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2.芋聖女、妹の妊娠を知る

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私はあの日から何日か寝込んでしまった。

 受け入れたくない事実に、ただただベッドで横になるしかなかった。

 ブサイクな私の顔はきっと人に見せてはいけない顔になっているだろう。

 ――トントン

 扉のノックと共に心配した表情をした妹が入ってきた。

 今すぐに近くにある花瓶を投げたいが、そんな体力も精神も残っていない。

「お姉様ごきげんよう! 体調は大丈夫ですか?」

 何もなかったかのように、妹は私にカーテシーをして挨拶をする。

 その隣にはこの間体を重ねていた婚約者がいた。

 側から見たら義理の妹と歩いている婚約者なんだろう。

 でも、関係を知っている私からしたら略奪した妹と馬鹿な男にしか見えない。

 貴族はいつも気高く堂々と。

 私はゆっくりとベッドから起き上がり、ふらふらな体でカーテシーをして挨拶を済ます。

 こんな状態でも、カーテシーを止めようとしないのが今の現状だ。

「今日はお姉様にお願いがあって伺ったんです」

「お願い?」

 妹は私に近付いて来て、耳元で悪魔の言葉を囁く。

「私、満月の日が来ないんです」

 満月の日とは月一回来ると言われる、女性特有の血が流れてくる日のことだ。

 満月が欠けて月がなくなる頃に血が流れ落ちたら、お腹の中に子どもができていないという証拠になる。

 満月の日が来ないということは、お腹の中に赤ちゃんがいるかもしれないということになる。

「だから聖女の力で確認して欲しいの」

 私はふらふらしながらも妹に手を引っ張られながら、別の部屋に案内された。

「早くお姉様にもお腹を触って欲しいな」

 ウキウキした妹と違い、私にはそれが地獄へのカウントダウンだと感じた。

「私の部屋に入って!」

 あの時妹と婚約者が惹かれあった部屋に連れてこられて吐き気が止まらなくなる。

 私の体は思ったよりもズタボロで壊れる寸前なんだろう。

 そんな私を見て妹は微笑みながらベッドに寝転ぶ。

「お姉様はやくはやく!」

 きっとここで手を当てたら結果がわかってしまう。

 その場で立ち尽くしていると、婚約者が手を掴んだ。

「姉なら妹の頼みを聞いてやれ」

 今まで手を握ってもらったこともない私の手は、妹の妊娠を確認するために掴まれる。

 私の知らない彼の手はとても温かかった。

 ゆっくり光属性の魔力を通す。

 明らかに妹以外の別の魂を感じる。

 そこには小さく光る新しい命が芽生えていた。

「ひょっとして……」

「お腹の中に新しい命が宿っているわ」

 私の声に妹は喜んでいた。

 きっと私の婚約者との子なんだろう。

 ズタボロの私はあまりにも状況が受け入れられないのか、その場で少しずつ意識が薄れていく。

 そんな私を心配する様子もなく、二人は嬉しそうに抱き合っていた。

「お姉様のものは全部私のものよ」

 ぼやけた視界には私の方を見てにやりと笑う妹がいた。
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