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最終話.芋聖女、運命の推しに会えました
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慣れないベッドで私はゆっくりと目を覚ました。
まだ空は暗く、夜中の空に雪がちらついていた。
何も聞こえないこの環境に小さな声が聞こえて来た。
扉の外で何やら話しているようだ。
「私から彼女には帰るように伝える」
「それでは国王様の命令に背くことに――」
「私の婚約者になって良いことはない。また、人を殺すぐらいなら故郷に帰らされた方が良いだろう」
会話からして私の婚約者だとすぐにわかった。
本当に婚約者が死ぬのは合っているようだ。
私は覚悟して扉を開けた。
「この度、セイグリッド様の妻となります。メークインです」
長年身につけたカーテシーをして、顔を上げるとあまりの迫力に息が詰まりそうになる。
目の前には獣のようなマスクを被った大柄な男が立っていた。
一瞬で彼が"戦場の悪魔"と呼ばれている理由がわかった。
短い黒髪に真っ赤な瞳。
見た目が童話に出てくる悪魔にしか見えなかったのだ。
それでも私と同じ珍しい黒髪にどこかホッとしてしまった。
「私はセイグリッドだ。君には申し訳ないが今すぐ家に――」
「私は死ぬためにここに来ました。だけど、その前に私を物として扱って見捨てた家族に復讐がしたいです」
私の言葉に執事とセイグリッドは顔を見合わせている。
いきなり婚約者に死ぬために来たと言われたらこういう反応になるだろう。
「セバスすまない。少し彼女と二人きりにしてくれ」
「わかりました」
彼と結婚することが決まって、自暴自棄になったと思ったのだろう。
セイグリッドは執事のセバスに一言声をかけて、私の部屋に入って来た。
近くから感じる圧力に私は押し潰されそうになるが、それでもここに来た目的のためなら負けるわけにはいかない。
「君は本当に死にたいと思っているのか?」
彼のどこか優しい言葉にどこかドキッとしてしまった。
こんな言葉を今までかけられたこともなかった。
それでも私の気持ちは揺らぐことはない。
小さく頷くと彼は大きくため息をついた。
「私の顔には人を死に追いやる呪いがかけられている。もし、本当に死にたいのなら目を瞑ってくれ」
私は言われたように目を瞑る。
「仮面を取るから、本当に死にたいなら目を開けてくれ。まだ生きたいと願うなら向きを変えてくれ」
「ふふふ」
「笑ってどうした?」
「いえ、セイグリッド様は優しい方なんですね」
選択肢を与えてくれる彼にどこか笑ってしまう自分がいた。
戦場の悪魔は思ったよりも優しい男性だった。
私は覚悟を決めて目を開ける。
そこには光に照らされた髪がロマンスグレーに輝いていた。
「すて――」
だが、そうやって思えたのは一瞬だった。
すぐに頭痛が襲ってきた。
頭が強く殴られているような感覚にふらついてしまう。
彼は急いで仮面を付けて私を抱き寄せた。
「だから言っただろう。すぐに死ななかっただけでもよかったと思いなさい。これでここには――」
「私はセイグリッド様と結婚します! むしろ結婚させてください!」
「うぇ!?」
私は頭痛とともに過去の記憶が蘇ってきた。
死ぬ間際までやっていた乙女ゲームに出てくる攻略対象者である兄の顔が黒塗りで見えなかったことを……。
声と弟思いの兄に私は一瞬にして彼の虜になった。
推し活をしようと思っても、モブ扱いの彼の顔を見ることができなかった。
だから手作りしたアクリルスタンドやポスターはいつも黒塗りだった。
でも、あの人がこんなにイケオジだったとは思いもしなかった。
再び彼の仮面に触れてゆっくりと持ち上げる。
私を支えている彼は手が離せないのだろう。
やっと見ることが出来た愛しの推しに小さな声で囁く。
「やっと見つけた私の王子様」
私の声に彼は瞳の色のように顔を赤く染めていた。
視線を合わせようとしても、斜め上を見てはチラチラと私の顔を見ている。
「すまない。今までそんなことを言われたこともないからどうすればいいのかわからない。皆、私の顔を見たら話せなくなるのだ」
話せなくなるから顔を逸らしているのか、恥ずかしいから逸らしているのかはわからない。
でも推しが照れている姿はファンにとっては最高のご褒美だ。
「セイグリッド様こちらを見てください」
彼の顔を掴むとゆっくりと私に視線を合わせる。
やっと間近で見れた推しの姿に私の胸の鼓動は早くなる。
「やっぱり悪魔の呪いが!?」
私がドキドキしているのが、振動して伝わっているのだろう。
それでも私の胸の高鳴りは静まることはない。
聖女としての力が働いて彼の呪いは私には効かないのだろう。
「もう一度言います。私と結婚してください」
「えっ……いや……」
「結婚しないと死んじゃいます」
私の言葉に彼は大きく首を振っていた。
思っていたよりも不器用でどこか戸惑っている可愛い姿にさらに魅了された。
これからは自分のためではなく、彼のために生きよう。
人に愛されるのではなく、人を愛する人になろうと私は誓う。
「セイグリッド様は私が幸せにします」
今日も私は小さな声で愛を囁いた。
───────────────────
【あとがき】
現在ファンタジー小説大賞に参加しています。応援して頂けると嬉しいです!
~タイトル~
偽物聖女は孤児院を守るママ聖女となる~もふもふちびっこ獣人は今日も元気いっぱいです~
ちなみにこの作品はカクヨムで連載していますので、よければそちらもお願いします!
まだ空は暗く、夜中の空に雪がちらついていた。
何も聞こえないこの環境に小さな声が聞こえて来た。
扉の外で何やら話しているようだ。
「私から彼女には帰るように伝える」
「それでは国王様の命令に背くことに――」
「私の婚約者になって良いことはない。また、人を殺すぐらいなら故郷に帰らされた方が良いだろう」
会話からして私の婚約者だとすぐにわかった。
本当に婚約者が死ぬのは合っているようだ。
私は覚悟して扉を開けた。
「この度、セイグリッド様の妻となります。メークインです」
長年身につけたカーテシーをして、顔を上げるとあまりの迫力に息が詰まりそうになる。
目の前には獣のようなマスクを被った大柄な男が立っていた。
一瞬で彼が"戦場の悪魔"と呼ばれている理由がわかった。
短い黒髪に真っ赤な瞳。
見た目が童話に出てくる悪魔にしか見えなかったのだ。
それでも私と同じ珍しい黒髪にどこかホッとしてしまった。
「私はセイグリッドだ。君には申し訳ないが今すぐ家に――」
「私は死ぬためにここに来ました。だけど、その前に私を物として扱って見捨てた家族に復讐がしたいです」
私の言葉に執事とセイグリッドは顔を見合わせている。
いきなり婚約者に死ぬために来たと言われたらこういう反応になるだろう。
「セバスすまない。少し彼女と二人きりにしてくれ」
「わかりました」
彼と結婚することが決まって、自暴自棄になったと思ったのだろう。
セイグリッドは執事のセバスに一言声をかけて、私の部屋に入って来た。
近くから感じる圧力に私は押し潰されそうになるが、それでもここに来た目的のためなら負けるわけにはいかない。
「君は本当に死にたいと思っているのか?」
彼のどこか優しい言葉にどこかドキッとしてしまった。
こんな言葉を今までかけられたこともなかった。
それでも私の気持ちは揺らぐことはない。
小さく頷くと彼は大きくため息をついた。
「私の顔には人を死に追いやる呪いがかけられている。もし、本当に死にたいのなら目を瞑ってくれ」
私は言われたように目を瞑る。
「仮面を取るから、本当に死にたいなら目を開けてくれ。まだ生きたいと願うなら向きを変えてくれ」
「ふふふ」
「笑ってどうした?」
「いえ、セイグリッド様は優しい方なんですね」
選択肢を与えてくれる彼にどこか笑ってしまう自分がいた。
戦場の悪魔は思ったよりも優しい男性だった。
私は覚悟を決めて目を開ける。
そこには光に照らされた髪がロマンスグレーに輝いていた。
「すて――」
だが、そうやって思えたのは一瞬だった。
すぐに頭痛が襲ってきた。
頭が強く殴られているような感覚にふらついてしまう。
彼は急いで仮面を付けて私を抱き寄せた。
「だから言っただろう。すぐに死ななかっただけでもよかったと思いなさい。これでここには――」
「私はセイグリッド様と結婚します! むしろ結婚させてください!」
「うぇ!?」
私は頭痛とともに過去の記憶が蘇ってきた。
死ぬ間際までやっていた乙女ゲームに出てくる攻略対象者である兄の顔が黒塗りで見えなかったことを……。
声と弟思いの兄に私は一瞬にして彼の虜になった。
推し活をしようと思っても、モブ扱いの彼の顔を見ることができなかった。
だから手作りしたアクリルスタンドやポスターはいつも黒塗りだった。
でも、あの人がこんなにイケオジだったとは思いもしなかった。
再び彼の仮面に触れてゆっくりと持ち上げる。
私を支えている彼は手が離せないのだろう。
やっと見ることが出来た愛しの推しに小さな声で囁く。
「やっと見つけた私の王子様」
私の声に彼は瞳の色のように顔を赤く染めていた。
視線を合わせようとしても、斜め上を見てはチラチラと私の顔を見ている。
「すまない。今までそんなことを言われたこともないからどうすればいいのかわからない。皆、私の顔を見たら話せなくなるのだ」
話せなくなるから顔を逸らしているのか、恥ずかしいから逸らしているのかはわからない。
でも推しが照れている姿はファンにとっては最高のご褒美だ。
「セイグリッド様こちらを見てください」
彼の顔を掴むとゆっくりと私に視線を合わせる。
やっと間近で見れた推しの姿に私の胸の鼓動は早くなる。
「やっぱり悪魔の呪いが!?」
私がドキドキしているのが、振動して伝わっているのだろう。
それでも私の胸の高鳴りは静まることはない。
聖女としての力が働いて彼の呪いは私には効かないのだろう。
「もう一度言います。私と結婚してください」
「えっ……いや……」
「結婚しないと死んじゃいます」
私の言葉に彼は大きく首を振っていた。
思っていたよりも不器用でどこか戸惑っている可愛い姿にさらに魅了された。
これからは自分のためではなく、彼のために生きよう。
人に愛されるのではなく、人を愛する人になろうと私は誓う。
「セイグリッド様は私が幸せにします」
今日も私は小さな声で愛を囁いた。
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【あとがき】
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~タイトル~
偽物聖女は孤児院を守るママ聖女となる~もふもふちびっこ獣人は今日も元気いっぱいです~
ちなみにこの作品はカクヨムで連載していますので、よければそちらもお願いします!
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……えっ?
とりあえず妹の腹を突き破って魔王が産まれるところまでは書いてくれないと、判断がつかないですね……。
もしくは元婚約者とともに実家が燃え落ちるとか。
平和の象徴とやらを追い出すとか、戦争が近いんでしょうか、この国。