷惑をかけるとは本当に使えない娘だ」

「すみません」

 私は父に愛されていないのは知っている。

 昔から優しく愛を向けられていたのは、妹のローズだけだった。

「しかもその相手がお前の婚約者だとはな。男の一人も立派に操作できずに何が聖女だ! 宰相の娘とは言えないほど頭が回らない子だとは思わなかったぞ」

 倒れたばかりの私の頬を父は強く叩いた。

 頬の痛みなのか、心の痛みなのかわからないもうわからない。

 もうこの場から消えたい。

 今すぐにでも死にたいと思うほど私は追い込まれていた。

 "婚約者を妹に奪われた惨めな聖女"

 私はこれからこうやって呼ばれるのだろう。

「これでも聖女だから、お前にはこの国のために新しい使い道がある」

 投げられた紙にはある人の名前が書かれていた。

「セイグリッド・シャーロン?」

「ああ、遠い国で関係を保つために政略結婚相手を探していたんだ」

 その言葉に嫌な予感がした。

 頭の中で警鐘が鳴り響く。

「うっ……」

 頭を抱えて苦しむ娘も気にせず、父は話を続けていく。

「相手はお前よりも20歳も上だが王位継承を放棄している王族だ。これでお前も使い道があってよかったな」

 それだけ言って父は部屋から去っていく。

 政略結婚に使われた私が、再び政略結婚に使われるとは思いもしなかった。

 死ねるなら今すぐにでもナイフを刺して空を飛んでいきたい。

 でも、聖女である私はある程度の傷であればすぐに治してしまう。

 死にたくても死ねないのがこんなに辛いとは思いもしなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄?私には既に夫がいますが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:31,382pt お気に入り:838

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,053pt お気に入り:3,116

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,465pt お気に入り:1,357

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,613pt お気に入り:3,343

言いたいことは、それだけかしら?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56,483pt お気に入り:1,300

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,907pt お気に入り:3,767

処理中です...