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16.筋肉令嬢、任務を与えられる ※一部アシュレイ視点
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「ははは、見晴らしが良くなりましたね」
道中にあった木もなくなり、砂が外に押し出され、まっすぐと旧セラフと続く道ができている。
これで移動しやすく――。
「おい、リリナ! このままじゃ魔物がセラフに来やすくなるじゃねーか!」
アシュレイは私に詰め寄ってくる。
そんなに怒ることでもないのに、なぜカリカリしているのだろうか。
私としては特に問題はないと思っている。
「あそこにいるのはゴブリンとトカゲさんですよ?」
「どうせ、そのゴブリンってやつも――」
「オーガだったよ!」
アシュレイの服を引っ張りながら、ジャックはアシュレイに伝える。
それを聞いていたアシュレイは私をジーッと見つめている。
ジャックはまだゴブリンのことをオーガと勘違いしているようだ。
「ジャック、あれはゴブリンだよ。だって、オーガって私よりも力が強い魔物ですよ?」
「「「ないない」」」
なぜか私以外の人に否定されてしまった。
オーガは人間よりも力が強く、その見た目と凶暴さが特徴的な魔物と魔物事典に書いてあった。
だから、私よりも弱く、オドオドした優しい姿はオーガではなく、ゴブリンで間違いない。
「そんなに言うなら、明日行ってみようか」
「「ルシアン様!?」」
ルシアン様の提案にガレスさんとアシュレイは驚いていた。
そんなに疑うなら、私も一度は見たほうが良いと思う。
「せっかく湯浴み場と池も作ったんだよね?」
「はい!」
きっと完成していなかったら、私は解雇ってことだろう。
言葉の節々にそれを感じる。
「では、私は今すぐに準備してきます!」
アクアナッツはすでに渡してあるから問題ない。
ジャックもセラフまですぐだから、ガレスさんたちが連れてってくれるだろう。
「おっ、おい! どこに行くんだよ!」
アシュレイが何かを言っていたが、気にせずに私は急いで旧セラフに戻っていく。
♢ ♢ ♢
俺は目の前の光景に驚きを隠せない。
突然、アースドラゴンが現れたと思ったら、後輩が空から降ってきて、アースドラゴンの侵攻を止めて、湯浴み場と池も作ったとか……これは夢なのか?
「ガレスさん、リリナがいなくなったけど大丈夫ですか……?」
「いや、向こうの反応次第だな」
そして、最後にはアースドラゴンを放置して、あいつは旧セラフに走って行ったからな。
俺はガレスさんと共に、ルシアン様を守るようにアースドラゴンに立ち向かう。
『ははは、お前たちに手は出さないぞ。そんなことをしたら、わしの命がなくなるからな』
アースドラゴンは遠い目をしていた。
あいつは一体何をやったら、陸上最強のアースドラゴンをここまで脅かすのだろうか。
聞いてもきっと「拳で……」って答えそうな気がする。
「私はお前を許すわけにはいかない」
そんな中、ルシアン様のアースドラゴンを見る目が深く澱んでいた。
もう何世代も前の話だ。それでも失われたものの価値は、何ひとつ色褪せていない。
その目は、今こそ過去に向き合う時だと語っていた。
領地を奪われたルシアン様にとっては、アースドラゴンは忌々しい存在だろう。
『その髪色に瞳――。そうか……お前はこの領地を継ぐものか』
アースドラゴンはルシアン様をみて、何かに気づいたのだろう。
身を屈めて頭を地面につけた。
『……あの時の私は他の連邦王国の呪縛に操られておった。今頃謝っても許されまい。この身で償えるのなら、首の一つや二つ……くれてやろう。欲しければ切り落とすが良い』
重く響く言葉達。地鳴りのようなその声に、空気が張り詰める。
ルシアン様は私の剣を奪い、アースドラゴンに近づいていく。
ルシアン様は無言のまま、まっすぐアースドラゴンを見つめる。
「「ルシアン様!」」
俺とガレスさんが静止しようとするが、ルシアン様は手を伸ばして、無言で近づくなという意思を感じた。
ルシアン様はアースドラゴンの目の前まで歩み寄ると、大きく剣を振りかぶった。
そして――。
「そんなのはいらない!」
振り下ろした剣は、アースドラゴンの首ではなく、大地に深く突き刺さる。
まるで罪を断ち切る意思の象徴のように、揺るぎなく剣は刺さっていた。
でも……あれって俺の剣なんだよな……。
そんなことを思っても言える雰囲気ではない。
「あなたは私たちを守るために、魔物を遠ざけていた。それは私も知っている」
『ななな、そんなことは――』
アースドラゴンは顔を上げてあたふたとしている。
「私たちセラフに住む人たちは、旧セラフを奪われた時と奪還した時しか魔物に襲われていない。それはあなたが魔物を遠ざけていたからではないですか?」
確かに他の国が魔物に襲われたという報告は時折聞くことがある。
ただ、セラフはあれ以来魔物の被害はない。
警鐘が鳴ったのが今日が初めてかと思うほどだ。
「きっと私たちが旧セラフを奪還しようとしていた時にやられたのは、リリナがゴブリンと言っていた魔物だろう」
『ギクッ!?』
「あなたがやった過去は許されるわけではない。ただ……いつまでも恨むような弱い人間でもない」
ルシアン様の表情は何かを決意しているような瞳だ。
俺はあの顔を見て、ルシアン様について行こうと決めたのだ。
姿が小さくなってもルシアン様の気持ちは変わらない。
それを改めて感じたとともに、俺は一生ルシアン様の側で戦うことを誓う。
ただ、俺の手元には剣がない。
今もまだ突き刺さっているからな。
『ふぉふぉ、こりゃーあいつがお前を気に入る理由がわかった』
「いや……私はリリナに何もしていないよ」
俺はルシアン様がリリナとどうやって出会って、連れてきたのかはわからない。
ただ、ルシアン様は無自覚に人を惹きつける才能があるからな。
『明日、またあいつとともに向かいにいく。楽しみにしておれ』
そう言って、アースドラゴンは走って旧セラフに向かって帰っていく。
本当に騒がしくて何がしたかったのかわからない。
「ふぅー、何もなくってよかったよ」
大きく息を吐きながら、ルシアン様は安堵な表情を浮かべていた。
さっきまでは再び旧セラフのようになると思っていたからね。
ただ、アースドラゴンが近づいてきているのに、ルシアン様が最前線まで来ていたのは、よほどさっきの言い分に自信があったのだろう。
「さすがルシアン様です」
「ああ、ありがとう。まさか適当に言ったことが当たっていたとはね!」
「えっ……」
ルシアン様の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
アースドラゴンの考えを知っていると思っていたのに、まさかその場の行き当たりばったりだとは……。
「ルシアン様、もうヒヤヒヤさせるのはやめてください」
「ははは、何かまずいことがあったらガレスが守ってくれるだろ?」
「それはそうだが……」
どうやらガレスさんも何となく、ルシアン様が無計画に動いていたことに気づいていたようだ。
さすがルシアン様の一番の騎士であり、騎士団の長を務めるだけのことはある。
「それにあれだけリリナに震えていたのに、私に何かしたらどうなるかはわかるだろう?」
「「はぁー」」
俺とガレスさんは大きくため息をつく。
本当にあいつはアースドラゴンに何をしたのだろうか。
ただ、これからルシアン様の側にいるには、心臓がいくつあっても足りなさそうな気がする。
「じゃあ、帰ろうか」
ルシアン様はセラフに向かって歩き出した。
俺は急いで地面に刺さってる剣を抜き……あれ、抜けないぞ?
何度も引っ張るが中々剣は抜けないようだ。
ルシアン様って思っているよりも、力が強い人なのかもしれない。
「もしくは……あのプロテインのおかげ……いや、ないか」
さすがにあの泥水のような飲み物で、体に変化が起きることはないからな。
でも、飲んだあの日の晩は胸が熱くなって、ドキドキして寝られなかった。
ひょっとしてあれもプロテインの効果だろうか。
「おい、アシュレイ何している!」
ガレスさんが振り返って、俺を呼んでいる。
「今すぐに行きます!」
俺は思いっきり力を入れて、剣を抜き取ってルシアン様を追いかけた。
道中にあった木もなくなり、砂が外に押し出され、まっすぐと旧セラフと続く道ができている。
これで移動しやすく――。
「おい、リリナ! このままじゃ魔物がセラフに来やすくなるじゃねーか!」
アシュレイは私に詰め寄ってくる。
そんなに怒ることでもないのに、なぜカリカリしているのだろうか。
私としては特に問題はないと思っている。
「あそこにいるのはゴブリンとトカゲさんですよ?」
「どうせ、そのゴブリンってやつも――」
「オーガだったよ!」
アシュレイの服を引っ張りながら、ジャックはアシュレイに伝える。
それを聞いていたアシュレイは私をジーッと見つめている。
ジャックはまだゴブリンのことをオーガと勘違いしているようだ。
「ジャック、あれはゴブリンだよ。だって、オーガって私よりも力が強い魔物ですよ?」
「「「ないない」」」
なぜか私以外の人に否定されてしまった。
オーガは人間よりも力が強く、その見た目と凶暴さが特徴的な魔物と魔物事典に書いてあった。
だから、私よりも弱く、オドオドした優しい姿はオーガではなく、ゴブリンで間違いない。
「そんなに言うなら、明日行ってみようか」
「「ルシアン様!?」」
ルシアン様の提案にガレスさんとアシュレイは驚いていた。
そんなに疑うなら、私も一度は見たほうが良いと思う。
「せっかく湯浴み場と池も作ったんだよね?」
「はい!」
きっと完成していなかったら、私は解雇ってことだろう。
言葉の節々にそれを感じる。
「では、私は今すぐに準備してきます!」
アクアナッツはすでに渡してあるから問題ない。
ジャックもセラフまですぐだから、ガレスさんたちが連れてってくれるだろう。
「おっ、おい! どこに行くんだよ!」
アシュレイが何かを言っていたが、気にせずに私は急いで旧セラフに戻っていく。
♢ ♢ ♢
俺は目の前の光景に驚きを隠せない。
突然、アースドラゴンが現れたと思ったら、後輩が空から降ってきて、アースドラゴンの侵攻を止めて、湯浴み場と池も作ったとか……これは夢なのか?
「ガレスさん、リリナがいなくなったけど大丈夫ですか……?」
「いや、向こうの反応次第だな」
そして、最後にはアースドラゴンを放置して、あいつは旧セラフに走って行ったからな。
俺はガレスさんと共に、ルシアン様を守るようにアースドラゴンに立ち向かう。
『ははは、お前たちに手は出さないぞ。そんなことをしたら、わしの命がなくなるからな』
アースドラゴンは遠い目をしていた。
あいつは一体何をやったら、陸上最強のアースドラゴンをここまで脅かすのだろうか。
聞いてもきっと「拳で……」って答えそうな気がする。
「私はお前を許すわけにはいかない」
そんな中、ルシアン様のアースドラゴンを見る目が深く澱んでいた。
もう何世代も前の話だ。それでも失われたものの価値は、何ひとつ色褪せていない。
その目は、今こそ過去に向き合う時だと語っていた。
領地を奪われたルシアン様にとっては、アースドラゴンは忌々しい存在だろう。
『その髪色に瞳――。そうか……お前はこの領地を継ぐものか』
アースドラゴンはルシアン様をみて、何かに気づいたのだろう。
身を屈めて頭を地面につけた。
『……あの時の私は他の連邦王国の呪縛に操られておった。今頃謝っても許されまい。この身で償えるのなら、首の一つや二つ……くれてやろう。欲しければ切り落とすが良い』
重く響く言葉達。地鳴りのようなその声に、空気が張り詰める。
ルシアン様は私の剣を奪い、アースドラゴンに近づいていく。
ルシアン様は無言のまま、まっすぐアースドラゴンを見つめる。
「「ルシアン様!」」
俺とガレスさんが静止しようとするが、ルシアン様は手を伸ばして、無言で近づくなという意思を感じた。
ルシアン様はアースドラゴンの目の前まで歩み寄ると、大きく剣を振りかぶった。
そして――。
「そんなのはいらない!」
振り下ろした剣は、アースドラゴンの首ではなく、大地に深く突き刺さる。
まるで罪を断ち切る意思の象徴のように、揺るぎなく剣は刺さっていた。
でも……あれって俺の剣なんだよな……。
そんなことを思っても言える雰囲気ではない。
「あなたは私たちを守るために、魔物を遠ざけていた。それは私も知っている」
『ななな、そんなことは――』
アースドラゴンは顔を上げてあたふたとしている。
「私たちセラフに住む人たちは、旧セラフを奪われた時と奪還した時しか魔物に襲われていない。それはあなたが魔物を遠ざけていたからではないですか?」
確かに他の国が魔物に襲われたという報告は時折聞くことがある。
ただ、セラフはあれ以来魔物の被害はない。
警鐘が鳴ったのが今日が初めてかと思うほどだ。
「きっと私たちが旧セラフを奪還しようとしていた時にやられたのは、リリナがゴブリンと言っていた魔物だろう」
『ギクッ!?』
「あなたがやった過去は許されるわけではない。ただ……いつまでも恨むような弱い人間でもない」
ルシアン様の表情は何かを決意しているような瞳だ。
俺はあの顔を見て、ルシアン様について行こうと決めたのだ。
姿が小さくなってもルシアン様の気持ちは変わらない。
それを改めて感じたとともに、俺は一生ルシアン様の側で戦うことを誓う。
ただ、俺の手元には剣がない。
今もまだ突き刺さっているからな。
『ふぉふぉ、こりゃーあいつがお前を気に入る理由がわかった』
「いや……私はリリナに何もしていないよ」
俺はルシアン様がリリナとどうやって出会って、連れてきたのかはわからない。
ただ、ルシアン様は無自覚に人を惹きつける才能があるからな。
『明日、またあいつとともに向かいにいく。楽しみにしておれ』
そう言って、アースドラゴンは走って旧セラフに向かって帰っていく。
本当に騒がしくて何がしたかったのかわからない。
「ふぅー、何もなくってよかったよ」
大きく息を吐きながら、ルシアン様は安堵な表情を浮かべていた。
さっきまでは再び旧セラフのようになると思っていたからね。
ただ、アースドラゴンが近づいてきているのに、ルシアン様が最前線まで来ていたのは、よほどさっきの言い分に自信があったのだろう。
「さすがルシアン様です」
「ああ、ありがとう。まさか適当に言ったことが当たっていたとはね!」
「えっ……」
ルシアン様の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
アースドラゴンの考えを知っていると思っていたのに、まさかその場の行き当たりばったりだとは……。
「ルシアン様、もうヒヤヒヤさせるのはやめてください」
「ははは、何かまずいことがあったらガレスが守ってくれるだろ?」
「それはそうだが……」
どうやらガレスさんも何となく、ルシアン様が無計画に動いていたことに気づいていたようだ。
さすがルシアン様の一番の騎士であり、騎士団の長を務めるだけのことはある。
「それにあれだけリリナに震えていたのに、私に何かしたらどうなるかはわかるだろう?」
「「はぁー」」
俺とガレスさんは大きくため息をつく。
本当にあいつはアースドラゴンに何をしたのだろうか。
ただ、これからルシアン様の側にいるには、心臓がいくつあっても足りなさそうな気がする。
「じゃあ、帰ろうか」
ルシアン様はセラフに向かって歩き出した。
俺は急いで地面に刺さってる剣を抜き……あれ、抜けないぞ?
何度も引っ張るが中々剣は抜けないようだ。
ルシアン様って思っているよりも、力が強い人なのかもしれない。
「もしくは……あのプロテインのおかげ……いや、ないか」
さすがにあの泥水のような飲み物で、体に変化が起きることはないからな。
でも、飲んだあの日の晩は胸が熱くなって、ドキドキして寝られなかった。
ひょっとしてあれもプロテインの効果だろうか。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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